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こぼれ話

【44】 元【影】の告白

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自己紹介をさせてもらえるならばオレは中流貴族の息子Aとでも言っておこう。

オレが生まれた年に皇帝陛下の第一子であるオーディン殿下がお生まれになったことで、オレは一族の期待を一身に浴びることになった。初等部に入学して以来、いつか殿下の側近になれるよう勉学に勤しみ級友としてお近づきになれる機会を伺っていた。だがあっという間に殿下は飛び級をされ同級生ではなくなり、それならば将来殿下の近衛兵になるんだとその後も努力を惜しまなかった。
その殿下がなぜか高等部2年にイキナリ編入されると知らされたのは新学期1日前だった。
教室に集められたのは、成績優秀で生まれも確かで王室への忠誠心にあふれている者ばかりだった。
【エーリス王子に話しかけること、見ることを禁ずる】
その2週間のことは説明するまでもないだろうから省くとして、鮮烈な思い出として今も心のなかにある。

今日は久しぶりに【影】として駆り出された。

帝国第一級ホテルの1階のモールで買い物客を装う任務だ。私服の【影】やその家族たち百人近くが集められ配置される。
お買い物をされるシルヴァリオン王子に不審に思われないよう、一般客を装い王子のお買い物が終わるまでショッピングしてる風でうろつくだけの簡単なお仕事だ。
貸し切りにしたほうがよっぽど楽だろうにと思うが、高貴な方のお考えはイマイチわからない。

遠くから煌めく光が近づいてくるのが見える。
じっと見ることは許されないのは学園にいたころと同じだ。
視界の端にだけ捕えながら、宝石店内のガラスケースを見ているフリをする。緊張する、早く通り過ぎてくれないかなと思う反面、近くでお声を聞けたらなと願ってしまう。
学園では同じクラスだったので、度々お声を聞くことはできていた。
ただ見ることも禁じられていたので、オーディン殿下を見るふりをして視界に端に入れるのがやっとだった。
そんなことを考えながら男性用アクセサリーを眺めていたらフワッと良い香りがした。

なんと…オレのすぐ右1Mほどの距離にプラチナブロンドの美しい髪が見えた。
ドキドキする、見てはならない、硬直する体で息を詰めていると「あれ?」と鈴の転がるような懐かしい声がした。

「あ…もしかして学園で同じクラスだった、かな?」

気が動転した、聞こえなかったフリでもしてさっさと立ち去るべきだったのに目が勝手に動いてしまった。
少し見上げるようにしてオレを見る王子の瞳が潤んだように揺らめいて、小首を傾げたせいで艷やかな髪がシャラリと肩を流れるのが見え生唾を飲み込んでしまう。
こんな近距離で…しかも話しかけられるなんて。心臓が破裂するかと思った。
オーディン殿下と初めてお話した日以上かもしれない、緊張と感動で返事をすることさえ頭から消えてボーッと見てしまった。
きれいな形の唇が動くのをただ見ていたら、王子の後ろの近衛が短く靴を鳴らしてオレを現実へと引き戻してくれた。

「し、知りません」

ようやく紡ぎ出した言葉に王子がガッカリした顔をする。
まさかだった、口をきいたこともない、ただ同じ教室にいただけのオレのことを覚えていてくれたなんて。

「そっか…そうだよね2年も前だし、1ヶ月も通ってなかったし覚えてないよね」

肩を落とし照れ笑いしながらショーケースに目線を落とされる王子に申し訳ない気持ちが湧き上がる。
王子をシゲシゲと見たり、話しかけたりした者、失態を犯した【影】や黒服、何人もが消えていった怒涛の2週間を忘れるはずがない。
『そんなわけないです、あなたと話してみたいと誰もが願ってましたよ』とお教えしたいがそんな事が出来るわけもない。
だけど次の王子の言葉に、オレは黙っていることができなくなってしまった。

「ボクは嫌われてたしね…」



「ああ そういえば思い出した、オーディン殿下の隣の席だった人だよね?」言ってしまった…

これで近衛になるという夢は儚く散った。
後ろの近衛たちに目線で殺されそうになったが今更引き返せない。ならばこの時間を一生の思い出になるよう元クラスメイトとしておしゃべりしようと決めた。

嫌われてたなんて勘違いだと思うよ?仲良くなる暇もなくいなくなっちゃって残念だったよと告げると、とてもうれしそうに笑ってくれた。このお顔を見れただけで何も思い残すことはない。

なんの買い物?と聞くと恥ずかしそうに
「たった一人だけ出来た友達の誕生日祝を買いに来たんだけど、何がいいかわかんなくて迷ってるんだ」と頬を染めた。
オーディン殿下の誕生日は4日後だった。

「去年は財布をプレゼントしたんだけど、自分でお金を払うことなんて無い人なのに去年のボクはなんてバカだったんだろうね」

ゲンコツで自分の頭を叩く真似をされる。うっ…可愛すぎる仕草に悶絶しそうになる。

なにかいい案はない?と聞かれる。シルヴァリオン王子にいただけるなら噛み終わったガムでも家宝にします!というのは心に秘めておいて…心を落ち着け考える。
オーディン殿下は何でも持ってるだろうからプレゼントは難しい、しかしシルヴァリオン王子からいただけるならばオレと同じで髪の毛1筋でも嬉しいに決まっている。
すがるようにオレを見つめる王子にようやく答える。

「想いがこもってれば何でも嬉しいんじゃないですか?それこそメッセージカード1つでも」

「そうか…そうだよね、でもいつももらってばかりだから何かしたいんだよねぇ…」

頬に手を当て考える仕草をする王子を瞼の裏に焼き付ける、この一瞬を一生忘れないようにと。
近衛の方々はスゴイな、毎日お仕えして心臓破裂の瞬間が何度もあるだろうに、自分はなれそうにないなと独り言ちた。

「…手作りとかもいいかもしれないね、気持ちを込めて作ってくれたってのが買ったものより嬉しいかもしれない」

何気なく言った言葉に最高の笑顔で微笑んでくださった。

「それ!それいいね!何か作れるかなぁ、工作は苦手だし…うーんスイーツがいいかな?」

相談するかのようにオレに目線を合わせてくださる、はぁぁ…なんでもいいです、焼け焦げた端くれでもいただけるならなんでも!

「そうだ、ねぇ今からでもお友達…「おまたせー!」」

殿下の言葉を遮るように、間に割って入った声の主がオレの腕にまとわりつく。それは、めかしこんだオレの妹だった。

「あっちに可愛いヒール見つけたの!買ってくれるんでしょ?早くきて~」

グイグイと腕を引かれる、近衛さんたちが顎で行けと合図する。

「ごめん、じゃ―――」 オレの言葉に手をヒラヒラと振ってくださった。
寂しそうな残念そうな顔をしていた、と思うのは勝手なオレの妄想だろうか。友達に…そう言ってもらえただけで充分だった。

こうしてオレの幸せ時間はあっけなく終わった。夢のような時間だった。



その後オレは連行され、厳しい尋問と叱責をくらい【影】でなくなったが後悔はしていない。

                          元【影】の告白
                           
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