上 下
76 / 212
いざ、翠の森へ

ビビリですみません!

しおりを挟む

女は度胸っ!!

そう覚悟を決めて、合言葉を言うため2人と一緒に森の入り口のリンゴの木の前にもどる。


言うための覚悟は決めました。

決めましたが、まだ聞かれる覚悟はできてません。

あがけるものなら、いくらでもあがいてやる!!



すいません。

だって、本当に言いたくなぁーーーーいっ!!!



「・・・・2人とも、今すぐ耳を両手でしっかりと塞いでください」

「はぁ?」

「クローディア?」


私のいつにない真剣な様子に、2人は少しどころか大分戸惑っていたがそんなことは大して問題じゃありません。


「迷いの森を抜ける為のこの合言葉は、私以外は絶対に聞いちゃダメです!」

「な、なんで」

「なんでもですっ!!!」

「お、おまえ・・・目が血走ってるぞ?」

「これは迷いの森を抜けられることに、嬉しくて興奮してるだけです」

「ひ、ひいぃ!!」


思わずアルフレド様の胸ぐらをつかんでしまいましたが、私は冷静ですよ?

なんで、そんな怯えた目で見てるんですか?


「・・・・わかった。俺とアルフレド様は言う通りに耳を塞いでいよう」

「ジ、ジークフリート!!絶対に何か隠してるぞ、こいつ!!」

「何も隠してませんよ?」



ニッコリ。



「ひっ!!」


おかしいな。
こんなに笑ってるのに、アルフレド様ってばどんどん顔が青くなっちゃって!

ジークフリート様なんて、何も聞かずに耳を塞いでくれているじゃありませんか!


「あ!そしたら、耳を塞ぐ前に2人ともあそこの木の下まで移動してください!」

「はぁ?なぜあんなところまで、わざわざ離れなきゃいけないんだっ!!」

「念のためです」

「・・・・くっ!!」


目に力を込めて、アルフレド王子をじっと見つめる。

お願いだから、察してくれ!!と願いを込めてだったのだけれど、王子は怯えた顔をするだけで意図は汲んでくれなかった。


くそっ!!

この場にイザベルがいてくれれば!!


聡い彼女なら、多くを語らなくてもすぐにこちらの気持ちを理解してフォローにまわってくれるのに。


「・・・・行きましょう、アルフレド様」

「じ、ジークフリート!お前は気にならないのか?!」

「静かに。気になりますが、だからこそ今は彼女の言う通りにしましょう」

「わ、わかった」



ジークフリート様に説得されたのか、アルフレド様もそれ以上つっかかってくることはなく、2人はお願いした通りにリンゴの木からはだいぶ離れたところまで移動していく。



「そしたら、私がいいって言うまで、耳をしっかり塞いでくださーーーーーい!!」

「あぁ・・・・わかった」

「フン!!やればいいのだろう!やれば!」


遠くからでも、2人が耳を両手で塞いでいる姿が見えた。



「2人とも聞こえますかーーーーー!!」


「「・・・・・・・」」



2人の反応は特になし。

よし!あとは、念のために。






「あいつは一体、何がしたいんだ?」


耳を塞ぐフリのまま、アルフレドもジークフリートに教えてもらったように一応子声で口をなるべく動かさないよう気をつけながら声を出している。
 

「よっぽどその合言葉とやらが、我々に聞かれたくないことなんでしょう」


ジークフリートも耳に手は当てているが、彼のもフリで軽く添えているだけだ。



「アルフレド様の、でべそーーーー!!!」



「なっ・・・・!?」

「静かに!たぶん、我々がちゃんと耳を塞いでるか確認の為にわざと言っている言葉かと」

「くっ!!お、俺はでべそじゃない!!」


両手両足に力を入れて踏ん張り、アルフレドは全身に沸いた怒りをなんとか外へと散らす。

そのかいがあったようで、クローディアも我々がちゃんと耳を塞いでいて声が聞こえてないと判断したようだ。

何やら息を大きく吐き、深呼吸も何度もしてからよしっ!!と気合をいれている姿が見える。

ここまであのクローディアがするとは、一体どんな合言葉だと言うのか?


