上 下
117 / 212
いざ、ルークとともに新しい旅路へ!

訪れるはずのなかった再会

しおりを挟む


黒い魔女の狂ったような笑い声がクローディアの頭の中で響く。



それと同時に、シオンさんの愛しい兄弟達を探し求める悲鳴のような声が耳の奥で響き、クローディアの心がその両方でぐしゃぐしゃにかき回されていた。


『アハハハハッ!そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ここは一度滅んだ街なんだ。生きてるように見えるだけで、実はみーーーんな動く死体みたいなものなんだから、殺したって元の形に戻るだけだよ?』


「・・・・・この街を、蘇らせたのもあんたなの?」


黒い魔女が地面へと降りてきて、怒りで強く拳を握りしめるクローディアの元へと近づいてくる。


『そうさ!すごいだろう?殺そうが壊そうが、元々みーーんな死んでるだから、好きなだけ破壊できるんだよ!』


「!?!?」



その顔に、力の限りを込めた拳を勢いよくぶつけてそのまま吹き飛ばした。


『・・・・・いたたっ!一応魔法でバリアを張ってたはずのに、それを超えてボクに直接殴りかかるなんて、やっぱり君は面白いね』


アハハッ!と、殴られたにも関わらず黒い魔女は嬉しそうにその赤くなった頬に触れ、切れた唇からの血をペロリと舐めとる。



蘇った街だろうと、復活した人達だろうと、この街に住む人達は皆生きていた。

街の人たちも、シオンさんの家族も。

みんな自分が一度死んで蘇った身だなんて知ることもなく、楽しそうな笑い声をあげながら今を一生懸命に生きてた。

それを一度死んでるから、殺したって構わないだなんてっ!!


「あんたは、人の命をなんだとっ!!」


『・・・・・殴られた分のお礼は、ちゃんと返さないとね?』


「!?!?」



クローディアの頬が何かに強く打ち付けられ、地面に勢いよく倒れこむ。

唇の端からは、黒い魔女と同じように血が流れていた。


『このボクに血を流させたんだ。これだけでは終わらないよ?』


ニヤリと口元だけが笑った黒い魔女の手からは黒い炎が生まれ、そこから何十体という魔物が現れる。


「!?」


だが現れた瞬間に、その魔物達は地面から現れた鋭い牙を持つ大きな魔物?の口にその体ごと一気に喰べられた。

喰べちぎられた魔物の手足が地面にボトボトと落ちては溶けて、黒い液体に変わる。

紫の体を持つその魔物は、円形の古代呪文が光るその地面から体をむくりと起こすと、前面に金色の大きな一つ目の巨大な大蛇となってクローディア達の前に現れた。


『これはッ!!』


「初めまして、黒い魔女。ぼくのツレに・・・・何の用?」

「ルークッ!!!」



そしてその大蛇の横からクローディアを庇うようにして、紺色のローブの青年が黒い魔女の前に立つ。


『フーーーーーン、君があの噂に名高い古の魔導師、ルーク・サクリファイスか』


ルークの登場に、黒い魔女は新しいオモチャを手にした子どものような無邪気な笑みを浮かべた。


「・・・・・白々しい言い方をするね?お前がわざわざこの街を復活させたのは、ボクの為だろう?」

「!?」


『あははっ!!そうだよ、懐かしい故郷が蘇って嬉しいだろう?ルーク=サクリファイス。君たちが近々闇の神殿に行くだろうと思って、先に用意してあげたんだ』


「用意?」


この街と、闇の神殿が直接関係があるってこと?


「・・・・・・大地の腕輪だよ」

「!?」

「うわぁぁぁーーーーー!!!」

「シオンさんっ!!」


黒い触手なようなもので手足を縛られ、全身が傷だらけで意識を失ったシオンさんが黒い魔女の隣へと、無理やりに連れてこられる。


『そう。君たちが大地の腕輪を探してると思って、親切心でわかりやすい場所に移動しておいてあげたんだ。むしろ、お礼を言ってもらいたいね♪』


「ま、まさか・・・・!?」


『大地の腕輪はここだよ。ここを壊せば、手に入る。ほら、簡単でしょ?』


黒い魔女の爪が真っ黒に染められた指は、シオンさんの心臓の辺りを指した。


「シオンさんを、殺せるわけがないじゃないっ!!」


『大丈夫だよ~~だって彼も・・・・死人だからね♪』


「!?」


『古の魔導師だったら、それが嘘じゃないってわかるよね?だって彼は・・・』



ガシャンッ!!!



先ほどまで黒い魔女がいたところに向かって、紫の鋭い氷柱が何十本もの地面から生えて突き刺す。

だが、すでに黒い魔女は空中へと逃げていた。


「・・・・・ベラベラとずいぶんうるさいね、君は。そうだ、彼はボクの死んだはずの父親だ。だからどうだっていうのかな?」

「!?」


ニッコリと、ルークがいつもよりも殺気のこもった不敵な笑顔を黒い魔女に向ける。

シオンはルークの血の繋がった実の父親であり、彼の話の中に出てきたアナスタシアはルークの実の母親だったのだ。





かつてこの街に、『シオン』という青年と恋に落ち妊娠を期に人の世界へと連れて来られた、森の奥深くに1人で隠れ住んでいた『アナスタシア』という少女がいた。


2人の出会いは偶然だったのか、あるいは定められた必然だったのか。


誰にも分からないまま、ルトラヴァイスの街を外の世界が見てみたい!と飛び出した若き青年シオンは、あちこち旅をする中で訪れたある森の中で道に迷い、モンスターに襲われて傷だらけのところを1人の少女に助けられる。


銀色の髪の見目美しい少女に心をすぐさま奪われたシオンは、もう一度会うことすらも拒む彼女と少しずつ心を通わせあい、そして2人は恋に落ちた。


夫婦の契りを交わそうとする彼に、少女は自分がある病気の為に老い先短い命だということを話したが、それでも彼は構わないと愛する君との子どもが欲しいと頑なに子どもを拒むアナスタシアを時間をかけて説き伏せ、そうしてそのお腹に一つの命が宿った。


その後、身寄りのないアナスタシアをシオンが自分の故郷に連れていき、そこでシオンの家族と暮らしながらアナスタシアは無事に男子を母子ともに健康なまま出産する。


名前を『光を運ぶもの』という意味の『ルーク』と名付け、シオンの家族がみなで力を合わせながら大事にその子どもを慈しんだ。


シオンはもちろん、シオンの両親も孫の誕生を心から喜び、シオンの兄弟達は年の離れた弟ができたような気分で心の底からその誕生を喜び、あんなに子どもを拒んでいたアナスタシアもいざ生まれてしまえば、自分の命よりも大事だと深い愛情をその子に向けて一心に与えた。




戦争という名の絶望がこの街に訪れるまで、平和で幸せな時間が確かにここには流れていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...