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いざ、翠の森へ
静かな森から美少女が!
しおりを挟むバーチさんと別れた私達はいよいよ緑の魔女へと繋がる最後の森、迷いの森の中へと足を踏み入れる。
一見、何の変哲もない普通の森だ。
怖いモンスターが出るわけでも、ゾンビに襲われるわけでもない。
ただ迷いの森と言われるからには用心しておこうと、私やジークフリートさまが果実のなっている木や特徴のある切り株などに分かりやすく目印をつけながら歩いた。
今目の前にある、森の入り口で赤いリンゴを実らせているこの木にもそう。
ナイフで傷をつけるのは木に対して申し訳ないということで、私は持っていた黄色い布を細く引き裂いて近くの枝にリボン結びをしておいたのだが。
もう一度いいますが、ここは森の入り口です。
「・・・・・これで、50回目ですね」
何が?って、そんなの決まってる。
この幸福の黄色いリボンを、私がこの木の枝に見たのがだ。
しかも他にも印をつけている箇所があり、分かれ道を何度途中で変えても結局最後はここへ戻される。
RPGのダンジョンとかでよくある、同じところをぐるぐるとループするまさにアレだ。
ゲームをしている時だってまたお前かよッ!って罪のない目印代わりの木や草に八つ当たりしていたくらいに、イライラしてたもんだがアレは精神的に疲れているから。
だって体はずっと座ったまま。
同じ姿勢でいると疲れるが、それでも座布団に腰掛けている為に私自身のHPはほとんど減ってない。
さっきから何が言いたいんだよお前!と言われるかもしれないが、今の私はゲームじゃなくて現実の自分の足で歩く方のリアル冒険なのだ。
「おい、クローディアっ!!俺はもう歩きたくない!!!」
「・・・・そ、そうですね。少し休みましょう」
真っ先に悲鳴をあげたのはアルフレド王子。
気持ちは確かにわかる。
そう、ゲームならイライラだけですんだ迷いの森ループだが、現実だと戦闘をしていなくとも毒の沼地に足を踏み入れなくともHPがどんどん減るのだ。
普段なら私の持つ自動回復機能が発動して私以外は疲労どころか元気になるはずなのだが、この森は何が不思議なものに包まれているのかうまく発動していないらしい。
そういえば、レオとよく遠出した時は疲れて休みたい!と、彼から言われたことはなかったな。
ただでさえいつでも元気フルスロットルな彼と一緒だと、自動回復なんて便利な機能があってもその恩恵を一切受けない私が先に悲鳴をあげている。
そういえばその元気フルスロットルなレオがクタクタになるほどの特別訓練を日々受けていたが、今頃どうしているだろう?
全力タックルは御免被りたいが、彼の笑顔は見ているだけで元気になる私の癒しの1つでもあるし、友人としていつでも一緒にいた存在がしばらく会えないのはやっぱり寂しい。
「そういえば、さっき向こうで小川を見つけたんで水を汲んできますね!」
迷いの森とはいえ、一定の距離を進めば必ずどの道へいってもこの場所に戻されるので迷子になって帰ってこれないということはなかった。
「あぁ・・・・気をつけるんだぞ!」
「はーーーい!」
さすがはジークフリート様!
レオなら間違いなく、俺も一緒に行く!!と離れない。
いざという時に引き離したり、こっそりそばを離れるのがどれだけ大変なことか。
今回は本当に水を汲みにいくだけだが、世界がファンタジーでも現実の乙女には色々な用事があるのだ。
どうせならそこはリアルにしなくてもいいんですよ。
「あぁぁーーーーーいい気持ちっ!!」
小川の近くには小さな花があちこちに咲いていて、とても清々しい風が吹いていた。
久々に、体を思いっきり空に向かって伸ばす。
前世の時に同じことをするとポキポキと体の色んなところが鳴ったなぁとか、そんなことを考えながらぼけ~~っと空や森を見つめていると、視界に銀色のキラキラする光が見えた。
「・・・・キレイ」
それはいつの間にか小川の畔に、銀色のキラキラ光る長い背中までの髪の毛を風になびかせた美少女のものだった。
どこまでも白く透明感のある肌に、純白の袖のない無地のシンプルなワンピースをきた小柄で華奢な体。
そして長い睫毛に縁取られた大きな緑の目をこちらに向けている、どこから見ても私からは欠点がまるで見つからない本物の美少女だ。
耳だけが少し形が変わっていて、細長く斜め横に向かって伸びている。
もしかしてこの半端ない美しさと特徴のある耳を持つということは、この翠の森にその里への道があるという噂のエルフだろうか?
「・・・・あ、こんにちは!」
「こ、こんにちは」
美少女は、その声まで可愛らしかった。
「もしかして、道に迷ってるの?」
「あ、あの!えっと、その通りです!」
美少女が近くまでやってくると、小柄な為かその可愛らしい目で見上げてくる。
どうしよう、本気で可愛い!!
レースや花柄のドレスやワンピースとか、本気で色々彼女に着せてみたい!!
一応同じ性別の女だけど、可愛すぎてドキドキしてくる。
エリザベスやイザベルにもその美しさにドキドキしたが、目の前の彼女はまたタイプの違う美人でとにかく可憐で可愛いっ!!
「でもあなた、すごくいいもの持ってるよ」
「・・・・・へ?」
私が美少女の可愛らしさに見惚れている隙に彼女は私の手を取り、甲のバラ?の痣を見てニッコリと笑った。
いいもの?
