この両手を伸ばした先に

angel

文字の大きさ
上 下
127 / 149
誘拐

11

しおりを挟む
***テオフィル視点***

殿下の指示通り、ここ10年の貴族の子弟の資料をかき集め捜査本部に戻ってきたのは月が真上に登る頃だった。

殿下はソファに背を預け眠っておられる。麗しい目の下には隈が出来、髪は乱れてしまっている。
男爵家の使用人に指示し、毛布を持ってこさせ起こさぬようにそっとかける。別の椅子で眠りこける、ここの息子にも毛布をかけるよう指示した。


誘拐―――

その事実は気の毒ではあるが、出自も定かでない庶民で、しかも兄が犯人では同情の余地もない。
このようにジュリアス様を煩わす小さいチビめ…。できればこのまま帰ってくるな。

私の希望とは裏腹に、モゾモゾと起き出した男爵家の小倅こせがれが私の持ってきた資料で見つけてしまった。


「こいつだ―――間違いない」

その書類には、【 退学 】の赤い判がつかれていた。卒業アルバムで見つからないはずだ。

カーティス・ラ・トゥールそれが犯人の名前で地方伯爵の次男となっていた。

ジュリアス様はすぐに伯爵の領地を調べろと命じ、領地以外に潜伏先になりそうな所有物件も洗うように命じた。
さすが我が君、将来の王にふさわしい行動力・判断力に感服する。



私のほうに向き直ると、両手を握りしめその麗しい額にあて「ありがとう…テオ、さすが有能なオレの執事だ」

王に勲章をいただくよりも嬉しい言葉を賜った。そのように喜ばれると、あのチビを見つけ出しもっと喜ばせて差し上げたいと思ってしまう。



ジュリアス様のために、今後もこの赤目の犯人探しに微力ながらお手伝いしましょう。






****コピー視点****

お屋敷を一人で抜け出してしまった。

前に1度だけ逃げ出したことがあった。
複製品であることに耐えられず逃げ出したボクを夜通し探して連れ戻し「心配しただろバカッ!」と抱きしめてくれた。あの時のように探しに来てはくれないだろう。
なぜならご主人さまはフェルオリジナルを手に入れたんだから…。
もうボクがアイサレルことなんてない。

休憩しながら街まで夜通し歩いた。街に着くころには朝になってた。

足が痛い…お腹が空いた。食べ物を求め市場を歩く。美味しい匂いのパンを手に入れ貪り食った。
喉が乾いて広場の水飲み場で水を飲んでいると、後ろから肩を掴まれた。

「フェルっ!!」

振り向くと驚いた顔をした汗だくの年上の男の子がそこにいた。

「あ――ごめん人違い」

オリジナルの知り合いかな? こんな朝早くから探してるのか…

なんでオリジナルばかりがこんなにも求められるのか。自分はコピーだから?
そんな事を考えているとその少年が抱きしめてきた。

「お前…そんな不安そうな顔するなよ 迷子か?一緒にかーちゃん探してやろうか?」 なんて言ってきた。

人の良さそうな、そのソバカスの少年を見ているボクの口は
「母さんは…死んだ」 なぜだか言わなくていいことを言ってた。



「そうか」といい更に抱きしめてくる。この少年の腕はご主人さまみたいに温かい……

「それでそんな迷子みたいな目してんだな かわいそうに」


(かわいそうに…かわいそうに…かわいそうに…)

「ボ…ックはかわいそうなんかじゃないっ!!」なぜだか叫んでしまっていた。



フェル オリジナル ボク コピー
誰もボクを求めない 空気以下の存在だ
こんなボクが消えたって誰も悲しまない…



「お前…泣きたい時は泣いて良いんだぞ?」そういいボクをベンチに座らせた。


秋風が少し寒い石畳の広場。
ここは…前にご主人さまが連れてきてくれた広場だ。
小鳥にパンくずを一緒にあげたあの時の…

「はい」そういって目の前にアイスキャンディーが差し出された

「一緒に食おうぜ」

そういって隣に座り、色違いのキャンディーを食べだした。

ボクも1口かじる 甘い味が口に広がる。
あの時もご主人さまが、これの赤いのを買ってくれた。すごくおいしくて嬉しくて2つも食べさせてもらった。
今もらったこの黄色いのもとてもおいしい。


ご主人様に会いたい…でも今頃ご主人様はオリジナルと一緒に……



「さっき間違えたのって…友達?」少年に聞く。

「うん 親友だフェルってんだ」ソバカスだらけの顔でニカッと笑う。

「いなくなったの?」

「そうなんだ 昨日からみんなでずっと探してる」



オリジナルは何人も探してくれる人がいるんだ。ボクなんてご主人さましか… 
いや もう誰もいないのに。




見つからなければいい。 
ご主人さまが幸せであるならオリジナルと一緒にどこか遠くに行けばいいんだ。

「早く食べないと溶けるぞ」

「うん…」


「オレ 今はフェル探すので忙しいけどさ ひまんなったら一緒に遊ぼうぜ!友達も紹介するよ、いいやつばっかだからさ。だから そんな寂しそうな顔すんなよ!」

そういって電話番号と名前を紙に書き、ボクの手に握らせ去っていった。何回も振り向きながら手を振る少年が見えなくなった。

(こんなのもらっても…ボクはもう死ぬんだから)

誘拐の時に使った催眠スプレーを持ってきてた。高い場所でコレを使って眠ったまま落ちれば死ねるだろう。用無しになった複製品は死ぬだけだ。

生きてたって何もいいことなんかありゃしない。


『そこのお前 生きたいか?』


生きたかった…ずっとご主人さまの側で―――
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...