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新たな旅の始まり

風の谷の村

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『リーフヴェント』


山間の中にある自然豊かな村で、村人も山を切り崩すような開拓よりも時に作物を分けてもらい、近くを流れる川から山水を得て慎ましい生活の中で自然と共に静かに過ごしてきた。

華やかな王都に憧れて村を出て行くものもいたが、ほとんどの村人がこの地で生まれこの地で生き、そしてこの大地に帰って行く。

訪れる旅人は多いものの山賊など柄の悪い輩も多く、余所者に対する対応は冷たく歓迎してくれるような雰囲気ではなかった。



『あら、旅の方。こんにちは。リーフヴェントの村へようこそ!』



そんなゲームでよく見るような会話はまったくなく、話しかけても無視やスルーされて終わりなことがほとんどだった。


「クローディア殿、この村の人間は口が聞けぬのでござるか?」

「いや、そういうわけじゃ・・・・・ないんだけどね」



厄介ごとからは極力避けようと目線すらも合わせようとしてこないその気持ちは分からないではないまものの、同じモブ仲間と思うと少し悲しい気持ちもある。


かの有名な勇者さん達だって、村へ訪れた際にまずやることは住民の家にあるタンスや壺や、宝箱からめぼしい武器防具・道具の泥棒だ。

決して全員ではないだろうが、私のプレイする勇者は皆奪えるものは何の遠慮もなく頂いていった。

厳重な鍵がかけられていようが、不思議な力を持つ鍵を持つ勇者の前では何の意味も成さず黙って奪われて、使えない・いらないものは即刻売り飛ばされる。

後ろからついてくる仲間はそこに対して何にも言葉を発しないが、仲間になったからにはそこも協力を迫られるのだろうか?

やりたい放題やっててなんだが、今思えば私の手で操作する勇者はかなりひどい。

あるゲームで、何にも考えずにいつも通りプレイしてたら後から王国裁判にかけられて陪審員ほぼ全員一致で有罪でしたよ。

いや、起こせるイベントはなるべく全部やりたい性質のおかげで、なんとか1人だけ無罪を主張してくれてたかもしれない。


え?

その後ですか?

もちろん、速攻で自力脱獄ですよ。


おとなしく待ってるなんて、そんな悠長なことはしてられません。

追いかけてくる衛兵をなぎ倒して脱獄した後に、後から実は衛兵と直接戦わなくとも後ろからこっそり気絶させて逃げられることを知りましたが、そんな余裕は全くありませんでした。

しかも、おとなしく待ってれば仲間の助けが来てくれたらしいことも。

いや、だって冤罪?で死刑宣告されてるのにおとなしく待ってられるわけないじゃありませんかっ!!



すみません、話がだいぶ逸れました。



とりあえず、情報収集の前になんとか村人と仲良くなることから始めないといけないかもしれません。



それならばーーーーーーーー。




「レオ、お願いがあるんだけど」

「なになに?」

「先に宿屋へ行って、2つ分の部屋をとっておいてもらってもいい?」

「えっ!?俺1人でっ?」


もうあのオネェ戦士はいないというのに、もしかしたらという恐怖から村に着いてからもレオナルドの手はクローディアの腕から一時も離れていなかった。

「大丈夫!紅丸と少し辺りで情報収集したらすぐに戻るから、レオは宿屋かその近くにいる人に聞いてみてくれる?」

「お、俺もクロエと一緒がいい!!紅丸ばっかずるいっ!!」


がばっ!!っと、そのままいつも通りしがみついてきては離れまいと力を込めてくる。

あんな恐怖イベントが起これば1人が心細い気持ちもわかるし、側にもいてやりたいが情報収集の為には自分とレオナルドが一緒にいるわけにはいかない。


「レオと別々に行動したいわけじゃなくて。ほら、レオは1人でも十分強いし、紅丸は純粋な人間ではないから1人にしておけないじゃない?それにレオの明るくて素直なところは人から好かれるし、村の人達ともすぐに仲良くなれると思うんだよね」


「!?」


抱きついてきたレオナルドの頭と背中を優しく撫でて気持ちを落ち着かせながら、正直な気持ちを話す。


「今回、すごく頼りにしてるんだからね?」

「クロエ・・・・うん、分かった!俺頑張る!!」


クローディアから体を離し、滲んでいた涙を拭ったレオナルドは、すぐさま眩しい満面の笑顔になると村の中心にある宿屋へと、行ってくるねーーーー!!と猛ダッシュで向かった。



本当に、なんて素直ないい子なのか。

これがルークやアルフレド辺りならそうはいかない。


じゃ、1人で頑張って♪と逆に放り出されておしまいだろう。


アルフレドなら、この俺が何でそんなことをなんでしなきゃいけないんだ!!と、怒り出すかもしれない。

いや今なら片時も側を離れないバーチさんが、そんなことを言わせる前に全ての手を打ち終わっているだろう。


ジークフリート様辺りなら、無限実行な感じで全部自分でやろうとするだろうか?


