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平和な一時

ドキドキお空のデート?

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クローディアがルークに連れてこられたのは、何とアルカンダル王国のはるか上空だった。


うん、確かにもう一度大空を飛びたい!と願いましたがね?

いや、これだけ高いなら無理に逃げ出して落ちてもマーズを呼べば大丈夫な気がする!



そう、ここには上空を飛ぶ際に危険となるだろう飛行機もヘリコプターもない。

いつだって大空はどこまでも自由で平和だ。


蒼い空と流れる白い雲の真ん中で、クローディアはルークの腕に横向きで抱かれたまま一緒に浮いている。


そういえばこれ、重力とかはどうなってるんだろう?

宇宙の無重力空間みたいな感じで、重さを感じないんだろうか?


自分が空を飛んだ時は、あまりの喜びに浮かれまくってそんなことは気にも止めなかったけど、こうして冷静になってみるとこの魔法の世界は本当に不思議に満ち溢れている。



「・・・・あれ?もう暴れたりしないんだ?」

「アルフレド様がどうとかじゃなくて、私に何か用があったんでしょう?」



無理にさらっていくようにしたのは、王子をからかう為か私への嫌がらせか。

これ以上この人の前でどれだけ暴れようとも、無駄な力を使うだけのような気がしてクローディアは全身に入っていた力を大きなため息とともに抜く。


「嫌だなぁ~~君を取られたくないからとは思ってくれないの?」

「それよ、それ!その胡散臭い笑顔では全く思いません!」


わざとらしく首をかしげて、ニッコリとそれはそれはお美しい100万ボルトな笑顔を見せているが、クローディアから見たら何を企んでいるのかと寒気しか湧いてこない。


「ぼくなりに、君のことは結構気に入ってるんだけどな~~♪」

「はいはい、どうせ見てて面白いからとか何とかでしょ?」

「・・・・・あれ、分かっちゃった?だって君、次から次へと面白いことばかり引き起こすから見てて飽きないんだよね♪」

「ちょっとっ!そこは嘘でも否定するところでしょうがっ!!」


思わずルークの胸元につかみかかってしまうが、ルーク自身は何を言ってもニコニコと涼しい顔だ。



そうだ。

こうしてちゃんと話すのは久しぶりだけど、前からこういうやつだった。


旅の途中もなんだかんだと思い出す出来事が起きたり、空間使って中途半端に会ったりしてるもんだから会ってない感覚がまるでないんだけど、色々な場面で実は助けてもらっている。



『えぇ。これはこの森の精霊と契約を交わした者にしか使えない印なんだけど、相手のことを大切に思う心がないと使えないのよ』

『そんなことないわ。確かに、表面では意地悪なことをするかもしれないけど、本当は優しい子だもの』



「!?」


その時ーーーーーー翠の森にて、サーラ様が話していたことがふとクローディアの頭をよぎった。

そうだ、まだあの時のお礼をちゃんと伝えてない。

あれが彼の気まぐれなのか何なのかは知らないが、翠の森だけでなくゾンビの件もバーチの時も、結局は彼のおかげでとても助かったのだ。


「・・・・あのさ、ルーク」

「なに?苦虫を噛み潰したような変な顔して」

「女子に向かって変な顔ゆうなっ!しかも苦虫って、こっちでもその表現あるんですね!」



一応、まだクローディアの年齢的には『女子』でいいはずだ。


って、そうじゃない!

お礼を言いたいのに、何で私は眉間にシワが寄った顔で怒りに叫んでるんだ?


「こ、この間は・・・・・その、あの、ありがとう」


ただ素直にお礼を言うだけなのに、なぜだかルークを前にすると気恥ずかしさ?いやなんとも複雑な心境に顔を背けたくなる。

お礼も言いたいが、それ以上にあれやこれやに対する文句を盛大に言いたい。


思ったより小さな声になってしまったが、この距離なら聞こえているはずだ。



「ふーーーーん、この間って?」

「!?」



そう、この顔だ!

絶対に聞きもらすはずがない地獄耳をお持ちなくせに、わざと聞こえないふりしてちゃんと言わせようとするんだこの意地の悪そうな笑みを浮かべた、真実意地の悪いこの男は!


