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誘拐

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―――王都にあるブライス男爵邸―――

「殿下 王立警察の全力を上げて目下怪しい車両の捜索中です」

そう言ったのはクリストフェルの父であり、王立警察長官ブライス男爵だ

ジュリアスは長い髪を1つに束ね、顔色がひどく悪い

「王の許可は取った、総動員して一刻も早くフェルを見つけてくれ 
 ここを捜査本部とする 使える人員は全て投入しろ」

テキパキと命令を下した

公務に向かう途中だったが
クリストフェルから、フェルが誘拐されたと連絡を受けて
公務を放り出し駆けつけたが
あれから2時間、事態は何の進展もないままだ

一般警察と違い王立警察は相手の身分に関わらずに
令状なしの家宅捜索が可能であるなど、その機動力は絶大だ

口ひげを蓄えたダンディな長官が、部屋の隅の椅子に座る息子に
再度見たことを話すように言う
「『久しぶりだな…探したぞ』と犯人はそう言ったんだな?」
頭を抱え項垂れたままクリストフェルはコクンと頷く

「犯人は確かにフェルの義兄なのか?」ジュリアスが問う

「はい…フェルが『にぃさま』って言ったので確かなはずです
 その後なにかスプレーのようなものを吹き付けられて
 気がついたら男もフェルもいなかった……」


クリストフェルの肩が震えている

「オレがついていながら…申し訳ありません」

「お前が悪いわけじゃない気に病むな」

心の動揺を抑えつつ、クリストフェルの肩に手を置き
慰める言葉をかけ長官に視線を移す

「犯人の人相は?」

「運転手によると年の頃は20前後、細身で伸長は170cmくらい
 濃茶の髪に赤褐色の瞳だそうです」

「手配書を作り、王都で聞き込みを展開しろ」

「御意」

気持ちはあせるばかりだが、手がかりが少なすぎる
現状、出来ることを進めるしかない




考え込んでいたクリストフェルが頭を上げた

「オレ…あいつ見たことある…気がする」

「なんだって!」「なんだと!?」


「いつ?どこで?知り合いなのか!?」
クリストフェルの前に跪くジュリアスに長官が慌てる

「殿下!お立ちください 臣下に跪くなどと…
     クリスお前は椅子から降りて跪かんか!」

息子を叱責する

「…どこだ?
   ……ずっと考えてるけど出てこないんだ… クソッ!クソクソクソッ!!」

頭を掻きむしり悶えるように床に膝立ちになるクリストフェル


「なんという言葉遣いを!殿下の御前だぞ…「うるさいっ!!」」

長官の言葉を遮ったのはジュリアスだ


「言葉遣いとかどうでもいい!!…クリストフェルの思考を邪魔するな!」

怒気を孕んだ顔で長官を一瞥すると、すぐにクリストフェルに向き直る

「……ゆっくりでいい 頼む思い出してくれ」


いつも優雅で、冷静沈着で
無表情にも見える王子なのに、別人のように感情がダダ漏れだ
(こんなジュリアス様を 見たことがない…) 

長官はずっと引っかかってたある疑問を口にした



「誘拐されたフェル殿は、愚息の友人で
 我が家に遊びに来る途中で拉致されたと聞きましたが
 ジュリアス様も…友人であられるのですか?」

ただの一般人の1生徒の誘拐で、王子が飛んできたの不可解だった



ユックリと立ち上がったジュリアスは
長官の両腕を痛いほど掴み、目をまっすぐ見つめ答えた

「……………大事な人だ」





「オレの…命よりも大事な人だ 頼む―――見つけてくれ」

そのままズルズルと床に崩れるように項垂れ縋った

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感想 3

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