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やってきた、深窓のご令嬢?
動き出した者達
しおりを挟む「何よ、あれは」
「アルフレドに恋してるらしい、オリビアさんです」
「じゃあなんでその王子様に恋してる女が、わざわざこの騎士院にその華奢な足を運んで王子以外の男達を積極的に誑かしてるわけ?」
「それは・・・・・・私が聞きたいです」
騎士院のお弁当を届けにやってきたクローディアとイザベルの前には、白とピンクのレースがふんだんに使われた可憐で清純な彼女自身の雰囲気にぴったりなドレスを身にまとった、オリビア・アシュ・リー・カメーリアがいる。
彼女に少しでも近づこうと、数多くの騎士院の男達が我先にと群がっていた。
そんな男達に、そのお得意?のうるうる涙でもって見つめながらの絶妙なスキンシップが彼らのハートを的確に鷲掴んでいる。
その姿に、さっきからずっと呆れ顔なイザベルに私の方がハラハラしてしまう。
「あれは、自分が男の目から見て可愛いってことをじゅうぶんによく分かっての行動ね。まぁ、見た目だけなら守ってあげたいか弱く愛らしいお嬢様だし」
「・・・・・やっぱり、分かるんだ?」
「私がいた店には、あんなのがゴロゴロわんさかと溢れてたわよ。まぁ、そこではみんな彼女よりもっと露骨に女を出してたけど、それが私たちがあそこで生きる為には必要なことで仕事だったわけだしね」
「イザベル!」
彼女の全てを聞いたわけではないけれど、それでもクローディアが想像する以上に過酷な毎日だったに違いないそのことを思うだけで胸が痛み、クローディアはイザベルを強く抱き締める。
「何よクロエったら。もう過去のことなんだし、そのおかげで今の幸せな毎日があるんだから、むしろ感謝しているのよ?」
「!?」
彼女の強さを感じつつも大きな優しさ溢れる笑顔を見て、その抱き締める力を強めたらクローディアの胸に彼女のそれはそれは豊かな存在が主張してきて、思わず赤くなってしまった。
まだ諦めてはいないとはいえ、この女性らしいラインはとても羨ましい。
「クロエッ!!!」
「!?」
そんな私の後ろから、ちょうどイザベルと3人でクローディアがサンドされるかのようにレオナルドが飛びついてくる。
「よかった!あの女がそばに来ると、またアレが来る気がして俺苦手だっ!!」
「あら、ワンコくんがここまで露骨に嫌うなんて珍しいわね?」
レオナルドはイザベルに対しても特に反応がなかったぐらいだが、ここまであからさまに避けるほどではなかった。
「・・・・・・心臓がドキドキして、仕方がないんだって」
「はぁ?」
「た、ただのドキドキじゃないんだってばっ!!もう全身が心臓になったみたいにバクバク音が耳から離れなくて、息も上手くできないし、あれは本当に怖かったッ!!」
どうやら、ときめきのドキドキとは違うらしい。
そのままクローディアの肩口に顔を押し付けているレオナルドの顔は見れないが、その声からして涙ぐんでいるのだろう。
とりあえず、少しでも落ち着くように頭をポンポンとたたいてみる。
こうしてそばにいて触れていれば、あとは他者自動回復機能が勝手に作動して回復してくれるはずだ。
よく本気で怖い夢を見て目覚めた直後にそんな体験をしたことが一度か二度はしたことがあるが、あんな状態になるのならば確かに勘弁願いたい。
「クロエ、来ていたのか」
「あ、グレイさん!体はもう大丈夫なんですか?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
グレイさんは先日あのオリビア嬢を送って先に店を出て行ってしばらくした後、ちょうど帰ろうとしていた私達のところへ突然空から現れて落ちてきた。
『しっかり、受け取ってね』
その直前、クローディアの脳裏に誰かさんの声が聞こえたこともあり誰の仕業かは疑う余地もなかったが、クローディアの腕ではさすがに長時間抱えることはできず、そのまま地面へと2人して倒れそうになったところでジークフリート様がすぐさま後ろから支える。
彼の魔法の為に、しばらく意識を失っていたグレイさんの体は冷たく汗が吹き出ていた。
そのグレイさんですらも彼女に近づくのをさりげなく避けているようなそぶりを見せ、よっぽど体がきつかったに違いないことがそれだけでも分かる。
だが、今騎士院で彼女にメロメロになっている男達にはそんな辛そうなそぶりはどこにも見えない。
私がじーーっとオリビア嬢の方を見ていると、それにたぶん気づいただろう彼女が次の瞬間、眩暈を起こして近くの男の腕の中に倒れる、というのを本日ですら何度も繰り返している。
なんとも都合のいい立ちくらみだ。
「おいおい、可愛い女の子がいるからってそう睨むなよ!」
「お前と違って、オリビアさんはか弱い女子なんだから!」
「べ、別に睨んでなんか・・・・・っ!」
すっかり男達のハートを掴んで味方につけたオリビアは、涙ぐみながらそんな男達に悪いのはクローディアさんではなくわたくしの方です、とその白磁の肌に大粒の涙を流す。
ただ見ていただけなのに、なんて大げさな対応かしらね?と鼻を鳴らしているのはクローディアから離れ、その横で腰に手を当てながら立っていたイザベルだ。
クローディアと、その後ろでかなりの力でしがみついて離れないレオが重かったらしい。
「あ、あの、そういえばジークフリート様は?」
ついさっきまで、クローディアの護衛という体ですぐ後ろにいたはずの彼の姿が今はどこにもない。
「少し所用で出ると、代わりに俺がきた」
「!?」
なんだろう?