「だ、だから!翠の森の時は色々助けてくれてありがとうございましたっ!!」


えぇ、今度は大きな声で叫びましたよ、彼の耳元に向かって思いっきり。


「そうそう・・・・お礼はきちんと言わないとね」

「くっ!!」


ジークフリート様なら、きっと笑って許してくれるのに!

いや、待てよ。

案外そうでもないか?


少し前に頰がちぎれんばかりに限界まで伸ばされたあの痛みを思い出して、全身が思わず震えが上がる。

わりと、一番怒らせてはいけないのはジークフリート様かもしれない。



「フフ・・・・ほら、また変な顔♪」

「はいはい、残念ながら私は元からこんな顔です。あーーあ、サーラ様はあなたのこと優しいって話してくれてたのに」

「ぼくが・・・・優しい?」

「!?」



その瞬間、ルークの表情から温度が無くなり、笑っているのにとても冷たい顔で私の顔を見下ろす。



「る、ルークさん?」

「・・・・・ねぇ、クローディア。これでもぼくは、優しい?」

「!?」


そしてその後、体に触れていた彼の手の温まりが消えて突然大空へと投げ出された。


「ルー・・・く」


いつもならすぐさま悲鳴をあげるところなのに、クローディアはその時一瞬だけルークが見せた、普段の彼からは見たことがない表情に悲鳴をあげるタイミングを失ってしまい、急降下中に慌ててマーズを呼ぶ。



なに?

今の顔?


心底怒っているような、それでいて今にも泣きそうなーーーーー表現力が乏しくて全然お伝えができないんですが、とにかくなんとも言えない顔だった。



「!?」


けれど本当にそれは瞬きの間くらいのほんの一瞬で、すぐさまその顔はどこまでも冷たい眼差しの笑顔に変わっていき、ルークの姿がどんどん遠くなっていく。


「マーズ!ありがとう!」


その時に応じてその体の大きささえも変幻自在な炎の鳥の背にのりながら、ホッと息をはいて空の上を見上げると彼はもうそこにいない。



「ーーーーーーー」


「・・・・ぼくを探してる?」

「うわぉあぁっっ!?」




そう、振り返れば奴がいる!!

思わずマーズから落ちそうになるのを、いつの間に隣にいたのかルークがクローディアの腰をそっと支えてくれているが、自分から落としたくせになんなんだお前は本当にっ!!



「フフ・・・・大丈夫?」

「大丈夫なわけあるかっ!!あんたなんか全然優しくもなんともないわよっ!!この意地悪魔導師っ!!」


そうだ、自分に利が無ければさっきみたいに平気で自分からつかんだその手をなんの迷いもなくあっさりと手放すのがこの男だ。

思い出せ、クローディア。

ゲームの中でルークの裏切りによって訪れた、主人公ローズとジークフリート様の数多の死亡フラグを!!



サーラ様。

やっぱりこの男が優しかったというのは、どんな人にも必ずあるはずの何の邪気もなかった、純粋無垢な子どもの頃だけじゃないでしょうかねっ!?


「君にまだ本題を伝えてないのに落としてごめんね?」

「ねぇ、謝るなら落としたことに対してじゃないかなっ!?」

「実は一緒に行ってもらいたいところがあるんだけど♪」

「うん、ちょっと私の話も聞こうか?!ルークくん!!」

「闇の神殿に封印されている、ウンディーネ様を解放してきてくれるかな?」

「・・・・・・・・・・・は?」



ちょっとそこのコンビニ行って、あのパン買ってきてくれるかな?

みたいなそんなパシリみたいな軽いノリで、ルークはまたとんでもないことをさらっと話してくる。


「ほら、ボルケーノ様を解放した君なら簡単でしょ?」

「・・・・・・・」

「あ、ちなみに、もしそれを君が断ったら君が大事にしてる騎士団長に向けてゾンビの大群を襲わせるから♪」

「ーーーーーーーッ」



その時、それはそれはこれまた見たこともないほど美しい顔でニッコリ笑ったルークの、男性にしてはわりと細身の首を今すぐ全力で締めたいと思った私は間違っていないはずだ。



「・・・・・それ、最初から私に断らせる気も選択肢も全くないよね?」



わざわざ一応の選択肢は出してるくせに、内容は『イエス』か『はい』的な『いいえ』『嫌です』がどこにもない、形だけは選ばせてあげたよ的ないわゆる強制ルートですよね?


