魔法使いの夢

魔法使いになる夢

崖にベルトを引っ掛け、藁のロープを垂らす。

強度に不安は残るが、ここからは運でしかない。

泣き虫兎に会いに行くには
これしかもう残されていないのだ。

一人ぼっちで泣かせないように、俺は

「行くぞ！！」

今、この崖を飛び越える。

ロープを揺らしながら
体をバネのように扱って勢いづけて
飛び移るタイミングを見計らう。

俺が無くした大事な夢かげを取り戻そう。

『もう2度と』なんてかっこいい事は言えなくて。

「いった」

向こう崖をギリギリ掴めたからよじ登った。

そこでガラスの破片が足の裏に突き刺さる。

影の周りを囲うように
バリケードのように散りばめられたガラスの破片。

『来ないで』とはこういうことか。言葉が足りない。

動けないのは自分自身。助けて欲しいのも自分自身。

それでもいつも、誰かを優先する愚か者。

お前は俺のヒーローだ。

ガラスの破片を踏み締めながら
１歩また１歩と影に近く。

きっとまた諦めるかも知れない。

きっとまた目を背けるかも知れない。

それでもまた戻ってくるから。思い出すから。

「捕まえた。一緒に帰ろう」

影のいる壁に触れた途端、世界が揺れた。

下から突き上げるように
甲高い音を立てて世界が崩れ落ちた。