魔法使いの夢

いつか夢に見た光景

退屈だ。

こんな毎日がいつまでも続くのかと思うと
生きているのも嫌になった。

繰り返される日常に私の心は疲れ切っていた。

大事な何かを取り零してしまったような
そんな心の空席がいつもある。

➖➖嗚呼、そうか私は

なんて、違和感の正体を掴んだ時には既に
私は人生を踏み外していた。

体が浮遊感に襲われ
鬱陶しいほどだった蝉時雨が
ボリュームの摘みを回すように遠退いていく。

「おっと危ない。怪我はありませんか？」

階段を落ち掛けた私の手を、１人の青年が掴んでいた。

戸惑いながら頷くと、彼は足早に消えていった。

呆気に取られ、彼の名前を聞くこともできなかった。

足取りが楽しそうで。

笑顔が眩しくて。

生き生きしてる背中が羨ましくて。

人混みに溶けていく背中を眺めながら
『また明日会えるかな』なんて私は考えている。

億劫だった明日が少しだけ楽しみな私。

だって、なぜか彼の影が笑っているように見えたから。