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第5章 エーリス国へ
【50】ボクの居場所
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あんなふうに追い返してしまった事を謝ろうとオーディンのもとへと向かう。
王宮内の迎賓館前には王室警備兵がいてボクを通してくれたが、オーディンの部屋に近づくと黒服さんに制止された。
「オーディンと話したいんだけど」
「今は…申し訳ありませんが、明日にしていただけますか?」
普段は表情が見えにくい黒服さんが困っているのがわかった。ボクがオーディンの部屋に行くと困るって…。
その時、かすかにまたあの香りが廊下に漂う。
(あぁ…そういうことか)
ボクはおとなしく引き下がった。心が軋んだが涙は出なかった。
次の日、オーディンと一緒に行くはずだった街の孤児院への慰問を体調不良という名目で行かなかった。
心配した両親が部屋までやってきて、昨日の騒ぎを兵に聞いたのもあってオーディンとのことを考え直せと説得された。
一時の気の迷いだと、過保護に育てすぎたせいだ申し訳ないと、女性と付き合ってみてから考えてもいいだろうと、言われれば言われるほど意固地になるのはボクの性格だ。
「気の迷いなんかじゃないから、すっごく考えて出した結論なんだ」
昨夜の事は…ギィの話も又聞きで本当かはわからないし、叔父の香りもボクの勘違いかもしれない。
オーディンが嫉妬するのは、ボクのことを愛しすぎているせいだと考えを改める。
『嫉妬?ボクのこと信じてないの?話す人全員どこかにやるの?ギィも?…ここはエーリスだよ、そんなことさせないから!』
酷いことを言ってしまった。ボクのほうこそオーディンを信じてなかったのだ。
この2年と少し、何度もケンカをし仲直りし愛し愛され二人の時を紡いできた。他人の言葉に惑わされて愛する人を疑うなんてボクが愚かだったんだ。
ちゃんとオーディンと話し合おうと、迎賓館のオーディンがいる部屋へ向かった。今日は黒服さんがスンナリと通してくれた。
部屋に入るとオーディンはソファに座りチラリとボクの方を見るとすぐに視線を窓の外に移した。
寒々としたエーリスの空に大きな鳥が舞うのが見える。
なにから話せばいいのか…ボクがためらっていると
「シィって呼ぶんだな」
ギィのボクの呼び方のことだろうけど、あんな遠くにいたオーディンに聞こえていたはずがないのに。
「うん…エーリスでは学校に行かせてもらえなかったんだよ親が過保護でさ。で、ボクと王宮内で一緒に勉強させられてたのがギデオンとあと二人の子なんだけど、みんなシィって呼んでたんだ」
そうか、と言ったきり黙るオーディン。
ボクはソファに近寄り、後ろから抱きつくようにオーディンの首に手を回した。昨日のあの香りはもうしなかった。
「私もシィって呼ぶことにしようかな」
オーディンの声が、ひっつけた頬から響くようにボクの耳に伝わる。
こうして一緒にいたら信じられなかった気持ちが霧散していく。オーディンを信じたい…だってこんなにも愛しいんだから。
「ダメだよ、オーディンはシィって呼んじゃダメ」
眉を寄せ不満な顔をするオーディンが可愛いと思ってしまった。
「ボクはオーディンしか呼ばないシルヴィって呼び方が大好きなんだから」
オーディンの髪にスリスリして、いつもの香りに安心する。
嬉しそうな顔でボクの手を引き隣に座らせると、アザになってしまった手首に気づく。
「……すまなかった」
手首をさするオーディンの手を上から握る。
昨夜、怒りのために灰青色だったオーディンの瞳が、いつもの明るい空色へと戻っていた。
「信じてほしいんだ、誰かと話しても、見ても触ったとしてもボクはオーディン以外愛したりしないってことを」
世界一と言っていいほどのイケメンを、誰よりも高貴な身分のこの人を、嫉妬させることができるのはボクだけなんだ。その事実はボクを幸福にもするけれど疑われているようで寂しくもある。
何もかもを捨ててオーディンとこの世界で死ぬまで一緒にいると決めたボクの決意と覚悟を信じてほしい。
「ボクは自分の身分も暮らしも全部捨ててもいいくらい愛してるよ?両親も説得出来なかったとしても一緒にシアーズに帰るし、ボクの居場所はもうオーディンの隣にしかないんだからね?」
端正な顔をクシャッと歪ませ、泣き笑いのような顔をボクの肩に埋め抱きつくオーディン。
ボクらはこうやって何度も何度もケンカしたり信じられなくなったりしながら一緒の時を刻んでいくんだろう。