これが?
「いや、これ知り合いが悪ふざけでつけたもので!」
しかも、とても人に説明しにくい方法で。
さっきだって、ジークフリート様やアルフレドにそれはどうしたんだ?と聞かれて、とてもではないが本当のことは説明できなかった。
「この印があれば、森の正しい道を教えてくれるんだよ!」
「そ、そうなの?でも、ずっと何も起こらないんだけど」
森に入ってからこの痣が変化したり、異変は特に起きていない。
「この印をつけた人に、合言葉は教えてもらわなかったの?」
「あいことば?」
彼女が言うには痣だけでは何も起こらず、これをつけた人の合言葉を声に出すことで初めて効力が発揮されるらしい。
「うーーん、合言葉って言われても・・・・」
記憶から消し去りたいと思っていた、先ほどのルークとのやり取りを思い出す。
うっかり本当に消さなくてよかった。
でも、『主従の契約』の後に少し話をしたらすぐに彼は消えてしまったし、その話だって。
『急な頼みだったのに、ありがとう!ルーク!』
『まぁ、今回はボルケーノ様からのお願いだったからね♪』
『そ、そうですか』
『あと・・・・この先でもし困ったことがあったら、愛する愛しのルーク様!お願いですからわたしを助けてください!!って大声で言ってくれたら、助けてあげてもいいよ?』
『絶対にそんなこと言わないから、ご心配なく』
『そう?楽しみだなぁ~~』
『だから、言わない!って言ってんでしょーーが!!』
「・・・・・あっ」
これだ。
そういえば、最後は不気味なくらいにすごく『いい顔』をしていた。
こうなることが最初から分かってたんだな!!
「よかった!合言葉を教えてもらってたんだね!」
「い、一応だけどね!」
あれを、あの言葉を大声で言えっていうのかっ!?
しかも、あの2人の前でっ!!
ルークの大バカ野郎!!!
合言葉なんて、開けゴマ辺りでじゅうぶんじゃないかっ!!
「大きな声でその合言葉を、森の入り口にあるリンゴの木の前で言えばもう大丈夫だよ!」
やったね!と会ったばかりの美少女は自分のことのように喜んでくれている。
今もショックで硬直したままピクリともしない私の手を握りながら、ブンブンと上下に嬉しそうに振ってくれているが、私はとてもじゃないが全然喜べない。
「こ、小声じゃダメかな?」
「それじゃ、精霊達が聞こえないよ?」
「・・・・くっ!!!」
精霊様ほどのお方なら、ぜひ声に出さない色んなものも感じ取って欲しいです。
何が悲しくて愛する人の前で、別の人への愛を叫ばなくてはならないんですかっ!!
「ち、ちなみに・・・・この印使わないで森の奥に行くことってできたりする?」
どんな小さい可能性でも、そっちに全力疾走する方がきっとまだマシだ!
頼みます!
1%でもいいから、何かっ!!
「それは無理だね!」
ニッコリ!
わぁ~~なんて輝くような可愛い笑顔!
「・・・・・・ううぅっ!!」
静かな小川の畔の隅で、私は四つん這いになりながら涙を流す。
知ってたよ、天国の次は地獄がいつかは来るって!
「大丈夫だよ、あなたなら」
ポンポン♪
見るからにクローディアとしての私よりも年下なはずの美少女は、ニッコリしながらわたしの頭をその小さく華奢な指で何度か弾ませてからよしよしと撫でた。
「ルークのこと、よろしくね」
「えっ・・・・・うわっ!!」
その時ひときわ強い風が私の近くで巻き起こり、一瞬だけ手の甲でかばいながら目を瞑る。
「あ、あれ?」
そして、目を開けた時にはもうあの美少女はどこにもいなかった。
「ま、まさか・・・・ゆうれい!?」
いやいや、ちゃんと足もあったし、私にも触れていた。
たぶん、あの容姿からしてエルフに関係する人なのだろう。
エルフなら魔力が強いし、突然姿を消してもおかしくない。
「ルークをってことは、もしかして彼の妹さん辺りだったり?」
確かに、2人とも同じ銀色の美しい髪の毛は一緒だ。その透き通るような肌の白さも。
瞳の色は、彼女は紫ではなく緑色だったけれど。
それに、何よりもあの人外の美貌が2人に血縁関係があると聞いても納得してしまう。
私はルークルートもやってないから、ゲームの途中で実は生き別れの妹が出てきてもおかしくはないし、むしろそっちの方が王道だ。
「もしかして・・・彼女がアイシスさん?」
それは以前、ボルケーノとルークの会話に出てきた名前。
そしたら古の魔導師とボルケーノがルークを呼んでいるのも、エルフの血が入ってるからなのかもしれない。
それで、ルークのルートだとその出生の秘密を探るためにエルフの里に行くことになるとか?
「おぉ~~!!なんかRPGっぽい!!」
いやこれ、恋愛ゲームが元なんですけどね?
そしてーーーーーー。
「クローディア!こんなところにいたのか!中々戻ってこないから、心配したんだぞ?」
「全く、こんなところで何をのんびりしてるんだお前はっ!!」
「あっ・・・・・」
そうでした。
何をワクワクと、先の冒険のイメージをして楽しんでるんだ私は。
その前に、乗り越えなきゃいけない辛すぎる試練がもう目の前に来てるじゃないか!!
「じ、実は、迷いの森を抜ける方法が分かりまして」
くそっ!!
女は度胸だっ!!
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