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やってきた、深窓のご令嬢?

別れと始まり

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次の日、グランハット国から迎えの兵士達が前の晩に到着したこともあり、ランディ王子とティナさん・ルドラ将軍達は自国へと帰ることになった。






その前日の夜には、王室の人達でそれはそれは豪華な晩餐会が開かれたらしい。

ぜひともそこは一緒に参加したかったしお誘いも直接来ていたのだが、夜はお店の仕事があるからと丁重にお断りさせて頂いた。


実は、先ほど話した通りグランハット国からの兵士達が大勢アルカンダル王国へ来たのだが、夕食はぜひにという国王様からの有難い勧めもありなんとほとんどの兵士達がうちの店に来たのだ。

そして彼らと情報交換がしたい我が国の騎士院の男達がそこへ集まり、店内はかなりの大盛況となった。

最近なんだかんだと本来の仕事をせずに冒険ばっかりしてたから、忙しい時に手伝わせて頂かないとそろそろ首が飛びます。



いや、すみません。

はい、これ建前です。


もちろんその中に騎士院代表のジークフリート様にグレイさん・レオもいたからこそ、こっちの場にいたかったのが本音です。

大変忙しい職務にあるジークフリート様がうちの店にいるなんて、こんな夢のようなことは中々ない!と、正直浮かれまくっていたクローディアはイザベルが呆れるほどとにかく張りきった!


大した用がなくとも、呼ばれてなくともジークフリート様のいるテーブル付近をひたすらに歩き回った結果。

そのつど満面笑顔のレオに飛びかかられて彼を投げ飛ばすが、能力の上がったレオがその都度空中回転して見事に着地するというセットを何十回と繰り返し、お客さんに拍手されたり笑われてはお母さんの『店内を破壊したら許さないわよ?』という冷たい笑顔の視線を浴び続けるはめに。

もう、これは騎士院でこの身に染みついた条件反射のようなものなんだけど、騎士院の人達は馴染みある光景にむしろ喜んでもっとやれ!などと煽ってくれたもんで、余計にその回数が増えたのだ。




そんな騒ぎは深夜まで続き、従業員のほとんどは定時で家に返してからはお母さんとクローディア、イザベルが残って店の閉店時間もいつもより大分伸ばして営業した。


客の兵士達は、時々お店で披露していたという即興でのフラメンコに似た踊りを披露したイザベルの美しさと、その溢れる色気に釘付けになってどの人も夢中そのもの。


お客の常連さんの中には音楽家がいて、彼らの歴史を感じさせる民族音楽がその場をさらに盛り上げていく。

その間に、クローディアとお母さんが片付けや追加の注文をどんどんやってのけるという感じだ。

本当はジークフリート様と今回のアルフレドの件で色々話したかったのだが、当のジークフリート様が騎士院のみならずグランハット国の兵士達からも剣技や戦いの場での実践的なアドバイスをぜひとも聞きたいと囲まれ、ほとんどろくに近づけもしないまま終わってしまった。


さすがは我らが英雄、ジークフリート様!!


男性からもモテモテです!!





 

あの後ーーーーーーーーアルフレドからの依頼を冷静になって考えた時に、ふと頭をある事がよぎったのだ。

ジークフリート様と『護衛』という名で側にいられるからって浮かれていたが、これはいつもの死亡フラグではないのか?と。

もしこれが既存のアルフレドルートのイベントなのだとしたら、他ルートではあんなにも仲の良かったローズとオリビアが好きな男の為にライバル・敵対関係になるということになる。


うん、これはかなりの恋愛あるあるです!


ならば、狙われるのは間違いなくライバルであり彼女にとって何よりも邪魔な正統派主人公『ローズ』。

そしてそのローズを守る為に、命の危険にさらされるのは側で守る役目となったジークフリート様だ。


ならば、ローズ不在のままほぼ同じイベントになりつつある今回も、同様に危険があるのではないか?と。

これまでかなりのフラグを折りまくった、ジークフリート様限定フラグクラッシャークローディアのサイレンがどこかで警鐘を鳴らしている気がしてならない。







さらに言えば、今回のオリビアはクローディアと同じ転生者の可能性がある。

前世が何歳の、もしかしたら性別も違う!?方が中にいらっしゃるのかもしれないが、彼女の表向きの目的がアルフレドの好感度を上げているところを見ると、ローズの代わりに婚約者になりアルカンダル王妃として君臨するハッピーエンドに恐らくは向かっているはずだ。

オリビアは他ルートでは、彼女によく似た内気でおとなしい別の貴族のご子息との縁談が決まって嫁いでいくのだが、アルフレドルートの彼女の最後は残念ながら分からない。

モブのクローディアはローズがどのルートに進もうと全く関係ない位置だっただけに、生死の問題や良くても追放が待っているような悪役令嬢の生まれ変わりとはそこの部分の覚悟が違う。

クローディアの最重要課題は、ジークフリート様が無事に生きて幸せな未来に突き進むこと、それだけである。




カンカンカンカン!!


