複雑で単純なこと

前を見つめて

「次なんて無いんだ」

今ならまだ少女を追える。

涙を拭くのは初めてな気がした。

表を上げる。

仁王立ちでそびえる扉がとても腹立たしく思えた。

水面に赤い絵の具を垂らした時のように広がる"なんで"。

体当たりしても。
椅子で殴っても扉はうんともすんとも言わない。

額も手も汗でベトベト。

上がる肩を落ち着かせるために、大きく息を吸い込む。

冷めた空気が肺深くまで染み渡る。

火照った体が芯から冷えていくのがわかる。

水の赤さも継ぎ足された水ですっと消えた。

「よし」

いつの間にか閉じていた目を開く。

あれ、扉ってこんなに小さかったっけ？？

そんな疑問に首を傾げながらドアノブに手を伸ばす。

凍てついたハンドルを回す。