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3 キラキラ光る毛
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コトンという物音で目が覚める。
シンと冷えた空気の中、窓から差し込む朝日が眩しい。
寝室の様子を伺うがなんの気配もしない。
出て行ったのか、眠っているのか-------
椅子で寝たためにガチガチに凝り固まった筋肉を伸ばしていると、ふと窓辺になにかがあるのを見つけた。
立ち上がり、窓越しに見ると茶色いなにかがチョコンと置かれている。
昨夜、閉めた時にはこんなものはなかった。
窓を開けると落としてしまいそうなので、一旦外に出て確認しに行く。
窓辺に置かれた茶色いものは細い細いガビエの根と生えたばかりであろう早春の野草の芽。
家の中を振り返り、寝室の扉を見つめる。
(鳥が運んできた…とは考えにくいな)
鳥がこの山頂に来るにはまだ季節が早い。
きっとあの幼体はこのような物を食べて、生き物全てが死に絶えるこの厳しい山頂で生き抜いたのだ。
俺への貢ぎ物だろうか。
朝早く、おそらく暗いうちから探したんだろう。
窓の桟には土汚れがついていて、また掃除する場所が増えたと嫌な気分になるはずが俺は小さな声を出して笑っていた。
*
毎年、村から戻ってきたら畑を耕し、種を撒く。
だが今年の畑は様子が違った。
いつもは土が固く、掘り返すのにひと手間なのに、あちこちに掘り返した跡があり容易に耕すことができた。
(あいつは畑に残ったくず野菜や根を食べていたのか)
冬のこのへんは多い所では3ムタレほども雪が積もる。
幼体の身であろうにそんな中で土の下の食べ物を見つけ出し、掘り返して食べていたとは。
【冬眠もしない、厳冬の山頂で生き抜ける俺を恐れない獣人】
そんな生き物に出会ったのは初めてだった。
作業を終え、一息つこうと鍋で湯を沸かし、イラオの根を煮詰めた滋養に良いとされる飲み物を作る。
独特な匂いのするこの飲み物は、その匂いに反してウッスラ甘くよく疲れが取れる。
椅子に腰かけイラオ湯を飲みながら寝室の扉を見る。
このままでは俺は今夜もこの椅子で寝ることになる。
どうにかアイツに出て行ってもらう術はないものか。
扉の向こうで動く気配がする。
手の中でぬるくなったイラオ湯。
もしこれをアイツにやったらどんな反応をするんだろう?
興味本位で寝室の扉を細く開き、けれど寝室には入れずにこちらの部屋に器を置いた。
反応がない。
いや威嚇の空気ととまどいと緊張感は伝わってくる。
ジリジリとお互いの反応をうかがう時間がもどかしく俺は声をかけてしまう。
「匂いはアレだが飲むとうまいぞ」
そう言った途端、扉のすぐ近くにあった気配が寝床の奥まで逃げてしまった。
しまったと思ったがもう遅い、
仕方がないので器をそのままに俺は家から出た。
俺は一体アイツをどうしたいのだろう。
そんなことを考えながら薪を割る。
俺を怖がらない生物。
そんなものがこの世にいるなんて思いもしなかった。
(もしアイツがずっとここにいてくれるなら…)
村を追い出され、両親が亡くなってからずっと孤独に生きてきた。
会話をするのは村人が冬眠に入る前と起きてきた直後に族長とほんの数言話すだけ。
ここ数年、やたらと独り言が増えたのは言葉を忘れてしまうことへの恐怖なのか。
割った薪を揃え、家の脇に積み上げる。
早春の今頃でも夜は薪をくべないと寒くていられないというのにアイツは生き抜いたというのか?
何度考えても答えが出ないのに何度も考えてしまう。
族長ならば何か知ってるだろうか-------
次に村に降りるのは秋の終わり、聞こうにも先過ぎてそれまでアイツがここにいるかはわからない。
---------『ボクのいえだ!』
子供らしい高い声の獣人特有の心話でアイツはそう言った。
あの警戒心を解かないことには、共同生活もままならないなと考えた時、寝室の扉を開けっぱなしてたことを思い出した。
しまった---------
居間やキッチンまで汚されてしまったらたまったものじゃない。
慌てて家に戻ると、出て行った時のまま変化はなかった。
よかった、荒らされてない---------
こちらには入ってこなかったのか。
開いたままの扉から寝室を伺いみると、先ほどのイラオ湯の入った器がすっかり空になり床に置かれていてアイツの姿はなかった。
外に出たのか?-------
寝室に入り通気口を見るとキラキラ光る毛がついていた。
(これが…アイツの体毛か?)