それは色んな部署から引っ張りだこで毎日大変忙しい『仕事のできる男』である彼からすれば、いつものことなのに何か妙な胸騒ぎがして一応の保険としてマーズを呼び出して彼の元へと送り込む。
目下一番の強敵である黒の魔女やその配下の者が現れれば、ボルケーノ達が黙っていないだろうし、そんな彼らも最近は特にこちらへ声をかけてくることもなくとても静かだった。
ルークが最近何やらずっと魔法院を離れて、どこかへ行っているらしいがその理由を聞いても彼はすぐに教えてくれないだろう。
「ありがとうございます!」
「いや、それより例の店からケーキとお茶が届いたんだが、食べていかないか?」
「まさかRUKKAのっ!?ぜ、ぜひ食べていきますっ!!」
「あら、それは私も同伴していいのかしら?」
「もちろんだ。レオナルド、お前はいい加減彼女から離れろ!」
大興奮で喜ぶクローディアと、そんな彼女を優しく見つめる彼に気づき、片目をつむって一応の同伴の許可をおかしそうに笑いながら取ったイザベルの横では、意地でも離れない!!と駄々っ子のように歯を食いしばって力を込めるレオナルドがいた。
「いーーやーーだっ!!またしばらく会えないかもしれないし、絶対絶対離れない!!」
「いや、明日も来るからね?」
「そうよ、ワンコ君♪私がちゃんと責任持ってクロエをここき連れてきてあげるから」
「本当?また、急に何日も会えなくなったりしない?」
「!?」
少し前の冒険に一緒に連れて行ってもらえず、トータルで結構な日にち会えなかったのがかなりショックだったらしい。
涙でうるうるさせた目で上目遣いのまま見つめられれば、なるほど確かに胸にキュンとくるものがある。
オリビアのように華奢な体つきでは決してないものの、捨てられた子犬というより大型犬だが、ここまで素直に感情を表現されるとやっぱり心に響かざるをえない。
「もちろん!はい、約束」
「クロエ?」
「!?」
彼に小指を向け、唖然とした様子の彼の手を無理やり掴んで小指を絡ませると、私は例の歌を口ずさむ。
その光景に反応したイザベルが、懐かしいようなそれでいて切ない表情でそれを見つめ続けた。
無意識に、両の手首につけられたシルバーの腕輪へとそっと触れている。
「指きった!はい、これでもう大丈夫!」
「約束、だからね?」
「はいはい。それより早く、RUKKAのおいしいケーキと紅茶を食べようよ!お昼まだだから、お腹すいちゃって!」
「クロエッ!!」
「?!」
一度離れたはずのレオナルドが、今度はクローディアの腕を引っ張り正面から彼女をしっかりと抱き締める。
「ど、どうしたの?」
「わかんない!わかんないけど、なんかザワザワして!」
「・・・・・・レオ?」
その体がわずかに震えているのに気がつき、彼が何かに怯えているのはわかった。
その背中をポンポンとたたいてなんとか落ち着かせると、グレイさんと4人でランチタイムと言いながらのお茶会をする為にそこから移動する。
そんな彼らに、騎士院の男達に囲まれていたオリビアの鋭い目線が一瞬だけ向かった。
その頃、時を同じくした騎士院の裏側では。
「・・・・・・・またか」
先ほど、クローディアの護衛についていたジークフリートがいくつかの殺気を感じて様子を見にきてみれば、やはり5・6人の荒くれ者が武器を片手に彼女へと襲いかかろうとしているところだった。
どの男達も剣を手にしているとはいえ我流で、しかも剣だけでなく懐には毒の剣や針、鎖鎌などの隠し武器を持っていて、実力はさほどではないものの少しの油断が命取りとなるような状況である。
だが、たった1人で彼らに応戦するジークフリートには強すぎる味方が側にいた。
『はっはっはっ!!なんだ、また道具に頼りきりの骨のない者ばかりではないか!!』
「いや、あなた様の前ではどんな強者も小さき者になってしまいますよ」
『何を言うか!我がいなくとも、そなたならこんな小物の10人や20人は簡単であろう?」
「それは買い被りすぎです、ボルケーノ様」
そう、ジークフリートが持つことを許されていている炎の剣の真の持ち主である、神ボルケーノが加勢してくれているのだ。
その為、荒くれ者がどんな人数になろうとほとんど彼に近づくことが許されぬまま、その炎に巻かれて意識を失っていた。
そんな彼らの元にその大きな翼を広げたマーズが、空を旋回しつつジークフリートの肩口へとその足を止める。
『ほぉ、我が主がそなたの不在を心配しておるようだ』
「・・・・全く、狙われているのはあいつだというのに」
そこには少しも気づかず、自分の身を案じる彼女に向かって大きなため息をつく。
『仕方があるまい。我が主は自身に向けられる感情にはちと鈍いのだ。敵意にも、愛情にもな?』
「・・・・・・・ッ!!」
ニヤリと、ボルケーノからジークフリート自身へ向けての笑みに気づいた彼の頬がわずかに赤く染まる。
「彼女の元に、戻ります」
そのまま踵を返し、黒いマントを翻しながら騎士院の中へと戻っていくジークフリートを笑いながら見送り、ボルケーノもそのまま空へと消えるようにして姿を消す。
その光景を少し離れた場所で見ていた1人の青年が、ギリッとその歯を食いしばってその唇から血を流した。
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