大好きな恋愛ゲームの世界に転生したらモブだったので、とりあえず全力で最萌えキャラの死亡フラグをおっていきたいと思います！

ウンディーネ様のいる闇の神殿へ

呪いの代償

『・・・・・我を呼びましたかな？水の神、ウンディーネ様』


「！？」


黄金に光る金色の髪をなびかせながら、鋭い眼光を持つマグオートの目線は自分に対して驚きの表情を向けるルークへとまっすぐにそそがれ、次いでその隣で同じように驚愕の表情で固まるクローディアへ。

そして、ウンディーネ様の隣で自分に対して膝をおって頭を深く下げるカルロと、最後に姿形は変わろうともその魂の輝きは何ら変わらない愛しい娘へとゆっくり向けられた。


『えぇ、お呼びいたしました。あなたの子孫にかかる呪いを解いてほしいのです』

『！？』

 
「エルフ王・マグオート様！！無礼とは重々承知の上です。子孫に罪はありません！！アイシス殿の命を縮めた罰は、どうかこの俺だけに与えてください！！」

『違うわカルロ！！あなたはもう十分に罰を受けた！お父様！これ以上の罰ならば、お父様の忠告を聞かず軽はずみな行動をした私にこそ与えてください！！』


頭を下げるカルロを庇うようにして、アイシスがマグオートの前に立ちはだかる。

何百年経った後にも関わらず、姿だけでなくその心の何もかもが変わらない２人の姿にマグオートは大きなため息をついた。


『・・・・・アイシス。この何百年と人間界にとどまり、お前は幸せだったのか？』

『！？』


何百年ぶりに再会した親子は、ようやくその目をお互いにそらすこと無く見つめ合いながら話をし始める。


『・・・・・幸せ、でした。カルロと私の子が生まれて、その子どもの成長を見守る中で、私はようやくお父様やお母様の気持ちが少しかもしれないけれど分かったの。何でお父様は私の気持ちを分かってくれないのかと、そればかり考えて求めていたけど、実際に子ども達を見ていると』


ケガをして欲しくない。

苦しんで欲しくない。

誰よりも幸せになってほしい。



『そればかりを考えて、気づけば彼らを危険から遠ざけたい。止めたい気持ちばかり大きくなる自分がいたわ』


それでも、子どもたちは自分の意思で新しい道を突き進んでいく。

危険と言われようとも、望んだ道を突き進んでいく。


もちろん人間には優しい人もいたし、そうでない人もたくさんいた。


それでも、一生懸命にその限られた人生を歩んでいた。

カルロの人生を本来の寿命からすればとても短かくしてしまったことを後悔して苦しんだこともあったけど、だからこそ今は彼らの側にいてその人生を最後まで見守れたことがとても嬉しい。


『お父様からすれば危なっかしい、心配ばかりかける親不孝な娘で本当にごめんなさい。それでも、私は違う選択肢を選べない。何度やり直したとしてもやっぱりこの道を選んでしまうと思うわ。だってこの道でなければ私は何も気づけなかった。これだけの時間をかけなければ、お父様の深い愛にも、人を心から愛する喜びにも気づけなかったわ。こんな愚かな娘を、どうかお許しください』