新しいフラグ?が立ちそうな為、ここで緊急脳内会議を行います!


『はい!!彼女(彼?)のライバルとなるだろうローズがこの場にいないなら、フラグどころかイベントすら進まないのでは?』


議長『確かに!!』


『はい!!いやいや、そのポジションになぜか無理矢理私が当てはめられてる今、イベントは必ず起こるものと思われます!まずは彼女と話し合い、私が好きなのはジークフリート様なのだと誤解を解く事が最優先かと!!』


議長『確かに!!』


『はい!!そうです!相手の中身が男女どっちだろうと、その望みがTLだろうと支配者になる野望だろうと、いやもはやこの際BLだろうと、上手くすればお互いの目標の為に協力し合える平和的解決も夢ではありません!!』


カンカンカンカン!!



議長『確かに!女の嫉妬ほど、いや男の嫉妬?いやもうどっちでもそれより怖いものはこの世にない!まずは早々に会って誤解を解く必要があるっ!話はそれからだ!!』


『『   賛成ッ!! 』』



議長『それでは諸君、健闘を祈る!!』



『『  ラジャーーーーーーー!! 』』






「よしっ!!!」

「・・・・・・何がよしっ!!だ、このブスっ!!!」

「!?」



意識を脳内会議から現実に戻したところで、クローディアの視界は青いスライムの山に埋め尽くされる。


「ふぎゃっ!!!!!」


攻撃力はほとんど皆無な青色スライムな為、埋もれたところで痛くはないが、その重さに耐えきれずクローディアは腰を抜かしてその場に座り込んだ。



ここはアヴァロニア城の謁見室。


王と王妃が玉座に座って見守る中、最後の挨拶にとティナとルドラ将軍が2人の前で挨拶を交わしていたのだが、ルドラ将軍の話がかつて通っていた小学校の校長先生並に匹敵するぐらい長く、しかも難しい言葉の羅列が飛び交う話にうっかり魂が別のところへいきかけ、脳内会議へと逃げ込んだというわけです。

スライム越しに見えた王の隣には、そんなクローディアに対してアルフレドとエリザベスが呆れて息をつく姿があった。


いや、これ普通ですからね?


寝なかっただけマシだと思ってくださいよ、本当に。



そしてーーーーーーー。



「・・・・・ら、ランディ様?」

「この僕との別れの前に、上の空で何を考えてたんだこのどブスっ!!」



スライムをどけた先にいたのはアレキサンダー王やアルフレド達だけではなく、だいぶ見慣れてきた可愛い真っ赤な怒り顏。

ほおがつきたての柔らかな餅のように膨らんでおり、思わず触れたくなってその顔へと手を伸ばしたら、その手が届く前に別の手が彼の頬を左右からつかんで力いっぱい引っ張り上げた。



「ランディィィーーーーーーッ!!!」

「いってぇぇぇーーーーーーッ!!!」



ランディ王子の後ろから眉間にシワを寄せた、血の繋がりはないはずなのに面差しがどこか彼ととてもよく似た怒り顏をしたティナが現れた。


「あんたはなんで、クローディアちゃんには特にそんな失礼な口を聞くんだいッ!!」

「う、うるひゃい!!は、はなへっ!!」

「全く!ごめんね、クローディアちゃん」

「い、いえ。私は全然気にしてないんで」



むしろ、彼の頬の方が今は心配だ。



「ひててててッ!!くそっ!あの女、力いっぱい引っ張りやがって!!」


ティナの手が離れた頬はジンジンとまだ痛みが残っており、心なしか腫れてるような気がする。


「・・・・・大丈夫?」


そんな彼に、輝く金髪と天使のごとき笑みを浮かべた少年が濡れたハンカチをそっと差し出した。


「遅いぞ、ラファエル!!」


その手からハンカチをいささか乱暴気味に奪い取ると、すぐさま頬へとそれを当てる。


「君も、いいかげん素直になったらいいのに」

「う、うるさいっ!!」

「・・・・・ランディ」


部屋の隅の床に座り込んだランディの隣に、ラファエルも静かに座り込んだ。


「ねぇ、今度は僕が君の国に行くからね」

「!?」

「君の生まれ育った国をすぐ見に行くから、少しだけ・・・・・待っててくれる?」


首をちょこんとかしげ、ラファエルはランディ王子の顔を覗き込みながらその時を思い浮かべ、それは嬉しそうに笑った。


「ふ、フンッ!その時まで僕がお前を覚えてたらなっ!!」


ツン!!と、ラファエルからその真っ赤な顔を思いっきり逸らしながら、それでもその口元だけは笑っているのをラファエルは知っている。


それはつまり、忘れる前になるべく早く来い!ということ。

ラファエルはランディの言葉に、心から嬉しそうに笑いそして彼にそのまま優しい眼差しを向けている。







そんな2人を色んな妄想を駆け巡らせながらニヤニヤして眺めていると、側に胸を張ったアルフレドがやってきた。


「おい、昨日のことは覚えているだろうな?」

「・・・・・・・・・へ?」

「なんだ、その締まりのない顔はっ!!」

「!?」



しまった!!


