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 夕飯が終わった後、毎晩湯を沸かし布を浸し1日の汚れを拭う。
 風呂もあるが両親が亡くなってからは面倒なので拭くだけだ。

 アルゼを膝に乗せ手足から順に温かい布で拭ってやる。

『あっちゃかい』

「夏になれば川で行水できるからそれまではこれで我慢してくれ」

 風呂に湯を溜めていれてやろうかとも考えたが、幼体の頃は俺も入ってなかったのでいいかと思い直した。


「お前はちゃあんと毛づくろいしてるから拭かなくても綺麗だな」

 少し長くなった毛並みの鬣部分が光の当たり具合で白銀色に見え、それはたいそう美しかった。


 綺麗になったアルゼを寝室の寝床に寝かせた後、居間で裸になり自分の体を拭っていく。
 夜はまだ寒いが手早く布を取り換えながら全身を拭き上げるとサッパリとする。
 尻尾の先まで拭き上げ急いで衣服を着ると寝室からじっと見ているアルゼに気づいた。

『おれ、うつくしい、ね』


 何を言ってるのかわからなかった。
 真っ黒な髪と耳と尻尾、アルゼ異質な存在な俺が美しいわけがなかろうに。

 寝床に戻りアルゼの横に体を滑り込ませると、すかさず左わき腹に縋り付いてくる。
 暖かい体からフンワリとアルゼの良い香りが漂ってきて、抱き寄せその頭に顔をうずめクンクンと匂いを嗅ぐ。
 キャハハと笑うアルゼが柔らかい肉球で頬を触ってくる。
 柔らかくて暖かくて幸せであっという間に睡魔が襲ってくる。

『おれ、いいこ、ね』

 幼体の頃、よく母さんが眠るまで言ってくれた言葉。


【いい子ね、大好きよ--------】

(母さんと同じ事を言うんだな。)

 頬を撫でられるのが気持ちよくて睡魔にあらがえず、幸せな気分のまま眠りに落ちた。

 *


 日の出とともに目が覚めた俺は、アルゼを寝床に残しソッと居間へと移動する。
 畑で食べ頃な野菜を収穫し、湯を沸かし調理する。


「アルゼ起きろ、朝だぞ」

 窓辺には数匹の鳥たちが集まりチュンチュンとアルゼに起きろと鳴いている。
 寝床でピクリともしないアルゼに不安になる。

 近寄り耳をすませばスースーと寝息が聞こえ安堵する。

「アルゼ、ご飯食べないのか?」

 ピクリと耳が震えモゾモゾと体が動く。

「今朝はミゼニとデウカンだ」

 口元が動きモニャモニャと意味のない音を出す。

「早く起きないとなくなっちゃうぞ」

 そう言った途端パチンと目が開きピョンと俺の膝に飛びついてきた。


『やー、の!おきる、おきた!』

 寝床から出たばかりのホカホカの温かい体が膝の上に乗る重みが愛しい。

『デウカン、すき』

 ヘンニャリと笑う目元が今日も愛らしい。


 アルゼが食べやすいようにミゼニを少しのテビクの蜜でトロトロに甘く柔らかく炊いた。
 小さめのデウカンは実がまだ柔らかいので歯ごたえが残る程度に小さく刻んだ。

 誰かのために食事を用意することが幸せだと感じれるなんて--------

 小さな鼻づらの横にキスをするとキャハハと漏らす笑い声。
 こんな俺だから結婚なんて望むこともなく、子供なんて永遠に得られないと思っていたが。


 子育てとはこんなに楽しくて幸せなことなんだな。



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