○○とハサミ

すずねこ脚本リスト

文字の大きさ
上 下
5 / 11

波乱万丈・難攻不落

しおりを挟む

明 「(M)夏休みに入り、練習日数を
   週四日に増やした劇団○○。
   八月も残すとこ二日あまり、
   誰もが進展しない練習に
   焦りを感じ始めていた」

    八月三十日

    ○演劇スタジオ

立花「伙音はずっと言ってるけど声小さい!
   届かないんじゃ
   アドバイスのしようがないわ」

伙音「はい」

立花「それよ、それ。普段から直しなさい。
   最後に未優」

未優「は、はい!」

立花「もう八月も終わるから
   正直に言うけど、
   あんたが一番成果を
   持ってきてないの。
   ちゃんと台本読んでる?」

未優「ごめんなさい」

立花「読んできなさい。
   今回、初心者が多いから
   演じやすい配役にしてあるの。
   だから、しっかりして」

未優「頑張ります」

立花「ただし、勇介! 
   似ているだけであって
   あんたじゃないの。
   ちゃんと演じなさい、その人物を」

勇介「自分じゃない自分に似てるキャラとか
   難しいんだけど」

立花「何言ってるの、
   一番感情が想像しやすいでしょう」

勇介「そりゃそうだけどよ」

明 「感情の想像か・・・そうか」

勇介「明は何やってんだ」

明 「反省会」

勇介「一人で?」

明 「ああ。未だにセリフに感情が
   籠っていないと言われたからな。
   九月からは立ちも入ってくるから
   今の内になんとかしたくてさ」

勇介「あんま気負うなよ」

明 「分かってる」

立花「士気も下がってるし、
   少し休憩しましょうか。
   時間も微妙だし、休憩後は
   問題のシーン中心に練習するわよ?」

勇介「あ、ごめん、立花!
   俺もうバイトの時間なんだ」

立花「あら、そうなの?
   なら、今日は解散しましょう。
   明日のために
   しっかり休んできなさい、特に未優」

未優「はい」

     各々荷物整理に赴く。

智史「こんな状況でもバイトか」

勇介「いいだろう、別に」

未優「お先に失礼します」

 【SE 扉】

立花「未優・・・」

智史「どうせ、お前のことだ。
   女がらみだろ」

勇介「違う! 俺はもう・・・」

    勇介 伙音を見る。

伙音「ん?」

勇介「好きにさせろよ、バイトくらいさ」

智史「はあ、足を引っ張ることだけは
   許さないからな」

勇介「分かってるよ、そんじゃあな」

 【SE 扉】

伙音「勇介?」

立花「明、ちょっといい?」

明 「なんだ?」

立花「未優のことなんだけど」

明 「未優?」

立花「ええ、この前、気晴らしに買い物に
   連れ出したんだけど」

明 「けど」

立花「ダメだったわ、私じゃ。
   地雷を踏み抜くばかりだった。
   だ・か・ら、任せた!」

明 「なんで俺が⁉」

立花「パートナーでしょ?」

明 「便利な言葉」

立花「よろしくね!
   あ、服関係はダメよ。
   いつもスカートなこととか
   ピアスの話とかは厳禁だからね!」

明 「あ、ああ」

立花「あ、待って、伙音」

伙音「ん?」

明 「忙しいんだな」

立花「人前に立つこと、注目されること。
   今の内に慣れておきなさい。
   夢のためよ」

伙音「うん。じゃあ、帰る」

立花「お疲れ」

 【SE 扉】

智史「人の世話を焼くのはいいが、立花」

立花「なに? 私さっきから喋りっぱなしで
   疲れてるんだけど? 
   くだらないことっだったら、
   髪の毛一本一本抜いてくわよ」

智史「お前は髪の毛に
   何か恨みでもあるのか・・・
   それはいい、未優のことだ」

立花「未優?」

智史「本格的に立ち稽古に入ってから
   降板では本末転倒だぞ」

立花「降板はさせないわ」

智史「それでは
   見せ物にすらならなくなるぞ」

立花「もう! 最悪の場合は考えているわ。
   それにそれはあなたが
   考えることじゃない。
   そんなことより、あなたには
   やるべきことがあるでしょう」

智史「やるべきこと」

立花「勇介と仲良くしなさい」

智史「あいつはどうも苦手なんだ」

立花「それは分かるわ。
   でも、仲良くして欲しいのよ。
   今は一つのものを作る
   仲間なんだから」

智史「・・・善処はしてみよう」

立花「はい、お願いね。
   他にもあんたには
   言いたことがあったんだわ、
   帰り付き合いなさい」

智史「了解した」

明 「団長って、大変なんだな・・・」

立花「さて。
   じゃあ、明、未優のことお願いね!」

 【SE 扉】

明 「ああ。嵐のような人だな、ほんと。
   さて、俺も帰るか」

     明  荷物をまとめる。

明 「ん? この台本、忘れ物か?」

     明  台本を手に取る。

明 「大分ボロボロだが・・・
   これ、未優のか」

     明  ページをめくる。

明 「余白がほとんどない」

     明  ページをめくる手が
        止まる。

明 「『悲しみ七割、怒り三割』。
   『素直になれない自分に対する
    憤りからくる感情』
   ・・・こんなに細かく
   これで読みが足らないって
   言われたら、
   もうどうしようもないよな」

     明  更にページを進める。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

CHERRY GAME

星海はるか
青春
誘拐されたボーイフレンドを救出するため少女はゲームに立ち向かう

ライオン転校生

散々人
青春
ライオン頭の転校生がやって来た! 力も頭の中身もライオンのトンデモ高校生が、学園で大暴れ。 ライオン転校生のハチャメチャぶりに周りもてんやわんやのギャグ小説!

「史上まれにみる美少女の日常」

綾羽 ミカ
青春
鹿取莉菜子17歳 まさに絵にかいたような美少女、街を歩けば一日に20人以上ナンパやスカウトに声を掛けられる少女。家は団地暮らしで母子家庭の生活保護一歩手前という貧乏。性格は非常に悪く、ひがみっぽく、ねたみやすく過激だが、そんなことは一切表に出しません。

【完結】天上デンシロック

海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより    成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!
  しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!
  ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。 
---
  
※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。 ---
 もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。  実直だが未熟な高校生の響介は、憧れのロッカーになるべく奔走する。前途多難な彼と出会ったのは、音楽に才能とトラウマの両方を抱く律。  そして彼らの間で揺れ動く、もう一人の友人は──孤独だった少年達が音楽を通じて絆を結び、成長していく物語。   表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。本編作者( https://taittsuu.com/users/umiusisumi )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

夏の青さに

詩葉
青春
小学生のころからの夢だった漫画家を目指し上京した湯川渉は、ある日才能が無いことを痛感して、専門学校を辞めた。 その日暮らしのアルバイト生活を送っていたある時、渉の元に同窓会の連絡が届くが、自分の現状を友人や家族にすら知られたくなかった彼はその誘いを断ってしまう。 次の日、同窓会の誘いをしてきた同級生の泉日向が急に渉の家に今から来ると言い出して……。 思い通りにいかない毎日に悩んで泣いてしまった時。 全てが嫌になって壊してしまったあの時。 あなたならどうしますか。あなたならどうしましたか。 これはある夏に、忘れかけていた空の色を思い出すお話。

処理中です...