瑠璃色ハッピーデイ

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 【照明 FI】


   望 板付き
   望 鼻歌交じりで遊んでいる
   望 物には触らない


女「ただいま~! って、兄さん!」

男「お! おかえり、妹よ」

女「『おかえり、妹よ』キリっじゃない。
  なんで年頃の妹の部屋に兄さんが
  入り浸っているのよ」

男「いいじゃんかよ、兄妹なんだし」

女「よくないよ。いくら兄妹でもデリカシーと
  プライバシーくらいあるよ」

男「この壁の薄さの前に
  プラシーボもネリガシーもありゃせんよ!」

女「プライバシーとデリカシーね」

男「そうそう、それそれ。
  だってよ、俺がバイトしてやっとこさ買った
  深田なえいみのむふふなビデオ見る度に
  お前壁ドンしてくるじゃん」

女「そらそうでしょ
  なんで夜中に女性のいやらしい声聞きながら
  寝なきゃいけないのよ」

男「そら、隣から妹の切ない声が聞こえてきたら
  誤魔化したくもなるだろう」

女「え、うそ。
  …って、してないしてないしてない!    
  私はそんなことしてない」

男「『あ、ダメ、兄さんそんな…
  私たち兄妹なのよ!
  あ、そんな兄さん、あ~れ~』って」

女「兄妹! ダメ絶対! なんで兄さんなのよ」

男「お婿さん候補だから?」

女「10年以上前の話!!」

男「あの頃は小さくて可愛かったのになぁ」


   望 手の上で何かの頭を撫でるジェスチャー


女「兄さんの手のひらに収まってた頃なんてない」

男「まあ、1部は未だに手のひらサイズだけど」

女「殴るよ?
  服の下に隠れてるだけかもしれないでしょー!」

男「ほれ」

女「なによ」

男「どうぞ?」

女「なにを?」

男「脱いでみそ?」

女「なんでよ」

男「いや、そういう流れかと?」

女「ないないないない」

男「胸が?」

女「はっ倒すよ!」

男「なんてこったい!
  暴力チックに育っちまいやがって
  お兄ちゃんは悲しいよ」

女「あーぁ昔はかっこよかったのになぁ
  兄さん今ではセクハラ大ニートで妹は悲しいよ」

男「おお、そうかそうか。お兄ちゃんが慰めてやろう」

女「誰のせいよ、誰の」

男「分からないなぁ
  少なくとも俺ではないのは確かなんだが」

女「おーい。まあ、いいわ。
  とりあえず、私着替えるから兄さん出てって」

男「大丈夫だ。俺は気にしない」

女「私が気にするの!? むしろ、気にして!?」

男「ごめん、女体にはバリバリ興味あるわ」

女「気持ち悪いよ、帰れ」

男「ここ自宅」

女「いいから出てって」

男「なんでだよ、いいじゃんか減るもんじゃなし」

女「減る減る
  私の中の恥じらいという概念が
  根こそぎ持ってかれるから」

男「いいか、妹よ。
  恥じらいなんてのは生きてく上で
  邪魔な時だってあるんだ。
  プライドを庇うばかりで前に出れないくらいなら
  そんなプライドは捨てちまえ!!」