いやいや、普段騎士院では役割に応じた指示を的確に出してるから、むしろもっと色んな指示を司令塔として出してくれているかもしれない。



一応、レオナルドと別行動にしたのには自分なりに考えがあってのことだったりする。

レオナルドは誰が見ても爽やかな好青年で、どんな年齢の方にも男女問わず好感触が持たれやすい。

しかもそんなイケメンが1人で歩いていれば、いかに辺境の村とはいえ女達が放っておくわけがない!

だが、もしそこで例えモブ顔の冴えない女といえども親しそうに隣を歩いていれば、すぐさま嫉妬の敵にされて話などまず聞いてもらえないだろう。

その点、紅丸とならば姉弟辺りにしか見られないだろうし、というのがクローディアなりに考えた何とも浅知恵かもしれないプラン。



「クローディア殿」

「どうしたの?紅丸」


先ほどまで沈黙しながら事の成り行きを見守っていた紅丸が、情報収集の為に歩きだした途端その口を開く。


「貴殿とレオナルド殿は、番なんでござるか?」

「・・・・・・は?」


突然、あまりに聞きなれない単語で頭が真っ白になった。




『番とは』


・二つのものが組み合わさって一組みになること。また、そのもの。対。

・動物の雄と雌の一組み。または、夫婦。「文鳥を番いで飼う」

・からだなどの各部のつなぎ目。関節。


以上、グー◯ル先生より。



この場合、紅丸が言っているのは動物の雄と雌の一組みのことだろう。


そもそも彼も本来はモンスターとはいえ、動物だ。



「あ、これは失礼申した!貴殿の番は拙者に守りを言い渡した、黒騎士の男の方でござったな!」

「ぶほぉっ!!!!」

「だ、大丈夫でござるかっ?!」


な、何を突然真顔で言いやがるんだ、この可愛い忍者風味イケメン少年は!


「つ、た、番って・・・・ち、違うから!いや違わないで欲しいけど、やっぱり違うから!久々に聞いたよその単語!番ってBのLの一部の世界なら一般常識ですけど、むしろそれが大きなメインテーマですけど!!いや、いつかなんて夢を見ても許されるなら、番ってみたい妄想でもいいからそんな未来を絶賛希望中ですっ!!」



おいおい、手に力を入れて顔を真っ赤にしながら何を一気に叫んでいるんだ私は。


「びーのえるとは、なんでござるか?」


え?

まさか真っ先にそこへ食いつくの?


「・・・・たぶん、君は知らない方がいい言葉だと思う」

「???」


それは君が上か下か、右なのか左なのかお姉さま達が親しき友相手でも真剣に戦争おっぱじめそうな勢いで討論し、その果てには無限の可能性と喜びがある、それはそれは深い底なし沼なんですよ。

この先、似たような人間に近い雄のモンスターでも出てこようものなら、すぐさまセットにされてしまうんだからな!

一度ハマったら最後、まさか生まれ変わっても変わらず腐ってるって、本当に凄いと思う。


「よくわからないでござるが、クローディア殿があの黒騎士殿に求愛中ということでござるか?」

「ぐほぉぉっ!!!!」


よく分からないって言いながら、要点かなり絞り込んでぶっこんできたな!

今心臓に向かって、ダイレクトアタックで槍が勢いよく突き刺さったよ!


「・・・・ま、まぁ、そういう事です」


直接相手に向かって求愛したことは、ほとんどないですけどね!


たぶん。



「ところで、人間はどのように求愛行動をするんでござるか?」

「へ?ど、どうって言われても」



おいおい、まだこの話題続くんかい!!


