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2 幼体
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頭の上に、短い毛が生える茶色いさんかくの耳、尻尾は優雅に細長いリウアン族。
俺の親も村人たちと同じリウアン族だったのに、突然変異なのか俺という異端児が生まれた。
見た目はリウアン族と変わりなく耳と尾があったが、その色が真っ黒だったことと、瞳がみなとは違い小川に反射する太陽の光のようにギラギラしていて、俺の目を見た人は得体のしれない恐怖で腰を抜かすほどだった。
両親がなんとか守ってくれて成人までは村で生きることができたが、成人し体格が村人より頭2つ分も大きくなった俺を村人たちは村から追いだした。
「リウアン族じゃない異端児め」
子供のころから差別され、孤独に生きてきた。
冬眠する村人や両親の横で、ただひたすら春が来るのを待った冬眠できない俺は、やはり異端児なのだ。
*
その俺と同じく冬眠しない生物?
閉めた扉の向こうの寝室は何の物音もせず静まり返っている。
出て行ったのか-------
荷をほどき、冬眠している冬の間 村を守った謝礼として手に入れた布を取り出す。
あの生き物に汚された布はもともと取り換えて雑巾にでもするつもりだったからいいんだが掃除が大変そうだなとため息が出る。
家を出て外から寝室を伺うがあの生き物の気配はなかった。
一体どこから来たのか。
幼体で一人でこんな山の上まで来れるなどと考えにくいが、もう二度と会うこともないだろう生物のことを考えるのはやめ凍った川から水を汲み、食事の準備をはじめた。
竈に秋にはいでおいて乾燥させた木の皮をくべ、大きな炎へと育てる。
上に乗せた大鍋でシュンシュンと湯をわかせば温かい空気が家の中に満ちてくる。
持ち帰った乾燥野菜と香菜を鍋に入れ煮詰める間、やっかいな寝室の掃除をするかと重い腰を上げた。
寝室への扉へ手をかけた瞬間、頭の後ろの毛が一気に逆立つ。
(まだいる)
とっくに去ったと思ってたのは、あの幼体が気配を消してただけだと悟った。
妙な感覚だった。
あの幼体は俺の瞳をまっすぐに見た。
村人の誰しもが、親でさえも直視することが出来なかった恐ろしい瞳。
嫌われ恐れられる異端児の俺の瞳をまっすぐに見ることなど、野生の獣でも不可能なことなのに。
幼体は一体何者なんだ-------
寝室の扉にかけた手をはずし、椅子へと座ると威嚇の空気は消え去る。
親以外にこんなに近くに、人や獣と触れ合うことがなかった俺は少し楽しい気分になってきた。
立ち上がり、作っていた干し野菜と香草を煮たものを木の器に盛りつけ、立ったまま食う。
村人は秋に収穫した作物を目いっぱい腹の中に収めて冬眠する。
その残りを冬の間、俺は食って生き延びるんだがしばらくすると腐ってしまう。
そこで俺は野菜を細く切り、乾燥させて保存するという技を見つけた。
そもそもは偶然の産物だったが、これのおかげで俺は皆の冬眠明けまで生き延びることができた。
美味いかと聞かれたら美味くはない。
気持ち程度入れた香草の香りがする歯ごたえのあるデウカンを食べ終え一息つくと眠気がやってくる。
寝室で寝る…ことは出来そうにない。
威嚇の気配がなくなり、あの幼体がまだいるのかどうかわからないが器にデウカンの残りをよそい寝室の扉を細く開く。
一気に威嚇の空気を感じるが全く怖くなどない。
そっと器を扉の隙間から差し込み再び扉を閉める。
何の生き物か何を食べるのかもわからないのに。
自分がおかしなことをしてるのは理解している。
出て行ってほしいのに餌付けしようとしているのだから。
過去、何度か野生の動物を餌付けしようとしたが、俺を見ただけで人も獣も恐れ逃げ出す。
何が違うというのだ-------
バシャ
器をひっくり返したような音がした後、小さな悲鳴が聞こえた。
熱かったのか?