女「今はそんな大事な時じゃなーーーい!
  兄さん、帰ってきてもう1週間になるんだよ?」

男「そんなになるのか」

女「ほんと、驚いたんだから急に現れてさ」

男「ごめんごめん、そうするしか無かったから」

女「私のせい?」

男「そんなわけないだろう」

女「そっか。なら良かった」

男「おう」

女「これで遠慮なく追い出せる」

男「あら~」

女「あ、ちょっと逃げるな。せめて部屋を出て」

男「いやだね、俺はテコでも動かんぞー!」

女「動き回って言うなぁー!」

男「ふはははははは、楽しいな、妹よ」

女「もう私勉強する」

男「あれ、そうでもない? 年頃の女の子分からない」

女「期末近いから」

男「もうそんな時期か。大変だなー」

女「他人事みたいに。
  誰のせいで生徒会長にさせられたと思ってるの?」

男「およ、俺のせい?」

女「兄さんが生徒会長なんてやるから
  妹ちゃんもしっかり者だし
  いいよねって押しつけられたの」

男「それはそれは」

女「なんで兄さん生徒会長なんてやったのよ。
  いつもこんなんなのに」

男「まあ、人望しかないユーモラスな人間だからな」

女「あ、はーい。
  って、なに人のタンス覗き込んでんのよ
  背中向けてたから気づかなかったわ」

男「近頃の女子高生はどんなランジェリーを
  愛用しているのかと気になってつい」

女「テヘペロみたいな顔しても
  やってることは犯罪だからね。
  さすがに気持ち悪さが振り切ってるよ」

男「別に衣類しかまだ見てないんだし」

女「だったら今すぐ止めろ?
  止めるんだぞ? さもないと撃つよ」

男「か、金ならある。金ならあるんだ。
  だから話し合おう、マイシスター」

女「話す? 
  あなたと話し合えたことなんてあったかしら
  マイブラザー? あなたはいつも何かあれば
  そうやって金金金金って
  そんなに現金な女に見えるかしら?」

男「小さい頃から
  ショートケーキは必ずホールで頼んで残すし
  寿司は紫の皿ばかり食べていたけど」

女「昔の話はし・な・い・で!
  今はちゃんとわきまえているもの」

男「だから誕生日プレゼントも求めないんだもんな」

女「それは…だって
  お父さんもお母さんも忙しそうだから」

男「祝う暇すらないもんなぁ」

女「ほんとね、毎年兄さんと2人きり」

男「約束したからな!」

女「そうね、来年も祝おうって毎回言うの」

男「ああ。だからごめん、祝ってやれなくて」

女「去年のこと?」

男「そう。最低な誕生日にしちまった」

女「そんなの…だって、仕方ないことだよ。
  事故だったんだから」

男「最悪な誕プレだよ、我ながら」

女「うん、ほんと最悪。
  年頃の女の子にうさぎのぬいぐるみって
  どうなのよ」

男「いやぁ好きな物、うさぎくらいしか分からなくて」

女「それ、小学校上がる前の話だよ」

男「ごめん」

女「もう」

男「イチゴのホールケーキだって買ったのに
  お陰でぐしゃぐしゃだったみたいだし
  脇見運転ほんと辞めて欲しいわ」

女「ケーキなんて要らなかったのに」

男「驚いて欲しくて。喜んで欲しくて。
  だから、死んでごめん」

女「ほんとだよ、ほんと。ほんとにほんとに」

男「ライオンだ?」

女「茶化さないでよ、ばか」

男「朔月」

女「なに」

男「誕生日おめでとう」

女「兄さん、ほんとバカ。
  1週間も前だよ、私が18になったの」

男「ずっと言えなかったんだ」

女「ほら、やっぱり私のせい」

男「違うよ。俺の覚悟が足らなかったんだ」

女「覚悟」

男「うん。お別れを言う覚悟」

女「そっか」

男「ずっとこのままだったらいいなって思ってた。
  けど、今朝体が鉛みたいに重くてさ…
  ああ、もうすぐ終わるんだなって」

女「もう行っちゃう?」

男「うん、海外じゃ立派な成人の年齢だし
  ちゃんとお祝いも言えたから」

女「そっか。最期までありがとうね」

男「ううん。あ、学校の方は大丈夫?」

女「うん
  生徒会のみんなも優しくしてくれるから安心して」

男「そっか、良かった。うん、良かった」

女「来てくれてありがとう」

男「受け入れてくれてありがとう」


    ※相手のセリフを食い気味で被せて

男「あーぁ」

女「ようやくか」

男「もっと一緒にいたかったなぁ」

女「これでプリン独り占め出来るぞ~」

男「一緒に、笑って泣いて喧嘩して生きていたかった」

女「よし、着替えよう」

男「約束だってしたのに」

女「こんなに部屋、広かったっけ?」

男「こんなのってさ」

女「嘘つき」

男「どうして」

女「独りにしないって言ったのに」

男「なんで俺なんだよ」

女「私は『おめでとう』だけで良かった」

男「なんで」

女「その一言で良かった」

男「あの子はまだ」

女「なのになんで。もっと一緒にいたいよ」

男「ううん、大丈夫」

女「ううん、違うね」

男「大丈夫だ、あの子なら」

女「だって私は」

男「だってあの子は」

女「兄さんの妹なんだから」

男「俺の妹だから」

女「任せて、私これから頑張るから」

男「信じてる」

女「ちゃんと見ててね、兄さん」

男「ちゃんと見てるよ、朔月」

2「「さようなら」」

女「今度お花持ってくからね、兄さん」


                 FIN
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