上 下
154 / 212
2人の王子

生まれ落ちた場所

しおりを挟む

ぼくの名前はランディ・ラル・シ・アンブリッジ。

グランハット王国の現国王である、セイアッド王とクラリス王妃の間に生まれた1人息子。



ぼくが生まれた時、母上の周りにはたくさんのモンスターが突然現れそのあまりに恐ろしい光景に気を失った母上は、それからは実の子であるぼくを魔性の子として怖がり近づかなくなった。

母上は貴族の中でもいわゆる箱入り娘で、両親からとても大事に育てられモンスターなど生まれてから見たこともない人だった。


幼い頃のぼくを直接育てたのは国で唯一の高位の魔法使いである高齢のじいさんで、それも今思えば実験動物のような扱いだったと思う。

物心ついた頃、魔法使いのじいさんが亡くなりぼくは再び両親の元へと戻された。


第一皇子としてのぼくを父上はなんとか育てようとしてくれていたが、母上はぼくを見て「お前なんか私の産んだ子じゃない!あの子を返して!!」と会うたびに泣き叫ばれ、一度もその手にぼくを抱くことはなく、『化け物を産んだ母親』という事実に耐え切れなくなった末に湖へとその身を投げた。


そう、ぼくのせいで母上は死んだ。


だけど、そのことで父上がぼくを責めることは一度もはなかった。

いっそのこと責めて憎んでくれれば、いつだってぼくも母上と同じところへ行ったのに。


そして周りのメイドや兵士達が、ぼくを遠巻きから奇異の目で見ることが何よりも辛かった。

みんなぼくを腫れ物に触るように自ら関わろうはせずに、ぼくがいたずらを仕掛けなければ側にも近寄らない。

そのいたずらも悲鳴をあげて驚きはするものの、ぼくを叱ったり反撃してくるような人間は国王である父上を恐れて大人も子どもも1人もいなかった。


だから、こんな頬の痛みは知らない。


あんな風に感情をぶつけられて、どうしたらいいのかなんて分からない。



「・・・・・くそっ!!」


ランディ王子はとにかく外に出ようと廊下を走り続けたが、何も分からない城の中ではどの道が外へ通じる場所なのかも分からず、闇雲に足を走らせる。

途中、見張りの兵士に見つかるが幻影つきのスライムをそのつど召喚しては逃げきった。


「へへっ!お前らなんかに、つかまるもんか!!」


この国に来る少し前に、父上からもうすぐ新しい妃を迎えることを聞いた。

形式上、自分とは血の繋がらない母親になる。

その女が父上と子どもを作って産めば、その子は自分以外に初めてとなる正式な王位継承者だ。

自分のような異端の王子ではなく、皆と同じ普通の人間の王子。

そうしたら自分の居場所など、あの国にはどこにもない。


いや、だからこそこの国に父上はぼくを連れてきたんじゃないかと思っている。

用無しになったら、いつでも国を出て行けるようにと。




だったら、直接そう父上から言ってくれればいいんだ。

出て行けと、一言そう言ってくれればいつだってあんな国などこっちから喜んですててやるのに!!



「!!??」


その時、突然目の前にランディ王子よりもひと回り大きな背丈を持つ炎の鳥が目の前に現れて、その足を止める。


「な、なんだ?モンスター!?いや、ぼくはお前なんか召喚してないぞっ!?」


無意識に呼び出してしまったことも何度かあるが、それでもこんな立派で力の強そうなモンスターを呼び出したことなど一度もない。


「その子は私が呼んだんですよ、ランディ王子!あぁ、やっと追いついたっ!」

「お前はっ!?」


後ろを振り向けば、先ほどまで一緒にあの部屋にいた庶民の無礼女が息をきらして自分に向かって走って来ている。


「ま、まさか!お前も召喚ができるのか?」


グランハット国では、自分と同じような人間は1人もいなかった。


「うーーーーん、これも召喚になるのかな?一応魔法が使えるんで、その子も炎の魔法によるものなんです」

「・・・・・お前、魔法使いなのか?」


グランハット国では基本的に魔力を持つものよりも武力を扱う者がはるかに多く、正式な魔法使いと呼ばれる本格的に魔力を扱えるような存在は亡くなったじいさん以外はほとんどいなかった。

ここは、こんな庶民の小娘が普通に魔法使いとなれるぐらい全体的にも魔力が強い国なのだろうか?


「まぁ、そうですね。神殿で転職した覚えはないですが、魔法使いになると思います」

「・・・・そうか。お前はその力で、まわりからこわがられたりはしないのか?」

「え?」

「お前の母親は、魔力のあるお前でも嫌がらずにちゃんと育てたのか?」

「あ、はい。私の魔力は、後天的というか最近目覚めたものなので」

「・・・・・・そういうことも、あるのか」



どうしてぼくの魔力は、生まれた時から生じていたんだろう。

どうしてぼくは、魔力が一般的なこの国で生まれず、魔法に知識と理解のある女性がぼくを産み育てなかったのか。

どうしてぼくのまわりには、この女のように魔力を普通にあつかうものがたくさんいなかったんだ?



「ら、ランディ王子?」

「うるさい!!ぼくに近よるな!!」



近寄るな!とあれだけ大きな声で叫んだのに、女は近寄ってくる。


「来るなと言うのが、聞こえないのか!!」


ブスは顔だけじゃなくて、耳までおかしいのか!?

女からすぐに逃げたいけれど足が疲れてもう動けないし、召喚を兵士たちに向けて使いすぎたせいか体がズンと重く感じてしかたがない。

それから、なぜかだんだんと視界がぼやけて上手く周りが見えなくなったと思った瞬間、ぼくの体はとても暖かい何かに全身が包まれた。


「・・・・・は、はなせ!!ぼくに気安くさわるんじゃない!!」

「嫌です。ランディ様が泣き終わるまでは、離しません」

「く、くそっ!!お前みたいな無礼な女は、だいっきらいだ!!」

「嫌いでいいですから、今は側にいさせてください」

「!!??」



女の腕の中は、信じられないほど温かかった。
  
 
なぜか、ぼくの目からは涙が止まらない。

こんな風にほかの人間にだきしめてもらうなど、いったいいつぶりのことだろうか?








本当はずっと、『あの人』にこうして受け止めてもらいたかっただけなのに。





「・・・・・うっ、うっ、うわぁぁぁーーーーーーーッ!!!」



声をあげて泣いたのは、母上が死んだ時から初めてだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...