いやそんなことはない、火からおろして5ムヌッテはたっているし湯気ももうたっていなかった。
気に食わずひっくり返したのだろう--------
デウカンまみれの床を想像し、バカなことをしたと後悔する。
掃除は明日まとめてすればよい。
疲れた俺は新しい布をたぐりよせ、くるまって椅子に座ったまま寝ることにした。
*****************************************
獣人:人の姿で獣耳と尻尾が特徴
幼体:まだ人のカタチを取ることができない獣姿
俺の親も村人たちと同じリウアン族だったのに、突然変異なのか俺という異端児が生まれた。
見た目はリウアン族と変わりなく耳と尾があったが、その色が真っ黒だったことと、瞳がみなとは違い小川に反射する太陽の光のようにギラギラしていて、俺の目を見た人は得体のしれない恐怖で腰を抜かすほどだった。
両親がなんとか守ってくれて成人までは村で生きることができたが、成人し体格が村人より頭2つ分も大きくなった俺を村人たちは村から追いだした。
「リウアン族じゃない異端児め」
子供のころから差別され、孤独に生きてきた。
冬眠する村人や両親の横で、ただひたすら春が来るのを待った冬眠できない俺は、やはり異端児なのだ。
*
その俺と同じく冬眠しない生物?
閉めた扉の向こうの寝室は何の物音もせず静まり返っている。
出て行ったのか-------
荷をほどき、冬眠している冬の間 村を守った謝礼として手に入れた布を取り出す。
あの生き物に汚された布はもともと取り換えて雑巾にでもするつもりだったからいいんだが掃除が大変そうだなとため息が出る。
家を出て外から寝室を伺うがあの生き物の気配はなかった。
一体どこから来たのか。
幼体で一人でこんな山の上まで来れるなどと考えにくいが、もう二度と会うこともないだろう生物のことを考えるのはやめ凍った川から水を汲み、食事の準備をはじめた。
竈に秋にはいでおいて乾燥させた木の皮をくべ、大きな炎へと育てる。
上に乗せた大鍋でシュンシュンと湯をわかせば温かい空気が家の中に満ちてくる。
持ち帰った乾燥野菜と香菜を鍋に入れ煮詰める間、やっかいな寝室の掃除をするかと重い腰を上げた。
寝室への扉へ手をかけた瞬間、頭の後ろの毛が一気に逆立つ。
(まだいる)
とっくに去ったと思ってたのは、あの幼体が気配を消してただけだと悟った。
妙な感覚だった。
あの幼体は俺の瞳をまっすぐに見た。
村人の誰しもが、親でさえも直視することが出来なかった恐ろしい瞳。
嫌われ恐れられる異端児の俺の瞳をまっすぐに見ることなど、野生の獣でも不可能なことなのに。
幼体は一体何者なんだ-------
寝室の扉にかけた手をはずし、椅子へと座ると威嚇の空気は消え去る。
親以外にこんなに近くに、人や獣と触れ合うことがなかった俺は少し楽しい気分になってきた。
立ち上がり、作っていた干し野菜と香草を煮たものを木の器に盛りつけ、立ったまま食う。
村人は秋に収穫した作物を目いっぱい腹の中に収めて冬眠する。
その残りを冬の間、俺は食って生き延びるんだがしばらくすると腐ってしまう。
そこで俺は野菜を細く切り、乾燥させて保存するという技を見つけた。
そもそもは偶然の産物だったが、これのおかげで俺は皆の冬眠明けまで生き延びることができた。
美味いかと聞かれたら美味くはない。
気持ち程度入れた香草の香りがする歯ごたえのあるデウカンを食べ終え一息つくと眠気がやってくる。
寝室で寝る…ことは出来そうにない。
威嚇の気配がなくなり、あの幼体がまだいるのかどうかわからないが器にデウカンの残りをよそい寝室の扉を細く開く。
一気に威嚇の空気を感じるが全く怖くなどない。
そっと器を扉の隙間から差し込み再び扉を閉める。
何の生き物か何を食べるのかもわからないのに。
自分がおかしなことをしてるのは理解している。
出て行ってほしいのに餌付けしようとしているのだから。
過去、何度か野生の動物を餌付けしようとしたが、俺を見ただけで人も獣も恐れ逃げ出す。
何が違うというのだ-------
バシャ
器をひっくり返したような音がした後、小さな悲鳴が聞こえた。
熱かったのか?
いやそんなことはない、火からおろして5ムヌッテはたっているし湯気ももうたっていなかった。
気に食わずひっくり返したのだろう--------
デウカンまみれの床を想像し、バカなことをしたと後悔する。
掃除は明日まとめてすればよい。
疲れた俺は新しい布をたぐりよせ、くるまって椅子に座ったまま寝ることにした。
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獣人:人の姿で獣耳と尻尾が特徴
幼体:まだ人のカタチを取ることができない獣姿
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