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第7章 神の手のひらの上で

【60】 Deicida  オーディンside

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現実とは思えない、夢であれと願う。私を一人残して行くというのか?
寝台の上にはシルヴィが造った木彫人形が並んでいた。これは…シルヴィの大事な家族だ。

『ボクはこの世界に来る前の神との約束で前世に戻してもらえることになってるので、ちょっと行ってきますね』
シルヴィは………こんな嘘だらけのラブレターなんか書いて、私が騙されるとでも思っているのか?


私は知っていた。シルヴィがこの家族よりも私を選んでくれたことを。
神棚の神を見上げ問う。

「神よ…シルヴィは私と結ばれるために王にならないという選択肢を選んだのだ」

あの時シルヴィは言った。

『ボクにはずっと帰りたい場所があるんだけど、ソコに帰るには王にならないと帰れないんだ』と。

「それでも私を選んでくれた。家族も大事な人も全て諦め私のそばにいるという未来を。…なのにこの仕打なのか?」

立ち上がり神へと躙り寄る。
この神を初めて見た時シルヴィは『こんなところにいたんだ…』と確かにそういった。
あれから暇を見てはここに訪れ、神に祈りを捧げていたシルヴィ。アウレリア教でもない、どこのなにかもわからぬ神に熱心に祈っていた。

「なのに…シルヴィを連れて行くというのか?」



ならば―――




「私もスグに行こう、首を洗って待ってろ」 私は黒服が帯剣している剣を抜き放った。


「殿下!なりませんっ」 「妃殿下の意思をお汲みください」黒服たちが足元に跪く。

自死はならぬと…シルヴィはそういった。新しく愛を探し妃を娶れと…
そんなこと…できるはずもない
なぜならば私は知っている。この手紙よりもシルヴィの本心を知っているのだから。

祭壇に散らばる鳥の形に折られた紙。それを黒服に開くように指示する。
広げられた四角い紙、そこにはシルヴィの文字があった。

『オーディンとおじぃちゃんになるまで一緒にいさせてください』
『エーリス民がもっと豊かに幸せに暮らせますようお願いします』

次々と開いていく黒服、それを匠に読み上げさせる。

『エンディミオン叔父の治政が平穏でありますように』
『シアーズの人々が戦争に巻き込まれませんように』

複雑に折られた紙の鳥を黒服たちが手分けして開いてゆく。

『現世の家族の悲しみが早く癒えますように』
『両親が長生きしますように、兄が島で嫁をとり両親の面倒をみてくれてますように』
『大学の奨学金がチャラになってますようにお願いします』
『あのアパート事故物件になっちゃって賠償金とか…?それもチャラにお願いします!』
『現世のボクは最初から生まれてすらいなかったことにしてもらって構いません。そのほうが家族たちも…ボクも』

黒服たちが訝しむ。なんのことかわからぬのだろう。

『オーディンの悲しみが長引かないようにお願いします』
『みんながボクのことを忘れないでいてくれると嬉しいな』
『リュドミールが大きくなる姿が見たかったな』
『黒服さんたちにはスッゴクスッゴクお世話になったのに何も返せなかった。どうかみんながケガなどしませんように』

黒服たちの堪えきれない嘆き声が上がる。

『オーディン…また会えるよね?』
『やだな、一緒におじぃちゃんになりたかったな…』
『神様のケチ!ハゲ!王様になれなくったって…もっと寿命くれてもいいじゃんか』


残り数羽になった紙の鳥。


『オーディンがボク以外を愛するだなんてヤダ、ボクだけを愛してて』
『【タカハシさん】オーディンを見張っててね、ベッドに誰か連れ込みそうになったらそのジト目で殺しちゃってください』


何を心配することがある。そんなことするわけなかろうに。


『こんなに人を好きになれるって知らなかったよ。オーディンに出会わせてくれてありがとう神様』




そして

最後の1つ、これは私も読んだことがないな、今日書いたのだろう。歪んだ文字、シルヴィ自身で書いたと思われるそれを開いた私は…口を押さえ声にならぬ叫びをあげた。

シル…シルヴィ……シルヴァリオン。私の最愛の人。永遠の恋人。魂の片割れ。


『ボクはオーディンを探すよ。来世も来来世も。どこにいようとも見つけるからね。久遠の時を一緒に紡ごう。オーディン愛してる永遠に』




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