『・・・・・・・』


泣を流しながら、それでも顔は喜びに溢れながらアイシスはこの何百年、痛いほどに感じた父と母への思いを込めて頭を深く下げる。


マグオートはそんな娘を静かな眼差しで見つめていた。

そしてアイシスに何も答えないまま、ルークへと目線を向ける。


『・・・・・ルーク、といったな。我が誇り高き眷属の血を引きし者よ』

「はい」


ルークもまた、静かな面持ちでエルフの王であるマグオートに膝を折って敬意を礼で示した。

彼は魔力の源を司る偉大なるエルフの長であり、自分や母アナスタシアにとっては始祖に当たる、本来自分がただの人間であれば決して巡り会うことはないはずの存在だ。

歴代の魔法院の者でも、恐らく彼との邂逅を許された者はただの１人もいないだろう。

その血を僅かながら引く自分ですら、まさか生きている中で会える機会があるなどとは思ってもみなかった。


『そなたは、呪われたその身を恨んだか？』

『！？』


マグオートの質問に対して緊張を走らせたのは、アイシスとカルロ。

ルークは顔色も変えずに、涼しい笑顔のままでマグオートにその答えを返す。


「・・・・・僕は、呪われたこの身を恨んではいません」


『ルークっ！？』


「世界には、元々の寿命がほんの一瞬しかない生き物もたくさんいる中で、僕は２０年近くの命を貰えました」


魔法の修行の為に色んな国へ行き様々な生き物の生態を知り、色んな形の生を学んだ。


「その限りがあったからこそ、僕はその中で何がしたいかを常に真剣に考え動くことができた。生きてる間で、叶えたい望みだけに向かうことができた」


だからこそ時間は何よりも貴重なのだと貪欲なまでにあらゆることを欲して、その為ならばどんな場所にでも躊躇なく飛び込めた。

それは『死ぬ』怖さよりも、それをしないで『後悔』で終わる怖さが勝ったから。


「何がしたいか、何が欲しいのかも分からないままただ永く生きることよりも、今の方が僕はずっとこの命を有効に使えたと思ってます」


そこまで話すと、ルークはアイシスとカルロの方へ向き直る。


「・・・・全てを受け入れていたはずの僕の母であるアナスタシアは、僕を産んだからこそ我が身の呪いを初めて心から恨み憎んだ。それは母親として子とともに生きたいという欲が初めて彼女の中で生まれたから。父は、戦争のせいで呪いがなくとも若くして死にました」


呪いがあろうがなかろうが、寿命が長かろうが短かろうが死ぬ時は死ぬのだ。


「でも僕は、１人の人間としてこれまでも十分に楽しみながら生きた。だから、このまま呪いが解けずあと数年で死んでしまっても後悔はありません。むしろ僕は、呪いをかけて頂いたあなた方に感謝しています」


『・・・・ルークッ！！』



その言葉に堪えきれなかったアイシスが彼の側へと飛び上がり、ルークの頭を抱え込むようにして強く抱きしめる。


『死んでも構わないなんて、お願いだから言わないで！！あなたはこれからも生きていいのよ！！』


「アイシス、僕は」


『ようやく、あなたの為に心から泣いてくれる人が現れたのに！！』


「！？」


アイシスの言葉に反応し、『彼女』の方へと反射的に向き直ればクローディアがすでに泣いていた。

声もあげないまま時折鼻を啜り、自分の為に涙を流すことを嫌がるように何度も何度も手の甲で両目を拭うが、その涙は一時も止まらずに流れ続けている。



「クローディア・・・・いいの？」

「！？」


ニッコリとこんな時までキレイな笑みを作りながら、ルークはクローディアに向けて聞いてくる。



『彼』がすぐ側にいるのに、いいの？

僕の為に泣いて、『彼』に誤解されてしまっていいのか？と。



こんな時まで、相手のことを考えて！！


「・・・・うるさい！！あんたはもう大事な友人の１人なのよバカルークッ！！友人の為に泣くことの、何が悪いってのよ！！」

「！？」


頭にきたクローディアはその勢いのまま、ルークの頭をローブごと拳を真上からゴン！！と振り下ろした。

ルークの方が背があってリーチが思ったよりも無く、大した攻撃力はないがそれでも十分。

そのまま彼の胸ぐらにつかみかかりながらクローディアは叫ぶ。


「これまで自分の欲と願いの為だけに生きてきたのなら、これからはアイシスさんやカルロさんの為にも生きなさいよ！！アナスタシアさんやシオンさんが生きられなかった分まで、あんたが精一杯生きたらいいじゃない！！あんたは自分が思ってるよりもずっと、ずっとみんなから愛されてるんだから！！」