ふわふわとした綿毛のような短い体毛。
それは今までに見たことがない色をしていた。
こんな色の生物は知らない。
俺が知っている獣人は茶色しかいないし、獣や鳥だとしても茶か灰色のものしかいない。
この世界で俺だけが真っ黒という異質な存在だった。
手に乗せた空に浮かぶ雲よりも白い体毛。
柔らかくて光が当たるとキラキラと光る体毛を手にたちすくむ。
一体アイツは何なんだ--------
シンと冷えた空気の中、窓から差し込む朝日が眩しい。
寝室の様子を伺うがなんの気配もしない。
出て行ったのか、眠っているのか-------
椅子で寝たためにガチガチに凝り固まった筋肉を伸ばしていると、ふと窓辺になにかがあるのを見つけた。
立ち上がり、窓越しに見ると茶色いなにかがチョコンと置かれている。
昨夜、閉めた時にはこんなものはなかった。
窓を開けると落としてしまいそうなので、一旦外に出て確認しに行く。
窓辺に置かれた茶色いものは細い細いガビエの根と生えたばかりであろう早春の野草の芽。
家の中を振り返り、寝室の扉を見つめる。
(鳥が運んできた…とは考えにくいな)
鳥がこの山頂に来るにはまだ季節が早い。
きっとあの幼体はこのような物を食べて、生き物全てが死に絶えるこの厳しい山頂で生き抜いたのだ。
俺への貢ぎ物だろうか。
朝早く、おそらく暗いうちから探したんだろう。
窓の桟には土汚れがついていて、また掃除する場所が増えたと嫌な気分になるはずが俺は小さな声を出して笑っていた。
*
毎年、村から戻ってきたら畑を耕し、種を撒く。
だが今年の畑は様子が違った。
いつもは土が固く、掘り返すのにひと手間なのに、あちこちに掘り返した跡があり容易に耕すことができた。
(あいつは畑に残ったくず野菜や根を食べていたのか)
冬のこのへんは多い所では3ムタレほども雪が積もる。
幼体の身であろうにそんな中で土の下の食べ物を見つけ出し、掘り返して食べていたとは。
【冬眠もしない、厳冬の山頂で生き抜ける俺を恐れない獣人】
そんな生き物に出会ったのは初めてだった。
作業を終え、一息つこうと鍋で湯を沸かし、イラオの根を煮詰めた滋養に良いとされる飲み物を作る。
独特な匂いのするこの飲み物は、その匂いに反してウッスラ甘くよく疲れが取れる。
椅子に腰かけイラオ湯を飲みながら寝室の扉を見る。
このままでは俺は今夜もこの椅子で寝ることになる。
どうにかアイツに出て行ってもらう術はないものか。
扉の向こうで動く気配がする。
手の中でぬるくなったイラオ湯。
もしこれをアイツにやったらどんな反応をするんだろう?
興味本位で寝室の扉を細く開き、けれど寝室には入れずにこちらの部屋に器を置いた。
反応がない。
いや威嚇の空気ととまどいと緊張感は伝わってくる。
ジリジリとお互いの反応をうかがう時間がもどかしく俺は声をかけてしまう。
「匂いはアレだが飲むとうまいぞ」
そう言った途端、扉のすぐ近くにあった気配が寝床の奥まで逃げてしまった。
しまったと思ったがもう遅い、
仕方がないので器をそのままに俺は家から出た。
俺は一体アイツをどうしたいのだろう。
そんなことを考えながら薪を割る。
俺を怖がらない生物。
そんなものがこの世にいるなんて思いもしなかった。
(もしアイツがずっとここにいてくれるなら…)
村を追い出され、両親が亡くなってからずっと孤独に生きてきた。
会話をするのは村人が冬眠に入る前と起きてきた直後に族長とほんの数言話すだけ。
ここ数年、やたらと独り言が増えたのは言葉を忘れてしまうことへの恐怖なのか。
割った薪を揃え、家の脇に積み上げる。
早春の今頃でも夜は薪をくべないと寒くていられないというのにアイツは生き抜いたというのか?
何度考えても答えが出ないのに何度も考えてしまう。
族長ならば何か知ってるだろうか-------
次に村に降りるのは秋の終わり、聞こうにも先過ぎてそれまでアイツがここにいるかはわからない。
---------『ボクのいえだ!』
子供らしい高い声の獣人特有の心話でアイツはそう言った。
あの警戒心を解かないことには、共同生活もままならないなと考えた時、寝室の扉を開けっぱなしてたことを思い出した。
しまった---------
居間やキッチンまで汚されてしまったらたまったものじゃない。
慌てて家に戻ると、出て行った時のまま変化はなかった。
よかった、荒らされてない---------
こちらには入ってこなかったのか。
開いたままの扉から寝室を伺いみると、先ほどのイラオ湯の入った器がすっかり空になり床に置かれていてアイツの姿はなかった。
外に出たのか?-------
寝室に入り通気口を見るとキラキラ光る毛がついていた。
(これが…アイツの体毛か?)
ふわふわとした綿毛のような短い体毛。
それは今までに見たことがない色をしていた。
こんな色の生物は知らない。
俺が知っている獣人は茶色しかいないし、獣や鳥だとしても茶か灰色のものしかいない。
この世界で俺だけが真っ黒という異質な存在だった。
手に乗せた空に浮かぶ雲よりも白い体毛。
柔らかくて光が当たるとキラキラと光る体毛を手にたちすくむ。
一体アイツは何なんだ--------
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