「・・・・・おい、まだか?」

「まだです」


そして気合をいれて口元に手を当てて大声を出す準備を終えたクローディアだが、そこから声を発するまでに少々時間がかかっていた。


「まだなのかっ!!」


そして、アルフレド様が苛立ちに震え始めた時。



「愛する愛しのルーク様!!お願いですから、わたしを助けてくださいっ!!!」



「なんだとっ!!」

「!?」


彼女の叫びにすぐさま反応したのは、なんとジークフリートの方が早かった。

アルフレドはむしろ、そっちの方が驚いた。


そのすぐ後にクローディアのいる部分から大きな光が空に向かって大きく伸び、ジークフリートとアルフレドは彼女の元へと走っていく。

ジークフリートの速さは尋常ではなく、決して足が遅くはないアルフレドとの差があっという間に開いてしまった。


「・・・・・・くっ!!」


それは守る者と守られる者として、普段の身体の鍛えかたからして全く違うのだから当然の結果ではある。

だがそれでも、真っ先に彼女の元へと向かう姿への悔しさに唇を噛み締めながらアルフレドはその背中を必死に追いかけた。


ジークフリートが駆けつけた時にはすでに放つ光は細いものとなっており、クローディアの手の甲の印からまっすぐ森の奥へと進む方向を指し示している。


「クローディア、大丈夫かっ?!」

「・・・・聖なる光を失わない」

「クローディア?」



クローディアは自分の手の甲から伸びる光に釘付けになっており、とても真剣な目でその光の先を見つめていて隣に立つジークフリートの存在に気づいていない。


「ラ○ュタの位置を示している」

「ハァ!ハァ・・・・おい、俺たちが向かうのは緑の魔女だぞ!!お前は一体どこに行こうとしてるんだっ!!」

「!?」


そこへ全力疾走で息を切らしたアルフレドが怒りながら彼女の前にきたことで、ようやくこちらの存在に気づいた。


「あ、あれ!?ふ、2人とも、いつの間にここに戻ってきたんですかっ!!」

「そんなの今に決まってるだろう!!それより、さっきのはどういうことだ!?お前は俺たちをどこへ連れて行くつもりだっ!!」

「し、仕方がないじゃない!だってあんなの見たら、誰だって我慢ができないに決まってる!!」


先ほどまでの真剣な様子は一気に吹き飛び、顔を真っ赤にしたクローディアは慌てた様子で怒るアルフレドに何やら弁解を始めていた。


「我慢だとっ!?何をわけのわからないことを!!」

「いいですか、アルフレド様!雲の中には、夢とロマンと愛がつまってるんです!!」


特に大きく縦に膨らんだ雲には、少年少女達の無限の可能性が!


「お、俺たちが向かうのは空じゃなくて森の中だ!!いや、それよりもさっきの・・・・むぐっ!」


そして怒りに任せて、顔を真っ赤にしながら先ほどのことを彼女にばらそうとしたアルフレド様の口をすぐさま塞ぐ。


「それで、俺たちはどっちに向かえばいいんだ?」

「あ、はい!こっちです!」


クローディアの手の甲からまっすぐ伸びた光は、森のある方角をまっすぐさしていた。



「じ、ジークフリート!!」

「・・・・今は、緑の魔女様の元へ向かうのが先決です」

「くっ!!」


なぜかとてもご機嫌な様子でスキップで進むクローディアを先頭に、ジークフリートとアルフレドが進む。

そうだ、もうすぐ緑の魔女のところに行ける。

そこで、母上を目覚めさせる薬がようやくもうすぐ手に入るのだ。

クローディアがあの魔導師とどうなろうと、俺には何も関係はないじゃないか!

俺の妻となり、将来この国の王妃となるのはエリザベート。

それはもう、幼い頃からずっと決められていたことだ。


そうだ、俺には何も関係ない!!



「・・・・おい、クローディア!!何をちんたら歩いてるんだ!!さっさと歩け!!」

「い、痛いって!ちょっと待ってくださいよっ!」


クローディアの腕を掴んでぐいぐい引っ張りながら、アルフレドは光に向かって先の道を急ぐ。


「・・・・・・ッ」


そしてその後ろを歩くジークフリートの拳は、強くきつく握りしめられていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...