「・・・・・・ッ！！」



旅の中で、ルークを大切に思う人達の心にクローディアは何度も触れた。


『俺を殺して、息子を、ルークを助けてやってください。大丈夫です。俺もこの街も、元の正しい形に戻るだけだ。あの魔導師に在るべき形を歪められた、この姿こそがこの世にあってはならない異形なのです』



戦の中で、家族を守って死んだシオンさん。


『あなたにとっても、それは辛い選択とは分かっています。それでも、愛する息子にどうか、親殺しの苦しみだけは与えないでやって下さい』



死んだ後も、きっとルークを見守っていたに違いない。

あんな形でも親子が再会できたことを、心の底では彼こそが一番喜んでいたんじゃないだろうか？



『悪いのは全部私なの。だから、お願い！あの子をどうか助けて』


この旅の前から、ルークが生まれた時から側で彼をずっと見守り続けていたアイシスさん。

彼女の記憶の中で見た母親のアナスタシアさんも、言葉数は少なくともルークを心から愛し慈しんでいた。

短い命であることを悲しみ呪いを恨みながらも、一生懸命に彼を愛してその愛情を惜しみなく与えていた。

どの人も本当に温かくて、他人であるクローディアですらその深い愛に心が打ち震えて涙が止まらない。




誰よりも幸せになってもらいたい。


根底にあるのは、その想いだけだ。





「この大バカ野郎ッ！！」

「・・・・・・全く、こちらが黙っていれば、人のことを遠慮なくバカバカと。ひどいな、君は」

「！？」






バサバサバサバサッ！！






クローディアの肩に乗っていたクロワッサリーが羽ばたきの音とともに天井へと飛び上がり、その音ともにルークの体がクローディアに覆い被さって彼女の体を強く抱きしめる。



「・・・・・・・ッ」



クローディアからルークの顔は見えないものの、僅かに震えている彼の体からもしかしたら静かに泣いているんじゃないかと思った。

その姿に、ルークを抱きしめる腕に力を込める。



『水の神、ウンディーネ様。我が子孫の呪いを解いて欲しいと願ったのは、そこにいる人間の娘なのですね？』


「！？」



しばらく黙って事態を見守っていたマグオートが、その重い口をようやく開く。


『そうですわ、森の王よ。彼女はわたくしだけでなく、イヴァーナやボルケーノの封印を解いてくれた稀有な娘です』


『・・・・そうか。それでは、数奇な運命をその身に持ちし人間の娘よ』


「は、はいっ！！」



慌ててルークから離れたクローディアは、マグオートからの強い眼差しを浴びて全身に緊張が走る。

ルークにもそれが伝わったようで『大丈夫』と耳元で囁く声が聞こえた。



『本来であれば、我らが助けるべき尊き神々を悪しき封印からその命をかけて解き放ってくれたこと、まずエルフの長として礼を言う』


「い、いえ！封印が解けたのはルークのおかげです！彼がそれを望んで行動しなければ、私は彼らの存在すらも全く知りませんでした！」


クローディアの答えに、マグオートはルークへと視線を向けてからしばらく目を閉じる。

そしてーーーーーーある決意とともに、翡翠の双眸がその姿をゆっくりと現した。


『・・・・なるほど。それではその功績への礼として、永きに渡りそなたの命を蝕んでいた我が呪いを解こう』


「え？」

「！？」


『お父・・・さま？』



その言葉の意味を理解するのにクローディア達は少しの時間沈黙を必要とし、思わず目が点になる。

そんな彼らの姿に少しだけ苦笑すると、マグオートはその威厳に溢れた重低音の声をその場で張り上げ響かせた。


『我が眷属の末裔であり、我が娘の血を引きしエルフと人間の子、ルーク=サクリファイスよ！エルフ王マグオートがここに命ずる！死の呪いから解放され、これからはそなたの時間を自由に生きるがいい！！エスペーロ・スペランツァッ！！』


「ルークッ！？」

「・・・・っ！！」

『！？』




その途端、ルークの全身に描かれていた古代文字の紋様から光が溢れ出し、彼の全身が虹色に輝く光に包まれた。