真っ赤な顔のクローディアに反して、紅丸はいたって冷静で真顔だ。

他意のない、純粋な好奇心からの問いかけらしい。


求愛行動って、動物ならば声や匂いで雄から雌にアピールするもので、鳥ならばその見事な羽を雌の前で広げてみたり踊ってみたりしながら、いかに雌の心を惹きつけられるか?というような事だった気がする。


人間でいえばなんだろう?


メールやライン?

いや、それよりも分かりやすいのはーーーーーーー。


「よう、嬢ちゃん。暇なら俺と一杯飲みにでも行かねぇかい?」

「そうそう!こんな風に食事や飲みのデートに誘うのが・・・・・って、え?」


突然耳元で響いた荒々しい男の声に慌てて振り返ると、そこにはボロボロの薄汚れた洋服に剣を腰につけた、ガタイのいい強面の男が薄気味悪い笑みを浮かべて立っていた。

すでに何杯か飲んだ後なのだろう、頬は赤く染まりその足取りはふらついている。


「な、何っ!?」

「ヒック!あんたら余所もんの旅人だろぉ?同じ余所モン同士、ヒック!仲良く、やろうぜぇ~~?」

「!?」


クローディアの肩に泥で汚れた大きな手が触れようとしたその時、男の手の平に鋭い痛みが走り、赤い血に濡れる。


「い、い、痛ェェッ!!!!」

「拙者の恩人であるこの方に、その汚い手で気安く触れるなこの無礼者がっ!!」

「くっ!!こ、このクソガキっ!!」


クローディアと男の間には、鉄爪を構えた紅丸が立ち塞がった。

今更かもしれないが、背中の翼は現在魔法でその姿を隠している。


なんて便利な翼だろうか。


「ち、ちきしょうっ!!」

「きゃっ!!」

「!?」


悔しさと怒りに顔を歪ませた男は、近くをたまたま通りかかった村人の若い少女を捕まえると、その首に隠し持っていたナイフをつきつける。

突然降りかかったきた恐怖に、その少女は声を殺しながら震えていた。



「・・・・・ッ!!」


少女と目が合い、その目が必死に『助けて!』と自分に向かって叫んでいる。

ただ巻き込まれただけの彼女に、傷を負わせるわけにはいかない。

クローディアは腰にある水龍の剣の柄に手をかけると、膝を曲げてかかとを浮かす。


「・・・・目覚めろ翼竜、ヴァルナーガ!」

「なにっ!?オンナが消えた!?」


ほんの一瞬の隙に男の前にいるのは鉄爪を構えた少年だけになり、その隣にいたはずの女の姿がどこにもない。


「!?」



そして、次の瞬間。

男が感じたのは、自分の体につけられた冷たい剣の矛先。


「ナイフをその子から今すぐ下ろしなさいっ!でなければ、このままお前の腹を斬る!」


男の背後には、消えたはずのクローディアが握りしめた水龍の剣を男の背中にまっすぐ突きつけていた。

少しでも力を込めれば、そのまま男の背中の肉に食い込むだろう。

そして前方からは、紅丸が鋭い鉄爪をいつでも男の体を襲えるようにと身構えている。


「・・・・く、くそっ!!!」

「きゃあっ!!!」

「!?」


どんっ!!と人質にしていた女をクローディアに向けて放り投げると、男は覚えてろよ!!とお決まりの捨て台詞を吐きながら一目散にその場を逃げていった。


「クローディア殿、追いかけるでござるか?」

「いや、いいよ。それよりも、あなた大丈夫?ケガはない?」


深追いするような相手ではないし、あの様子ではこの辺にいるチンピラみたいなものだろう。

それよりも心配なのは、男に捕まっていた少女の方だ。

見たところ、特にケガはしてなさそうだが。


「私は大丈夫です。助けて頂き、ありがとうございました」


少女はその名をエリスと名乗り、頭を深々とクローディア達に向けて下げた。

焦げ茶色の背中まである長い髪をした、瞳が大きな可愛らしい少女が言うには先ほどのチンピラ?男は、最近この村を荒らしている山賊達の一味だそうでその為もあって村人が余所者に対して一層冷たく関わらなくなったそうだ。


どうしよう。


こういうのって絶対フラグが立って、その山賊達がこの後にも関わってくる可能性は非常に高い。


また一波乱ありそうだ。


クローディアからは、無意識に大きなため息が吐き出される。


さらに、こういう嫌な予感は大概当たるものだということを改めて知るのであった。
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