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第5章 エーリス国へ
【47】密談 オーディンside
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シルヴィと共にエーリス国へとやってきた。
人々の大歓声に応えるシルヴィはエーリス王族の白銀に輝くシルファの衣装に包まれ、腰までまっすぐに伸びたプラチナブロンドが今日も美しく、その姿を2年ぶりに見た歓喜した民の中には涙を流している者もいた。
表向きの目的はエーリスの次なる発展の足がかりとなる産業界の視察だが、本当の目的は国王夫妻にシルヴィを皇子妃として迎えることを了承してもらうためだ。
シアーズと違い同性婚に拒否反応が強いであろうエーリスの、しかもたった一人の王位継承者であるシルヴィを簡単に手放すわけがないのはわかっている。権力をかざし無理矢理に言うことを聞かせることも可能だが、シルヴィをこの世に誕生させてくれた者たちだと思うとそれはしたくない。
シルヴィに皇子妃になると言われた国王夫妻は、体調を崩し私との会見も今は出来ないくらい臥せっているらしく、このパーティも欠席している。
その代わりに国王の年の離れた弟でありこの国の神官を務めるエンディミオンが私をもてなしてくれたが、私の視線はずっとシルヴィに注いだままだ。
シルヴィに話しかける者全てが気になる。なんだあの男は?馴れ馴れしく隣に座ったぞ。シルヴィが楽しそうに無邪気に笑っている。何者だ?気に食わない。席が遠すぎて会話は聞こえないが、あとで黒服たちから話の内容は聞けるだろう。シルヴィが口を尖らせて怒ってるみたいだ、なんと愛らしいのだ。と思った瞬間、その男がシルヴィの唇に指で触れた―――
触れただけでなく、シルヴィの耳に顔を寄せ何かを囁いているのか?距離が近すぎる、シルヴィもシルヴィだ私という者がありながら、他の男とあんなに楽しそうに近づいて触らせるなどと……。
落ち着け、嫉妬しすぎは嫌われまた喧嘩になってしまう。深い溜め息を付き、隣のエンディミオンを見る。
「殿下、そろそろ別室休まれてはいかがですか?」エンディミオンが優雅な所作で誘ってくる。
シルヴィを廃嫡させずエーリス王子のまま皇子妃として迎えるためには、この男の協力が必要不可欠だった。シルヴィのことは気になるが、一刻も早く話をまとめるために私はパーティを退出した。
パーティ会場から離れた迎賓館の一室で、私はエンディミオンとローテーブルを挟んでソファに向かい合い座った。シルヴィそっくりの顔、髪、瞳の色、同じ人形師の作品と言ってもいいほどにソックリな容貌だ。叔父と甥とはいえ、ここまで似るものだろうか。
黒服やエーリスの王室警護人を下がらせ二人きりになると、早速話を切り出した。
「シルヴィを妃にしたい」 直球で言葉を投げかけると、少し驚いた後に艶然と微笑んだエンディミオン。
「それは困りましたねぇ…」足を組み、ゆったりと膝の上で頬杖をつく。
「御存知の通りあの子は唯一の王位継承者ですし、オーディン殿下とは同性です」困ったとばかりに眉を顰め、シルヴィと同じライラック色の瞳を細める。
「この会談の、私の意図はおわかりでしょう?なんとか穏便に事を運びたい。そのためにはあなたの協力が不可欠だということも」遠回しな言い方で攻める。
「つまり…、私に還俗せよと?」
片眉を上げ瞠目するエンディミオンは、先程シルヴィに似てると思ったのが大間違いであるほどに策士の顔をのぞかせていた。
「こうみえても私はアウレリア教の次期神官長に内定されてますし、長年神に仕える身として独身を貫いてきました。なのに今更還俗して王位につき結婚して子を成せと?可愛い甥っ子の為とは言え…なかなかに難しい問題ですね」
思わせぶりな流し目で暗に見返りはなんだ?と匂わせてくる。
「この2年エーリスには他国にないほどの援助をしてきたはずだ」
「それはシルヴァリオンのためでしょう?私の知ったことではない」
食えぬ男だ…愛するシルヴィとは似ても似つかない。
「遠回しな話はやめましょう、要求を言ってください」
少しの威嚇を込めそう言うと、エンディミオンは立ち上がり私の隣へと腰掛けた。
花の蜜を凝縮したような甘ったるい香りがたちこめ、美しく細く長い指が私の頬を滑る。
「そうですねぇ…新たな王弟宮の建設と子作りのために100人規模の後宮もつけてもらいましょうか。それからシアーズ属国からそれぞれ男女問わず見目麗しい王族を妃として迎える選定もお願いしようかな。あとは…」
頬をたどっていた指が唇へとたどり着き、ソファに押し倒される。真っ直ぐなシルヴィの髪とは違う波打つプラチナブロンドが顔にかかり天幕のように私を閉じ込めた。
「今宵一夜、殿下を私のものに…」
「断る」
私の返答に目を瞠るエンディミオン。
「あの子には秘密にしますから…」私の服の襟元を開こうとするのを手で防ぐ。
「なんとまぁ…初心でいらっしゃる」小馬鹿にしたように笑みながら身を起こすエンディミオン。
シルヴィを裏切る行為など出来るわけがない。
「すまないな、シルヴィ以外生涯抱く気はないのだ」衣服を整えつつ告げる。
「その献身があの子に伝わってると良いですけどねぇ」ソファから立ち上がり見下ろすように話すエンディミオン。
「どういう意味だ?」
「さっきのあの子とギデオンを見たでしょう?」
「名前は知らぬがあの隣に座った男のことか」