お互いの心臓の音が重なる。トクントクンとビートを刻むそれがアイシテル、アイシテルって言ってるように聞こえた。
王宮内の迎賓館前には王室警備兵がいてボクを通してくれたが、オーディンの部屋に近づくと黒服さんに制止された。
「オーディンと話したいんだけど」
「今は…申し訳ありませんが、明日にしていただけますか?」
普段は表情が見えにくい黒服さんが困っているのがわかった。ボクがオーディンの部屋に行くと困るって…。
その時、かすかにまたあの香りが廊下に漂う。
(あぁ…そういうことか)
ボクはおとなしく引き下がった。心が軋んだが涙は出なかった。
次の日、オーディンと一緒に行くはずだった街の孤児院への慰問を体調不良という名目で行かなかった。
心配した両親が部屋までやってきて、昨日の騒ぎを兵に聞いたのもあってオーディンとのことを考え直せと説得された。
一時の気の迷いだと、過保護に育てすぎたせいだ申し訳ないと、女性と付き合ってみてから考えてもいいだろうと、言われれば言われるほど意固地になるのはボクの性格だ。
「気の迷いなんかじゃないから、すっごく考えて出した結論なんだ」
昨夜の事は…ギィの話も又聞きで本当かはわからないし、叔父の香りもボクの勘違いかもしれない。
オーディンが嫉妬するのは、ボクのことを愛しすぎているせいだと考えを改める。
『嫉妬?ボクのこと信じてないの?話す人全員どこかにやるの?ギィも?…ここはエーリスだよ、そんなことさせないから!』
酷いことを言ってしまった。ボクのほうこそオーディンを信じてなかったのだ。
この2年と少し、何度もケンカをし仲直りし愛し愛され二人の時を紡いできた。他人の言葉に惑わされて愛する人を疑うなんてボクが愚かだったんだ。
ちゃんとオーディンと話し合おうと、迎賓館のオーディンがいる部屋へ向かった。今日は黒服さんがスンナリと通してくれた。
部屋に入るとオーディンはソファに座りチラリとボクの方を見るとすぐに視線を窓の外に移した。
寒々としたエーリスの空に大きな鳥が舞うのが見える。
なにから話せばいいのか…ボクがためらっていると
「シィって呼ぶんだな」
ギィのボクの呼び方のことだろうけど、あんな遠くにいたオーディンに聞こえていたはずがないのに。
「うん…エーリスでは学校に行かせてもらえなかったんだよ親が過保護でさ。で、ボクと王宮内で一緒に勉強させられてたのがギデオンとあと二人の子なんだけど、みんなシィって呼んでたんだ」
そうか、と言ったきり黙るオーディン。
ボクはソファに近寄り、後ろから抱きつくようにオーディンの首に手を回した。昨日のあの香りはもうしなかった。
「私もシィって呼ぶことにしようかな」
オーディンの声が、ひっつけた頬から響くようにボクの耳に伝わる。
こうして一緒にいたら信じられなかった気持ちが霧散していく。オーディンを信じたい…だってこんなにも愛しいんだから。
「ダメだよ、オーディンはシィって呼んじゃダメ」
眉を寄せ不満な顔をするオーディンが可愛いと思ってしまった。
「ボクはオーディンしか呼ばないシルヴィって呼び方が大好きなんだから」
オーディンの髪にスリスリして、いつもの香りに安心する。
嬉しそうな顔でボクの手を引き隣に座らせると、アザになってしまった手首に気づく。
「……すまなかった」
手首をさするオーディンの手を上から握る。
昨夜、怒りのために灰青色だったオーディンの瞳が、いつもの明るい空色へと戻っていた。
「信じてほしいんだ、誰かと話しても、見ても触ったとしてもボクはオーディン以外愛したりしないってことを」
世界一と言っていいほどのイケメンを、誰よりも高貴な身分のこの人を、嫉妬させることができるのはボクだけなんだ。その事実はボクを幸福にもするけれど疑われているようで寂しくもある。
何もかもを捨ててオーディンとこの世界で死ぬまで一緒にいると決めたボクの決意と覚悟を信じてほしい。
「ボクは自分の身分も暮らしも全部捨ててもいいくらい愛してるよ?両親も説得出来なかったとしても一緒にシアーズに帰るし、ボクの居場所はもうオーディンの隣にしかないんだからね?」
端正な顔をクシャッと歪ませ、泣き笑いのような顔をボクの肩に埋め抱きつくオーディン。
ボクらはこうやって何度も何度もケンカしたり信じられなくなったりしながら一緒の時を刻んでいくんだろう。
お互いの心臓の音が重なる。トクントクンとビートを刻むそれがアイシテル、アイシテルって言ってるように聞こえた。
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