81 / 212
いざ、翠の森へ
平和に終われない2人です
しおりを挟む新たにできた道を進んでいくとその先には小さな祠のようなものがあり、その祠の一番手前には青い小瓶があった。
何の神様を祀っているのかは分からなかったが、とりあえず手を合わせてここまで来させてもらったことの礼を伝える。
隣でアルフレド様が何をしているんだ?と不思議そうにしてたから、とりあえず真似してお礼を伝えてくださいと無理無理礼を取らせた。
習慣の違いで異世界だと、こういう祠を見ても手を合わせないのかもしれない。
「えっと・・・この小瓶でいいんだよね?」
「そうだろうな」
「!?」
そのままアルフレド様が何の躊躇もなくその小瓶を取ろうと手を伸ばしたので、慌ててその手を掴んで止める。
「ちょ、ちょっと待った!!」
「な、何をするんだっ?!こ、この手を離せ!!」
顔をなぜか真っ赤にしているが、そんなことを気にしてる場合ではない。
私は手をつかんだまま、ずすいとアルフレド様に顔を寄せる。
ここからは、少し早口でお送りします。
なんでかって?
ゲームのことを語るときは、勝手に私の心が熱くヒートアップしてるからです!!
「・・・・・いいですか?アルフレド様は知らないでしょうが、こういうダンジョンの奥にある宝物には、必ずそれを守るガーディアンとか、魔物のボスが大概はいるものなんです!!」
「は?」
「そもそも、まだこのダンジョンにはボスが1人も現れてません!こういう場合、最後の最後に宝物の直前でボスが現れ、なおかつ連戦の可能性もあるし、宝物を取りに来た主人公の仲間がその宝物に取り憑いた何とかの怨霊とかにとりつかれて、敵としてバージョンアップして後から出てくる場合もあるんです!!その時になぜか同じ肉体のくせにメチャクチャ強くなってて、戻ってきたらあの強さはどこへ?ってくらい拍子抜けで、なおかつレベルもそのまま!!そもそも、敵の時に強かったキャラが仲間になるととんでもなく使えないキャラなのは、ある程度お決まりでむしろそのキャラ経由で繋がる仲間の方がはるかに使えて・・・・・・って、あの、アルフレド様?」
「ーーーーーーー」
私のゲームあるあるスイッチが入ってしまい、ついつい熱弁をその手を強く握りしめながらしてしまったが、アルフレド様はポカーーーーーンと電池のきれたおもちゃのように、動かなくなっていた。
うーーーん、レオやグレンさん辺りなら、私がヒートアップして話しても、冷静にそれってなぁに?それはなんなんだ?と1つ1つ興味をもって聞き返してくれるんだけど、アルフレド様にはどうやら異次元過ぎて魂が飛んでしまったらしい。
まぁ、確かに本物の王子様なら、もし本当にこの世界にゲームがあってもやらないよね。
なんとかの王子様はゲームや漫画の中でそれはそれは溢れてるんだけどなぁ~~今度、ラケットみたいなの作って持たせてみようか。
「おーーーい、アルフレド様?」
「・・・・・・・」
目の前で手を上下左右に動かしたり、目の前でパチンと手を叩いたり、ほおを軽くペチペチしてみたけどダメだった。
よくあるほおをバチンバチンすることも考えたけどさすがにそれは後から殺されると思って、それは最後の手段にと取ってあります。
「おーーーい!アルフレド様のでべそ」
「・・・・お、俺はでべそじゃないッ!!」
ボソッと試しに呟いてみたが、まさかのこれで覚醒!?
「よ、よかったぁ!!」
「よくない!!きさま!!今すぐ今言ったことを訂正しろ!!」
怒ったアルフレド様は、そのまま剣を抜こうとする。
「す、すいませんでしたーーーーー!!」
もしかして、あの時も本当は聞こえてたりしないよね?
その確認はさすがに怖くてできませんでした。
って、そうそう小瓶ですが、あのあとすぐに緑の魔女様からの声が聞こえて。
『そんな捻った小細工は一切施してないから、安心して小瓶を持ち帰っていらっしゃい』
だそうで、何ともすんなりゲットできてしまいました。
「お前のせいで、無駄な時間を使ったじゃないか!!」
「仕方がないでしょう!?私はゲームでは慎重派なんですーーー!!」
「お前が慎重派?トラブル見つけたらとりあえず突っ込んで行くやつの、一体どこが冷静なんだ?笑わせるな!!」
「行動派と言ってください!!ゲームでは準備に準備を重ねすぎて、寄り道王だなんて名誉も頂いてしまうぐらいラスボスに突っ込んで行かない慎重派なんです!!」
「それはもう慎重とかいうレベルじゃないだろっ!!」
確かに、ごもっともで。
そんなこんなで私たちは無事に青い小瓶をもって出口へと向かう。
出口は祠の辺りを振り返ったら1つの扉ができており、その扉を開いたら元の木の廊下に出ていた。
おかしい。
宝物をゲットしたんだからもっと感動に涙しあってもいいくらいなのに、何で私たちはずっと口喧嘩をしてるんでしょうか?
