上 下
2 / 119

2 幼体

しおりを挟む
 頭の上に、短い毛が生える茶色いさんかくの耳、尻尾は優雅に細長いリウアン族。
 俺の親も村人たちと同じリウアン族だったのに、突然変異なのか俺という異端児が生まれた。

 見た目はリウアン族と変わりなく耳と尾があったが、その色が真っ黒だったことと、瞳がみなとは違い小川に反射する太陽の光のようにギラギラしていて、俺の目を見た人は得体のしれない恐怖で腰を抜かすほどだった。
 両親がなんとか守ってくれて成人までは村で生きることができたが、成人し体格が村人より頭2つ分も大きくなった俺を村人たちは村から追いだした。

「リウアン族じゃない異端児め」

 子供のころから差別され、孤独に生きてきた。
 冬眠する村人や両親の横で、ただひたすら春が来るのを待った冬眠できない俺は、やはり異端児なのだ。






 *

 その俺と同じく冬眠しない生物?
 閉めた扉の向こうの寝室は何の物音もせず静まり返っている。

 出て行ったのか-------

 荷をほどき、冬眠している冬の間 村を守った謝礼として手に入れた布を取り出す。
 あの生き物に汚された布はもともと取り換えて雑巾にでもするつもりだったからいいんだが掃除が大変そうだなとため息が出る。

 家を出て外から寝室を伺うがあの生き物の気配はなかった。

 一体どこから来たのか。
 幼体で一人でこんな山の上まで来れるなどと考えにくいが、もう二度と会うこともないだろう生物のことを考えるのはやめ凍った川から水を汲み、食事の準備をはじめた。

 竈に秋にはいでおいて乾燥させた木の皮をくべ、大きな炎へと育てる。
 上に乗せた大鍋でシュンシュンと湯をわかせば温かい空気が家の中に満ちてくる。
 持ち帰った乾燥野菜と香菜を鍋に入れ煮詰める間、やっかいな寝室の掃除をするかと重い腰を上げた。





 寝室への扉へ手をかけた瞬間、頭の後ろの毛が一気に逆立つ。

(まだいる)

 とっくに去ったと思ってたのは、あの幼体が気配を消してただけだと悟った。


 妙な感覚だった。
 あの幼体は俺の瞳をまっすぐに見た。

 村人の誰しもが、親でさえも直視することが出来なかった恐ろしい瞳。
 嫌われ恐れられる異端児の俺の瞳をまっすぐに見ることなど、野生の獣でも不可能なことなのに。

 幼体アレは一体何者なんだ-------


 寝室の扉にかけた手をはずし、椅子へと座ると威嚇の空気は消え去る。
 親以外にこんなに近くに、人や獣と触れ合うことがなかった俺は少し楽しい気分になってきた。

 立ち上がり、作っていた干し野菜と香草を煮たものを木の器に盛りつけ、立ったまま食う。
 村人は秋に収穫した作物を目いっぱい腹の中に収めて冬眠する。
 その残りを冬の間、俺は食って生き延びるんだがしばらくすると腐ってしまう。
 そこで俺は野菜を細く切り、乾燥させて保存するという技を見つけた。
 そもそもは偶然の産物だったが、これのおかげで俺は皆の冬眠明けまで生き延びることができた。
 美味いかと聞かれたら美味くはない。
 気持ち程度入れた香草の香りがする歯ごたえのあるデウカンを食べ終え一息つくと眠気がやってくる。
 寝室で寝る…ことは出来そうにない。

 威嚇の気配がなくなり、あの幼体がまだいるのかどうかわからないが器にデウカンの残りをよそい寝室の扉を細く開く。
 一気に威嚇の空気を感じるが全く怖くなどない。
 そっと器を扉の隙間から差し込み再び扉を閉める。

 何の生き物か何を食べるのかもわからないのに。
 自分がおかしなことをしてるのは理解している。
 出て行ってほしいのに餌付けしようとしているのだから。
 過去、何度か野生の動物を餌付けしようとしたが、俺を見ただけで人も獣も恐れ逃げ出す。

 何が違うというのだ-------


 バシャ


 器をひっくり返したような音がした後、小さな悲鳴が聞こえた。
 熱かったのか?
 いやそんなことはない、火からおろして5ムヌッテはたっているし湯気ももうたっていなかった。

 気に食わずひっくり返したのだろう--------

 デウカンまみれの床を想像し、バカなことをしたと後悔する。
 掃除は明日まとめてすればよい。
 疲れた俺は新しい布をたぐりよせ、くるまって椅子に座ったまま寝ることにした。

 *****************************************

 獣人:人の姿で獣耳と尻尾が特徴
 幼体:まだ人のカタチを取ることができない獣姿
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...