「ええ あれは内務大臣家の次男で、あの子の幼馴染なんですけどね」
フッと超然とした笑みを見せたエンディミオン。
「幼い頃から将来を誓い合った仲なんですよねぇ…今頃なにしてるのか、フフッ」
人々の大歓声に応えるシルヴィはエーリス王族の白銀に輝くシルファの衣装に包まれ、腰までまっすぐに伸びたプラチナブロンドが今日も美しく、その姿を2年ぶりに見た歓喜した民の中には涙を流している者もいた。
表向きの目的はエーリスの次なる発展の足がかりとなる産業界の視察だが、本当の目的は国王夫妻にシルヴィを皇子妃として迎えることを了承してもらうためだ。
シアーズと違い同性婚に拒否反応が強いであろうエーリスの、しかもたった一人の王位継承者であるシルヴィを簡単に手放すわけがないのはわかっている。権力をかざし無理矢理に言うことを聞かせることも可能だが、シルヴィをこの世に誕生させてくれた者たちだと思うとそれはしたくない。
シルヴィに皇子妃になると言われた国王夫妻は、体調を崩し私との会見も今は出来ないくらい臥せっているらしく、このパーティも欠席している。
その代わりに国王の年の離れた弟でありこの国の神官を務めるエンディミオンが私をもてなしてくれたが、私の視線はずっとシルヴィに注いだままだ。
シルヴィに話しかける者全てが気になる。なんだあの男は?馴れ馴れしく隣に座ったぞ。シルヴィが楽しそうに無邪気に笑っている。何者だ?気に食わない。席が遠すぎて会話は聞こえないが、あとで黒服たちから話の内容は聞けるだろう。シルヴィが口を尖らせて怒ってるみたいだ、なんと愛らしいのだ。と思った瞬間、その男がシルヴィの唇に指で触れた―――
触れただけでなく、シルヴィの耳に顔を寄せ何かを囁いているのか?距離が近すぎる、シルヴィもシルヴィだ私という者がありながら、他の男とあんなに楽しそうに近づいて触らせるなどと……。
落ち着け、嫉妬しすぎは嫌われまた喧嘩になってしまう。深い溜め息を付き、隣のエンディミオンを見る。
「殿下、そろそろ別室休まれてはいかがですか?」エンディミオンが優雅な所作で誘ってくる。
シルヴィを廃嫡させずエーリス王子のまま皇子妃として迎えるためには、この男の協力が必要不可欠だった。シルヴィのことは気になるが、一刻も早く話をまとめるために私はパーティを退出した。
パーティ会場から離れた迎賓館の一室で、私はエンディミオンとローテーブルを挟んでソファに向かい合い座った。シルヴィそっくりの顔、髪、瞳の色、同じ人形師の作品と言ってもいいほどにソックリな容貌だ。叔父と甥とはいえ、ここまで似るものだろうか。
黒服やエーリスの王室警護人を下がらせ二人きりになると、早速話を切り出した。
「シルヴィを妃にしたい」 直球で言葉を投げかけると、少し驚いた後に艶然と微笑んだエンディミオン。
「それは困りましたねぇ…」足を組み、ゆったりと膝の上で頬杖をつく。
「御存知の通りあの子は唯一の王位継承者ですし、オーディン殿下とは同性です」困ったとばかりに眉を顰め、シルヴィと同じライラック色の瞳を細める。
「この会談の、私の意図はおわかりでしょう?なんとか穏便に事を運びたい。そのためにはあなたの協力が不可欠だということも」遠回しな言い方で攻める。
「つまり…、私に還俗せよと?」
片眉を上げ瞠目するエンディミオンは、先程シルヴィに似てると思ったのが大間違いであるほどに策士の顔をのぞかせていた。
「こうみえても私はアウレリア教の次期神官長に内定されてますし、長年神に仕える身として独身を貫いてきました。なのに今更還俗して王位につき結婚して子を成せと?可愛い甥っ子の為とは言え…なかなかに難しい問題ですね」
思わせぶりな流し目で暗に見返りはなんだ?と匂わせてくる。
「この2年エーリスには他国にないほどの援助をしてきたはずだ」
「それはシルヴァリオンのためでしょう?私の知ったことではない」
食えぬ男だ…愛するシルヴィとは似ても似つかない。
「遠回しな話はやめましょう、要求を言ってください」
少しの威嚇を込めそう言うと、エンディミオンは立ち上がり私の隣へと腰掛けた。
花の蜜を凝縮したような甘ったるい香りがたちこめ、美しく細く長い指が私の頬を滑る。
「そうですねぇ…新たな王弟宮の建設と子作りのために100人規模の後宮もつけてもらいましょうか。それからシアーズ属国からそれぞれ男女問わず見目麗しい王族を妃として迎える選定もお願いしようかな。あとは…」
頬をたどっていた指が唇へとたどり着き、ソファに押し倒される。真っ直ぐなシルヴィの髪とは違う波打つプラチナブロンドが顔にかかり天幕のように私を閉じ込めた。
「今宵一夜、殿下を私のものに…」
「断る」
私の返答に目を瞠るエンディミオン。
「あの子には秘密にしますから…」私の服の襟元を開こうとするのを手で防ぐ。
「なんとまぁ…初心でいらっしゃる」小馬鹿にしたように笑みながら身を起こすエンディミオン。
シルヴィを裏切る行為など出来るわけがない。
「すまないな、シルヴィ以外生涯抱く気はないのだ」衣服を整えつつ告げる。
「その献身があの子に伝わってると良いですけどねぇ」ソファから立ち上がり見下ろすように話すエンディミオン。
「どういう意味だ?」
「さっきのあの子とギデオンを見たでしょう?」
「名前は知らぬがあの隣に座った男のことか」
「ええ あれは内務大臣家の次男で、あの子の幼馴染なんですけどね」
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