しかも、なぜかうっかり手を繋いだまま。
それに気づいたのは、緑の魔女様とジークフリート様達がいる部屋に戻った際に、ニコニコニッコリのあの顔で言われたからだ。
「まぁ、本当に2人は仲がいいのね~~」
「へ?」
「は?」
それがお互いに無意識だった為に、2人して顔を真っ赤にしながらものすごい勢いで手を振り払った。
「ち、違う!!この女が先に手をつかんできたんだ!!」
アルフレド様!!人を指差しちゃいけない!って教わらなかったんですか!!
「ちょ、ちょっと、誤解されるようなこと言わないで下さい!!あれは、むやみやたらに触らないようにと止めただけじゃないですか!!」
ここで引いたら認めたことになると、私もアルフ様に食ってかかる。
「フンッ!そのあとも強く握ってきたのはそっちだろう!!」
「それは、ついついゲームのことで熱弁したからで・・・・そもそもアルフレド様だって、自分から手を離そうとしてなかったないですか!!」
「そ、それはお前が離さないからっ!!」
「いいえアルフレド様がっ!!」
「もういいっ!!!」
「「 !!?? 」」
まさに鶴の一声。
その場にジークフリート様の低い美声が力強く響き渡り、私とアルフレド様は全身ビクッ!!と震えながら会話を一斉に止めた。
「それで、緑の魔女様から言われた小瓶は?」
な、何やら本気で怒っているようで、今までにない怖さをジークフリート様から感じております。
「・・・・こ、ここに」
それはアルフレド様もそうらしく、あんなに赤くなっていた顔が真っ青だ。
「ならば、2人ともケガは?」
「「 あ、ありません!! 」」
素晴らしい!
こんな時なのに、見事なハモりだ。
そして、そんな震え上がる私たちのそばまでジークフリート様が近づいてくる。
「「 !!?? 」」
雷が落ちる!!と覚悟を決めた私たちに、ジークフリート様はその肩を抱いてポンポンと叩いた。
「よく、無事に帰ってきてくれた!」
「・・・・・・ッ!!」
「ジークフリート!」
多分、任務を終えた騎士院の兵に対していつもやっていることなんだろうと思った。
その穏やかな瞳には、信頼と安堵が入り混じった温かいものに溢れている。
私はその顔を見たらもうたまらなくなって、ついついその体に抱きついて泣いてしまった。
ジークフリート様も私の背中に手を回して、落ち着くように何度もその背を撫でてくれる。
いやいや、こんなところでうっかり惚れ直してる場合じゃないんだけど、すいません!本気でこれはトキメキました。
「あらあら・・・・もう一杯、お茶の用意が必要かしらね?」
緑の魔女の家の開け放たれた窓を通して、爽やかな風が通り過ぎていく。
今回の旅も、もうすぐ終わりへと向かっていた。
0
お気に入りに追加
852
あなたにおすすめの小説
「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。※シファルルート
ハル*
ファンタジー
コミュ障気味で、中学校では友達なんか出来なくて。
胸が苦しくなるようなこともあったけれど、今度こそ友達を作りたい! って思ってた。
いよいよ明日は高校の入学式だ! と校則がゆるめの高校ということで、思いきって金髪にカラコンデビューを果たしたばかりだったのに。
――――気づけば異世界?
金髪&淡いピンクの瞳が、聖女の色だなんて知らないよ……。
自前じゃない髪の色に、カラコンゆえの瞳の色。
本当は聖女の色じゃないってバレたら、どうなるの?
勝手に聖女だからって持ち上げておいて、聖女のあたしを護ってくれる誰かはいないの?
どこにも誰にも甘えられない環境で、くじけてしまいそうだよ。
まだ、たった15才なんだから。
ここに来てから支えてくれようとしているのか、困らせようとしているのかわかりにくい男の子もいるけれど、ひとまず聖女としてやれることやりつつ、髪色とカラコンについては後で……(ごにょごにょ)。
――なんて思っていたら、頭頂部の髪が黒くなってきたのは、脱色後の髪が伸びたから…が理由じゃなくて、問題は別にあったなんて。
浄化の瞬間は、そう遠くはない。その時あたしは、どんな表情でどんな気持ちで浄化が出来るだろう。
召喚から浄化までの約3か月のこと。
見た目はニセモノな聖女と5人の(彼女に王子だと伝えられない)王子や王子じゃない彼らのお話です。
※残酷と思われるシーンには、タイトルに※をつけてあります。
29話以降が、シファルルートの分岐になります。
29話までは、本編・ジークムントと同じ内容になりますことをご了承ください。
本編・ジークムントルートも連載中です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
悪役令嬢に転生したら、勇者に師匠扱いされました(;゜∇゜)
はなまる
ファンタジー
乙女ゲームに転生した私。 しかも悪役令嬢らしい。
だけど、ゲーム通りに進める必要はないよね。 ヒロインはとってもいい子で友達になったし、攻略対象も眺め放題。 最高でした。
...... 勇者候補の一人から師匠扱いされるまでは。
最初は剣と魔法のファンタジー。 少しずつ恋愛要素が入ってくる予定です。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる