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秋から冬へ
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私は娘の同じ歳の頃、母と喧嘩をして、しばらく口を聞くことも、顔を合わせることもなかった。
だって、あの人は私を裏切ったから。
あの人を私をいじめる敵だから。
そう呟きながら塩っけのないおにぎりを食べていた。
「でもね、何を思ったのか毎日おにぎり乗っていたお盆に種が乗ってたの」
「種?」
「そう、花の種」
私はバカだったのか。庭に出るなり、その子を植えた。なんで種があったのか気づいた頃には母に首根っこを掴まれていた。
「おびき出されたんだ」
「そうなの」
実母のアホっぷりに娘がゲラゲラと笑う。
その姿に血は争えないのかも知れないと感じたのは内緒。
「それでそれで?」
「それでね」
それから何度も何年も植えては咲かず、芽を出しては枯れてを繰り返した。
喧嘩していたことなんて、母への不満なんてすっかり忘れて。咲かない事実に泣き喚いては、母に撫でられていた。
「咲かなかったの?」
「ううん、ちゃんと咲いたわ。あなたが持ってるその花もそうよ」
1度咲かせたあの日から、私はずっと枯らさずに何年も何年も種を撒き、水をやり、見守り続けてきた。でも、母と笑いあったことは1度もない。
「ねえ、おばあちゃんって」
「ん? ええ、そうよ」
花が咲く前に、事故にあって亡くなった。
その時私は就職活動中。
「お母さん確か大卒だよね?」
「そう。花のことばっか考えてね、学校の思い出なんて欠片もないの」
「ええ、勿体ない!」
「そう? おばあちゃんはきっと分かってたんだと思うわ」
だって、あの人は私を裏切ったから。
あの人を私をいじめる敵だから。
そう呟きながら塩っけのないおにぎりを食べていた。
「でもね、何を思ったのか毎日おにぎり乗っていたお盆に種が乗ってたの」
「種?」
「そう、花の種」
私はバカだったのか。庭に出るなり、その子を植えた。なんで種があったのか気づいた頃には母に首根っこを掴まれていた。
「おびき出されたんだ」
「そうなの」
実母のアホっぷりに娘がゲラゲラと笑う。
その姿に血は争えないのかも知れないと感じたのは内緒。
「それでそれで?」
「それでね」
それから何度も何年も植えては咲かず、芽を出しては枯れてを繰り返した。
喧嘩していたことなんて、母への不満なんてすっかり忘れて。咲かない事実に泣き喚いては、母に撫でられていた。
「咲かなかったの?」
「ううん、ちゃんと咲いたわ。あなたが持ってるその花もそうよ」
1度咲かせたあの日から、私はずっと枯らさずに何年も何年も種を撒き、水をやり、見守り続けてきた。でも、母と笑いあったことは1度もない。
「ねえ、おばあちゃんって」
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