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いざ、ルークとともに新しい旅路へ!
訪れるはずのなかった再会
しおりを挟む黒い魔女の狂ったような笑い声がクローディアの頭の中で響く。
それと同時に、シオンさんの愛しい兄弟達を探し求める悲鳴のような声が耳の奥で響き、クローディアの心がその両方でぐしゃぐしゃにかき回されていた。
『アハハハハッ!そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ここは一度滅んだ街なんだ。生きてるように見えるだけで、実はみーーーんな動く死体みたいなものなんだから、殺したって元の形に戻るだけだよ?』
「・・・・・この街を、蘇らせたのもあんたなの?」
黒い魔女が地面へと降りてきて、怒りで強く拳を握りしめるクローディアの元へと近づいてくる。
『そうさ!すごいだろう?殺そうが壊そうが、元々みーーんな死んでるだから、好きなだけ破壊できるんだよ!』
「!?!?」
その顔に、力の限りを込めた拳を勢いよくぶつけてそのまま吹き飛ばした。
『・・・・・いたたっ!一応魔法でバリアを張ってたはずのに、それを超えてボクに直接殴りかかるなんて、やっぱり君は面白いね』
アハハッ!と、殴られたにも関わらず黒い魔女は嬉しそうにその赤くなった頬に触れ、切れた唇からの血をペロリと舐めとる。
蘇った街だろうと、復活した人達だろうと、この街に住む人達は皆生きていた。
街の人たちも、シオンさんの家族も。
みんな自分が一度死んで蘇った身だなんて知ることもなく、楽しそうな笑い声をあげながら今を一生懸命に生きてた。
それを一度死んでるから、殺したって構わないだなんてっ!!
「あんたは、人の命をなんだとっ!!」
『・・・・・殴られた分のお礼は、ちゃんと返さないとね?』
「!?!?」
クローディアの頬が何かに強く打ち付けられ、地面に勢いよく倒れこむ。
唇の端からは、黒い魔女と同じように血が流れていた。
『このボクに血を流させたんだ。これだけでは終わらないよ?』
ニヤリと口元だけが笑った黒い魔女の手からは黒い炎が生まれ、そこから何十体という魔物が現れる。
「!?」
だが現れた瞬間に、その魔物達は地面から現れた鋭い牙を持つ大きな魔物?の口にその体ごと一気に喰べられた。
喰べちぎられた魔物の手足が地面にボトボトと落ちては溶けて、黒い液体に変わる。
紫の体を持つその魔物は、円形の古代呪文が光るその地面から体をむくりと起こすと、前面に金色の大きな一つ目の巨大な大蛇となってクローディア達の前に現れた。
『これはッ!!』
「初めまして、黒い魔女。ぼくのツレに・・・・何の用?」
「ルークッ!!!」
そしてその大蛇の横からクローディアを庇うようにして、紺色のローブの青年が黒い魔女の前に立つ。
『フーーーーーン、君があの噂に名高い古の魔導師、ルーク・サクリファイスか』
ルークの登場に、黒い魔女は新しいオモチャを手にした子どものような無邪気な笑みを浮かべた。
「・・・・・白々しい言い方をするね?お前がわざわざこの街を復活させたのは、ボクの為だろう?」
「!?」
『あははっ!!そうだよ、懐かしい故郷が蘇って嬉しいだろう?ルーク=サクリファイス。君たちが近々闇の神殿に行くだろうと思って、先に用意してあげたんだ』
「用意?」
この街と、闇の神殿が直接関係があるってこと?
「・・・・・・大地の腕輪だよ」
「!?」
「うわぁぁぁーーーーー!!!」
「シオンさんっ!!」
黒い触手なようなもので手足を縛られ、全身が傷だらけで意識を失ったシオンさんが黒い魔女の隣へと、無理やりに連れてこられる。
『そう。君たちが大地の腕輪を探してると思って、親切心でわかりやすい場所に移動しておいてあげたんだ。むしろ、お礼を言ってもらいたいね♪』
「ま、まさか・・・・!?」
『大地の腕輪はここだよ。ここを壊せば、手に入る。ほら、簡単でしょ?』
黒い魔女の爪が真っ黒に染められた指は、シオンさんの心臓の辺りを指した。
「シオンさんを、殺せるわけがないじゃないっ!!」
『大丈夫だよ~~だって彼も・・・・死人だからね♪』
「!?」
『古の魔導師だったら、それが嘘じゃないってわかるよね?だって彼は・・・』
ガシャンッ!!!
先ほどまで黒い魔女がいたところに向かって、紫の鋭い氷柱が何十本もの地面から生えて突き刺す。
だが、すでに黒い魔女は空中へと逃げていた。
「・・・・・ベラベラとずいぶんうるさいね、君は。そうだ、彼はボクの死んだはずの父親だ。だからどうだっていうのかな?」
「!?」
ニッコリと、ルークがいつもよりも殺気のこもった不敵な笑顔を黒い魔女に向ける。
シオンはルークの血の繋がった実の父親であり、彼の話の中に出てきたアナスタシアはルークの実の母親だったのだ。
かつてこの街に、『シオン』という青年と恋に落ち妊娠を期に人の世界へと連れて来られた、森の奥深くに1人で隠れ住んでいた『アナスタシア』という少女がいた。
2人の出会いは偶然だったのか、あるいは定められた必然だったのか。
誰にも分からないまま、ルトラヴァイスの街を外の世界が見てみたい!と飛び出した若き青年シオンは、あちこち旅をする中で訪れたある森の中で道に迷い、モンスターに襲われて傷だらけのところを1人の少女に助けられる。
銀色の髪の見目美しい少女に心をすぐさま奪われたシオンは、もう一度会うことすらも拒む彼女と少しずつ心を通わせあい、そして2人は恋に落ちた。
夫婦の契りを交わそうとする彼に、少女は自分がある病気の為に老い先短い命だということを話したが、それでも彼は構わないと愛する君との子どもが欲しいと頑なに子どもを拒むアナスタシアを時間をかけて説き伏せ、そうしてそのお腹に一つの命が宿った。
その後、身寄りのないアナスタシアをシオンが自分の故郷に連れていき、そこでシオンの家族と暮らしながらアナスタシアは無事に男子を母子ともに健康なまま出産する。
名前を『光を運ぶもの』という意味の『ルーク』と名付け、シオンの家族がみなで力を合わせながら大事にその子どもを慈しんだ。
シオンはもちろん、シオンの両親も孫の誕生を心から喜び、シオンの兄弟達は年の離れた弟ができたような気分で心の底からその誕生を喜び、あんなに子どもを拒んでいたアナスタシアもいざ生まれてしまえば、自分の命よりも大事だと深い愛情をその子に向けて一心に与えた。
戦争という名の絶望がこの街に訪れるまで、平和で幸せな時間が確かにここには流れていたのだ。
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