上 下
3 / 4

秋から冬へ

しおりを挟む
私は娘の同じ歳の頃、母と喧嘩をして、しばらく口を聞くことも、顔を合わせることもなかった。

だって、あの人は私を裏切ったから。
あの人を私をいじめる敵だから。

そう呟きながら塩っけのないおにぎりを食べていた。

「でもね、何を思ったのか毎日おにぎり乗っていたお盆に種が乗ってたの」

「種?」

「そう、花の種」

私はバカだったのか。庭に出るなり、その子を植えた。なんで種があったのか気づいた頃には母に首根っこを掴まれていた。

「おびき出されたんだ」

「そうなの」

実母のアホっぷりに娘がゲラゲラと笑う。

その姿に血は争えないのかも知れないと感じたのは内緒。

「それでそれで?」

「それでね」

それから何度も何年も植えては咲かず、芽を出しては枯れてを繰り返した。

喧嘩していたことなんて、母への不満なんてすっかり忘れて。咲かない事実に泣き喚いては、母に撫でられていた。

「咲かなかったの?」

「ううん、ちゃんと咲いたわ。あなたが持ってるその花もそうよ」

1度咲かせたあの日から、私はずっと枯らさずに何年も何年も種を撒き、水をやり、見守り続けてきた。でも、母と笑いあったことは1度もない。

「ねえ、おばあちゃんって」
「ん? ええ、そうよ」

花が咲く前に、事故にあって亡くなった。

その時私は就職活動中。

「お母さん確か大卒だよね?」

「そう。花のことばっか考えてね、学校の思い出なんて欠片もないの」

「ええ、勿体ない!」

「そう? おばあちゃんはきっと分かってたんだと思うわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ショートドラマ劇場

小木田十(おぎたみつる)
現代文学
さまざまな人生の局面を描いた、ヒューマンドラマのショートショート集です。 / 小木田十(おぎたみつる)フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。

決別

誠影
現代文学
1st Full Album収録曲「決別」の詩世界をノベライズ。 叶わなかった想いと、その想いを向けた女性との別れを描く。

母という人

春史
現代文学
結婚に向いてなさそう、母親に向いてなさそうと自他共に認める人間が結婚して母親になって思うこと。 不定期に更新。 フィクションです。

雨桜に結う

七雨ゆう葉
ライト文芸
観測史上最も早い発表となった桜の開花宣言。 この年。4月に中学3年生を迎える少年、ユウ。 そんなある時、母はユウを外へと連れ出す。 だがその日は、雨が降っていた――。 ※短編になります。序盤、ややシリアス要素あり。 5話完結。

ワームムーンと財布

あおみなみ
現代文学
高校卒業後、スーパーで働く「俺」 職場の飲み会終わり、ちょっとした気まぐれから、家まで歩いて帰ろうとすると…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...