ひとりぼっちの嫌われ獣人のもとに現れたのは運命の番でした

angel

文字の大きさ
上 下
7 / 119

7

しおりを挟む
 異変は朝の空に表れていた。
 いつもは山頂を取り巻く雲がなく、空は夕焼けよりも赤く染まる。
 これは春の嵐の前兆だ。

 冬の終わりを告げるセターメ春の嵐が今年もやってくるのだ。
 丸1ドウも続くセターメで家が壊れてしまわないように外から板をうちつける。
 アルゼの出入り口である通気口にも頑丈な板を打ち付けると、寝室の中でじっとしてるように言いつけたアルゼが窓から心配げに空を見つめていた。

「心配ない」

 窓の鎧戸を閉め外から板で補強する。
 ここに住むようになってからずっと俺はこうしてセターメを乗り越えてきた。

 これが終われば本格的な春がやってくる--------



 夜までに家を補強し、畑の作物に覆いをかけ石で重しをする。
 どれだけ被害が出ずにすむかは神のみぞ知るだ。

 日が暮れるとガタガタと風が強くなってきた。
 俺の行動がいつもと違いすぎてアルゼが不安を感じてるのが気配でわかる。

「まだまだもっと風が強くなるぞ」

 いつもなら繰り返す言葉も出ないほど緊張しているのか。

「だいじょうぶだ。俺が補強した家は壊れない。」

 ソワソワと篭の寝床で動くアルゼ。
 外の音を聞き漏らすまいと耳を立て、体をこわばらせている。
 ビョービョーと音がすごくなってきた風におびえ、篭の中で飛び上がる。

「…怖いならこっちに来るか?」

 来ないだろうと思いつつも聞いてみる。


 けれどアルゼは篭の中で丸くなるばかりで居間に来る気はないようだ。

 獣人の子供はセターメの間、母親の懐で丸くなって過ごす。
 母の腕の中にいると荒れ狂う風の音が小さくなり、トクントクンと鳴る心臓の音と、優しい母が歌う里歌に安心して眠るんだった。
 懐かしいなと思い出しながら、小さな声で歌いだす。

 〔ひとーつ はるのーよーにー 〕

 昔、母が父が歌ってくれた鎮め歌。
 自分でも驚くほどに覚えていたその歌を歌う声を大きくしていく。

 〔ふたーつ かぜーのーかみさまーぴゅうーとふいーたー〕

 風の音に負けないように

 〔みーっつー とーうさん ふーきかえしー 〕

 父のように力強く、母のように優しく

 〔よーつー かあーさーんのうーでのーなかー 〕

 たいした意味のない音遊びのような鎮め歌を、何度も繰り返す歌ううちにスピスピと寝息が聞こえてくる。



「抱きしめてやれればな…」 と埒もないことを独り言つ。


 誰もが恐れるアルゼ異質な存在な俺と一緒にセターメを超えてくれる家族が出来ただけで神に感謝だ。






 セターメ春の嵐が去り日常が戻ってくる。

 思ったより被害がなかった畑に安堵しながら、荒れた家周りを修復していく。
 修復が終わるまで寝室から出るなと言い聞かせたアルゼが窓から外を見ている。
 外から打ち付けた通気口の板をはずしてやると、体が大きくなったせいで窮屈そうにヨジヨジと出てきた。

 いつまでもあんな場所から出入りさせてられないな--------

 そうは思うのだがアルゼは寝室以外入ろうとはしない。

『ここアルゼの、いえ』


 寝室のカゴの中でそういうアルゼに

「こっちもアルゼの家だぞ」

 と教えても頑なに言うことを聞かない。


 縄張り意識が強い獣人なのか--------

『それ、おれのいえ、アルゼのちあう』


 おれとは俺のことだ。
 アルゼは俺の名前を知らないから、俺が言う俺ってのを名前だと認識していた。

「ちあう じゃない。ちがう、だ」

 言葉の間違いを指摘しつつ、俺は少し傷ついていた。


 やはり嫌われ者の俺なんかとは一緒の部屋にはいたくないのか--------







 今日は崖の途中に生える香草のクケリゴを取りに行くと決め、どこに行くにもついてくるアルゼに留守番するように言い聞かせる。
 クケリゴと一緒に煮れば、食べにくい作物も子供が喜ぶ味になる。

『アルゼ、るすばん』

「そうだ、ここにいてニッテの殻から実を取り出すんだ」

 ソワソワと落ち着かない様子のアルゼに作業を与え、一抹の不安を覚えながらも家を出た。
 一緒の部屋に入ってこないことに俺は大人げなくもすねていたのかもしれない。
 昼飯にとアルゼの好きなウンカの蒸してやわらかくしたものも置いてきた。

 崖を降りながら久々に一人で心置きなく採集をしていた
 昼飯のウンカを食べながらアルゼも食っただろうかと考える。

 日が暮れるまでに早く取り終えて帰ってやらないと--------

 手早く食べ終えクケリゴ採集を再開した、その時


 ガササッという音と共に上から小石が落ちてくる。
 見上げると同時に白い体が宙に舞うのが見えた。




「………アルゼ!!!」




しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

オメガバα✕αBL漫画の邪魔者Ωに転生したはずなのに気付いた時には主人公αに求愛されてました

和泉臨音
BL
 落ちぶれた公爵家に生まれたミルドリッヒは無自覚に前世知識を活かすことで両親を支え、優秀なαに成長するだろうと王子ヒューベリオンの側近兼友人候補として抜擢された。  大好きな家族の元を離れ頑張るミルドリッヒに次第に心を開くヒューベリオン。ミルドリッヒも王子として頑張るヒューベリオンに次第に魅かれていく。  このまま王子の側近として出世コースを歩むかと思ったミルドリッヒだが、成長してもαの特徴が表れず王城での立場が微妙になった頃、ヒューベリオンが抜擢した騎士アレスを見て自分が何者かを思い出した。  ミルドリッヒはヒューベリオンとアレス、α二人の禁断の恋を邪魔するΩ令息だったのだ。   転生していたことに気付かず前世スキルを発動したことでキャラ設定が大きく変わってしまった邪魔者Ωが、それによって救われたα達に好かれる話。  元自己評価の低い王太子α ✕ 公爵令息Ω。  

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...