「そんなことないよ?ぼくは君にお願いをしてるだけで、決めて選ぶのは君だもの♪」

「!?」




この、くそったれ!!

これのどこが『お願い』だ!?

ひどい脅し以外の何物でもないじゃないかっ!!


「・・・・・ちなみにそれ、出発は?」

「明日の朝♪」

「はやっ!!」


この間、やっとこさ王都に帰ってきたばっかりだというのに。

とりあえず、うちのお店はイザベルがいてくれるから大丈夫だ。

騎士院へのデリバリー交代は、もしやこれをお母様がその素晴らしい直感で先を見越してのことだったのではっ!?



あとはーーーーーーー。



「・・・・・わかった。ルークには何だかんだ色々と助けてもらってる借りがあるし、ボルケーノと同じ神様を私で助けられるなら、やれるだけのことはする」

「あれ?ずいぶん、あっさり承諾するんだね?」


もっとごねると思って色々準備してたのにと、って小さな声でこっそり呟くのを私は聞き逃さないぞルーク!!

一体どれだけ恐ろしいことを準備してたんだ、この魔王め!!


「・・・・その目的を果たす為の努力もするから、だからこのことは絶対にジークフリート様には言わないで」

「!?」


クローディアの言葉に、ルークの顔が少しだけハッと反応する。

そしてすぐにニッコリ笑うと、顔をわざと近づけて小声で耳元に囁いた。


「彼に黙って行って、本当にいいの?」

「・・・・・・ッ」



『ボルケーノ殿から、2人のことを聞いた俺が、どれたけ心配したか・・・・・分かっているのか?』

『いいか、クローディア。これからは絶対に俺に黙って、勝手に危険なところに行くなよ』



間違いなく目の前のこの男は『あの時』を知ってて言っている。

そうやって全部魔法か何かでずっと影で覗いて見てたなら、何で黙ってて欲しいのかも分かってるだろうに、それでもあえて聞くのがこの男なのだ。


「もちろん、いいに決まってるでしょ。分かりきってることをわざわざ聞かないで」


そんな彼に向けて、あえてその底の見えない紫の目をまっすぐ見つめて伝えた。

でも本当は、ルークではなく迷いそうになるクローディア自身に向けて言葉を出していた。


「わかった。それならぼくも彼には言わないよ」

「約束よ?」

「もちろん♪」


いざとなれば彼はこんな口約束など平気で破るんだろうが、内容的にルークにとっては心底どうでもいいことだろうからわざわざ破ることはしないだろう。


「その代わり、君も1つ約束してくれない?」

「・・・・・な、なに?」

「たとえどんなことがあろうとも、君はウンディーネ様の封印を解くことを第一に動くこと」


それまで、あの空から落とした時だって一応の笑顔だった彼がふっと真顔になる。

ルークがこんな表情を見せることは滅多にないだけに、無意識に全身が緊張感に包まれた。


「そ、それは、時と場合によるもんでしょう?」

「それでも、それが一番ってことを忘れないで。もしそれを破ったら・・・・」

「わ、わかったっ!!」


至近距離で、普段見せない真剣さを含んだ眼差しに心臓が大きく鳴り響く。





とても信じたくはないが、明日からはこの謎だらけの腹はおそらく真っ黒に近いダークネスでいっぱいだろう魔導師と四六時中一緒の旅に出るのだ。

きっと心臓に悪いどころか、何度も心臓がナイフで突き刺されるようなことが多く起こるに違いない。

大きなため息が知らずに口から出て行く。


「明日からよろしくね、クローディア♪」

「よ、よろしく・・・・お願いします」


心の中を埋め尽くす不安から心臓の早鐘とため息はしばらく続き、ようやく地上に降りた時には全身がぐったりと疲れきっていた。




クローディア=シャーロット。

今回はジークフリート様がゾンビに襲われるなどの闇魔導師様経由による、一度立てたら回避不可能なぶっとい死亡フラグを絶対何が何でも立たせない為に、全力で頑張りますっ!!
 
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