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冬から春へ
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「お母さん、久しぶり」
山を平たく伐採した土地に、同じ顔の石が立ち並んでいる。その中央寄りにある"川端"と刻まれた墓石の前に頭を下げた。
「おばあちゃん、久しぶり!」
私の会釈に、娘の美春が習う。
「あのね、美春中学生になったんだよ」
石山に杓子で水を掛けながら、美春は学校での出来事を報告している。
美春は学校が楽しいらしく、勉学以外に勤しんでいる。勉学以外に。
「でも、どうしておばあちゃんに会いに来たの?」
乾いたアスファルトの匂いと青葉の香りが入り交じり、蝉の声が聞こえてきそうな空間が作られる。髪を撫でる風だけが、春だったことを教えてくれている。
「そうね、今日が母の日だからよ」
「今日!? 私何も準備してないよ!」
べろを出しておチャラけるその姿が、本当に忘れていたのか、そういえば許されると思っているのか判断を鈍らせる。
「あ、これ上げる! お母さん!」
そう言って、私が買った白い花束から一輪抜き取り、満面の笑みで差し出してきた。
バラを思わせる佇まい。それでいてトゲのない優しさに溢れた白い花。その後ろに咲く娘の黄色い笑顔に、私の頬が濡れた。
「お母さん…?」
山を平たく伐採した土地に、同じ顔の石が立ち並んでいる。その中央寄りにある"川端"と刻まれた墓石の前に頭を下げた。
「おばあちゃん、久しぶり!」
私の会釈に、娘の美春が習う。
「あのね、美春中学生になったんだよ」
石山に杓子で水を掛けながら、美春は学校での出来事を報告している。
美春は学校が楽しいらしく、勉学以外に勤しんでいる。勉学以外に。
「でも、どうしておばあちゃんに会いに来たの?」
乾いたアスファルトの匂いと青葉の香りが入り交じり、蝉の声が聞こえてきそうな空間が作られる。髪を撫でる風だけが、春だったことを教えてくれている。
「そうね、今日が母の日だからよ」
「今日!? 私何も準備してないよ!」
べろを出しておチャラけるその姿が、本当に忘れていたのか、そういえば許されると思っているのか判断を鈍らせる。
「あ、これ上げる! お母さん!」
そう言って、私が買った白い花束から一輪抜き取り、満面の笑みで差し出してきた。
バラを思わせる佇まい。それでいてトゲのない優しさに溢れた白い花。その後ろに咲く娘の黄色い笑顔に、私の頬が濡れた。
「お母さん…?」
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