この場には距離が離れているとはいえ、部屋の入り口付近にはジークフリート様が警護でいたんだった。

これから青年に向かっていく過程の中でしか見ることのできない、短くも儚く尊い少年達の姿についつい己の妄想を膨らませ過ぎた。


「例の女には今日の夕方前ならお茶ができると連絡して、すでに向こうも承諾済みだ」

「そしたら、そのオリビアさんがこのお城に来るってこと?」

「いや、王都に特別室がある店があったからそこを貸し切ったぞ?」

「・・・・・・え?」

「名前はなんと言ったか?確か、るなんとかっていう店だとエリザベスが話してたんだが」

「ま、まさか・・・・・RUKKA??」

「あぁ、そうだ。確かそんな名前だ」

「!?」



がしいっ!!!!



「な、なんだっ!?」


クローディアは無言のままアルフレドの両手を包み込むようにして握ると、その手をブンブンブンと上下に何度も降り続ける。


「そ、それって、もちろんジークフリート様も一緒だよねっ!?」

「お、お、お前の護衛役なんだから、そ、そ、側にいなきゃ意味ないだろうが!」

「!?」


くわっ!!と目を限界まで見開き、血走った目から感動のあまり涙をダラダラと流したクローディアがアルフレドの腕をさらに何度も上下に激しく降り続ける。


 

こんな素晴らしいラッキーが舞い込んで来るなんて!!



きっと慈悲深い神様は私のことを空から見ていて、ご褒美をくれてやろうではないかと破格の優しい心遣いをしてくださったに違いない!!



「な、な、なんなんだっ!?」

「ありがとう!!ありがとう!!アルフレド、いやもうアルフレド様!!メチャクチャ感謝感激です~~!!」



まさか、ジークフリート様と一緒にあの『RUKKA』に行けるなんて!!

2人きりじゃないけど、そこは脳内変換で都合のいいように切り替えてしまえば問題なし!

一生に一度のこのビックチャンスを、決して逃してなるものかっ!!!






心の奥底でメラメラと迫り来るときめきイベントに向け、気合を入れまくって燃え上がるクローディアの後ろでは、そんな彼女を見ながら黙ったまま考え事をするジークフリートがいた。


(・・・・・RUKKA?確か、街にある割と普段から行列が並ぶ人気店だったな)


女性に人気のその場所は自分を含めた騎士院の者はほとんど出入りする機会はないものの、そのあまりの人の多さに警護を依頼されたことは昔から時々あったように思う。


あんなに泣くほど喜んでいるということは、その店がそれだけ好きなんだろうか。


それならばすぐには無理かもしれないが、もしこの先休みがゆっくり取れそうな時は彼女をあの店に誘ってみようか。


甘いものは得意ではないが、それで彼女が喜んでくれるなら十分だ。

いやそれより、いつまで彼女はアルフレド様の手を握っているんだ?







果たしてその日がいつになるかは定かではないが、ジークフリートがそんな想いを抱いていることすらも今の彼女は何も知らない。


彼からまっすぐに注がれる強く熱い眼差しの意味にも気づかず、舞台は新しい風を受けながらさらに開かれていく。







そして太陽が真上から西に傾いた頃。


迎えの兵士達に守られながら、ランディ達は無事にグランハット国へと旅立った。




彼らとほぼ入れ違いに、アルカンダル王国の王都には豪華な馬車に乗ってやってきた1人の令嬢が連れの召使い達とともにその足を踏み入れる。

二頭の白馬の引く馬車から静かに降りたそのご令嬢は、王都の入り口からまっすぐにある店へと向かった。



その姿は、胸あたりまであるプラチナブロンドの髪が柔らかく波打ち、繊細なデザインの銀細工でできた美しい髪留めでねじり上げた前髪を後ろで止めているため、顔から首にかけて、その日焼けをこれまで一切したことがないかのような月の光を思わす透明感のある白い肌がとてもよく映えた。

その細身で華奢な体を包むのは、見事なレースの刺繍で編み込まれた純白のドレス。

その瞳はパッチリと大きく、長い睫毛が縁取ったその色は水晶のように透き通った水色。

その顔立ちは妖精のように可憐で愛らしい美しさをもち、王都ですれ違う者は皆全て彼女へとその視線が奪われ振り返った。


エリザベスの凛とした品のある美しさをユリに例えるならば、彼女は可憐な愛らしさを持つスズラン。



『オリビア・アシュ・リー・カメーリア』



オリビアは遠くに見えるアヴァロニア城を見つけると、頬を赤く染めながらうっとりとした様子でその城を静かに見つめ続けた。
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