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第7章 神の手のひらの上で

【56】病

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現世のボクの死因は一酸化炭素中毒。そうボクは気づかないままに死んでいた。だから何も怖いことなどなかった。

死期を明確に示されるということがこんなに恐ろしいことだとは知らなかった。
ボクは恐怖で何も食べれなくなった。オーディンにすがりつき「離さないで、怖い」と泣き叫ぶ。
「鏡が怖い」と目に付く場所全ての鏡を撤去してもらった。でも見なければ見ないで今あとどれくらい時間が残っているのか気になり見たくなる。

神に会いたい。

心配をかけまいと無理に食事を食べるが、すぐに吐き戻してしまう。やつれて痩せていくボクを心配して注射や点滴をしようとする医師。注射が怖いボクは泣き叫び拒否するが、最後にはおさえつけられ眠らされてしまう。
心配かけないように元気を装う。けれど恐怖で常に悪寒がして、足元はグラグラと揺れている。
日に日にボクは弱っていった。

あれから何日が経っただろう?起きては泣き、注射に怯えては眠らされ日にちの感覚がない。
ボクの状態を医師はストレスだといい、呪術師は呪いだという。本当のことを言う?誰も信じてくれないよね…。

神に会いたい。

自分で歩けなくなったボクは、オーディンにお願いして廃神殿に連れてきてもらう。
一人で体を支えていることが難しくなったボクは、オーディンに抱かれながら指を組む。
ここにいる神は何も答えてはくれないけれど、ボクは祈った。



恨み言を言うのはもうやめる。

けれど…


ボクが死んだ後のオーディンのことだけが心配だった。
折り鶴を捧げる。ボクの願いを乗せて…
キレイに並んだ折り鶴。前に来た時にメチャクチャにしてしまったはずなのに誰かが元通りにしてくれていた。
みんながボクを心配してくれているのに、元気になって安心させれないのが悔しい。

死ぬのは今も怖い。死んだらボクの魂はどこに行くのか。
神様へのお願いに書いておこうかな、オーディンの近くの虫でも花でもいいからスグ近くに生まれさせてくださいって。
未だに神頼みな自分に呆れるけど、そんな願いくらい叶えてくれてもいいと思う。

「シルヴィ…何を願ってるんだ?」

ボクの心配ばかりしてあまり眠れていないオーディン。もうこれ以上心配をかけちゃいけないね。

「ん…幸せだなぁって。神様にお礼を言ってるの、オーディンに出会わせてくれて妃にまでなれてボクもうこれ以上の幸せは…「もっとだ」」
遮るようにオーディンは言った。

「こんなもんじゃない、これから二人でもっともっともっと幸せになるんだ。」

寂しそうな泣き出しそうな、だけど真剣な眼差しでボクの手を握る。そうだね…こんなタイマーなんかに負けちゃダメだよね。だいじょうぶ、この手さえあればボクは何も怖くなんか無いよ。
二人で手を取り合って神を見上げ祈った。


「この手を離さないでください」と―――










「オーディン!オーディン!手!握ってて、おねがい…あぁっ」

「だいじょうぶ、スグ終わるよ」

「いやっ 痛い!怖い!やぁ―――「はい終わりましたよ」」

ベッドでオーディンにすがりつきながら右腕を医師に差し出し注射を受ける。あれからボクは嫌いな点滴も注射も嫌がりながらも受けた。
元気になるためではなく、これ以上オーディンに心配かけないように。
だけど怖いものは怖いのだ、毎回オーディンにすがりつき泣きながらだけど頑張ってる。
安定剤でも入ってるのか注射の後は眠くなる。

「手にぎってるから安心しておやすみ」ボクの額をなでながらオーディンが言う。

「やだ…オディも、いっしょに…」最後まで言えずに眠りに落ちてしまう。

こうなってからオーディンとの性生活も全くできなくなっていた。誘ってみてもオーディンに拒絶されるからだ。
こんな病気で顔色の悪いボクなんかじゃ欲情もしないよね。

「よそで発散してもいいよ…」と、ある日ボクから提案してみたらスゴイ剣幕で怒られた。
『シルヴィ以外でだなんてありえない、二度とそんな事を言うんじゃない』と。
『元気になったら死ぬ程、抱いてやるから今から覚悟しておくがいい』だって、そうだね元気にならなくちゃね。


そう思ってるのに、数日後ボクはベッドから起き上がれなくなった。
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