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2章

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 キラキラと光を受けて真っ白な髪が白銀色に輝く。
 触れている指先が心地よくていつまでも触っていたくなるのは幼体の頃と変わらない。
 櫛を通すたびに美しさが増していくが

「もぉ、やーの」

 早く遊びたいとアルゼに逃げられてしまった。



 櫛に残った白い髪の毛を集めて木箱に入れる。
 この木箱は俺が子供のころ父に教わって初めて作ったものだ。
 中には俺の宝物が詰まっている。
 宝物と言っても拾った綺麗な石や買ってもらった綺麗な紐などだが。

 最近入れたものは白い柔毛の塊。
 これはアルゼが幼体だったころの物だ。
 片手に収まるほどの大きさのそれを見るたびに幼体のアルゼを思い出す。
 初めて出会ったあの日のこと。
 俺の寝床で一緒に寝ていたあの日。


 掌に乗るくらい小さい可愛い白いアルゼがいなくなって、今は人化したアルゼがいる。
 同じアルゼなのに、なぜ姿形だけでこうも反応が違ってしまうのか。

 外で小動物とはしゃぐアルゼの声が聞こえる。
 アルゼを性の対象にしてしまっている後ろめたさ。
 せめてアルゼが獣化できれば、こんなことはしなくなるかもと教えてみたがアルゼが獣化できることはなかった。

 アルゼの髪を梳かす赤い石が嵌め込まれたこの櫛は、母が結婚する時に母親から譲られたものだ。
 見た目の細工も素晴らしく価値のあるもので、俺の髪を梳かすにはもったいなくて宝箱に仕舞っていた。
 この美しい櫛は俺のような醜い毛を梳かすにはふさわしくない。

 白銀色に煌めく白い髪の毛を箱に収める。



「おぇー!」

「どうした」

 頬をピンク色に染めて喜色満面のアルゼが戻ってくるなり俺の手を引いて外へ連れ出す。


「みて!せぜも、こども」

 指さす切り株の上にはセゼモの親と子供がチョコンと座っていた。

「せぜも、ちっちゃい、かーいい、ね」

 傍に座り込んだアルゼの肩にはチョシが乗ってアルゼの髪にいたずらしている。
 春に戻ってきた生き物たちが繁殖する時期は狩りの時期でもある。
 出産後の母獣や子供は狩りやすく、この時期に沢山狩って干し肉にしておくのだ。

 そんな考えが頭をよぎった瞬間、咥内に唾液が沸く。

 セゼモの親子がアルゼの膝に乗りクズ野菜を食べている。


 今なら手を伸ばせば簡単に捕まえられる--------


 こんな近距離に生き物がいることなんてなかった。
 けれどアルゼがいれば、俺でも1ムタレ程まで近づける。

「あい、ちっちゃいのせぜも」

 アルゼが渡してきた掌に乗った温かくて柔らかい生き物が、無防備に俺の掌の上でピルピルと鳴いている。
 慌てて飛んできた親セゼモが一瞬俺の顔を見てから子セゼモをかばうように茶色い羽根を広げる。

「せぜも、だいじょぶ、よ。おぇ、やさし、よ」

 小さな生き物。
 食料でしかなかったもの。

 その命が掌の上で存在して呼吸している。

 軽いはずのそれがとてつもなく重く感じて、そっとアルゼの膝へ返す。

「ね!かーいい、でしょ」

 アルゼの膝で安心したように親子でセゼモが寛ぐ。
 俺とは違う反応。
 だが、未だかつて生きたまま俺が触れられる生き物なんていなかった。


 アルゼといると俺でも生き物と触れ合える--------

 誰からも恐れられ嫌われ逃げられる存在だった俺は変われてるのかもしれない。



「ちょし、おなかおっき」

 確かにアルぜの膝に乗ったチョシのおなかが大きい。

「たべすぎ、めーよ」

 頬袋が膨らんだチョシに注意をし、クズ野菜を取り上げようとする。

「チョシはお腹に赤ちゃんがいるんだよ」

 見れば肩に乗っているルセのおなかもふっくらしている。

「あかちゃ?なに?」

「赤ちゃんは子供のことだ」

 生き物は春に交尾をして春の終わりに子供が生まれることを説明する。

「ちょし、ちっちゃいの、くる?」

「そうだ、そのうち出てくるぞ」

「どこ、から?」

 しげしげとチョシのお腹を見つめるアルゼがとんでもないことを言いだした。


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