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森は明かりを失うのが早い。
暗くなって周囲が見えにくくなってきたため、レッドたちは調査を切り上げて馬車の所まで戻る。
調査範囲の半分は見回て回れていたのだから、十分な成果だった。
見えづらくなってきている道を慎重に歩く。
先頭を歩くリベルテを見失わないようにレッドは中止しつつも、今回見て回ってわかったことを考え出す。
まずは森の状況。
採取の依頼が高額で貼り出されてきているため、冒険者をしている者たちにとって稼ぎ時とは言えるが、森を荒らしすぎていた。
もう同じ場所で薬草が採れなくなってきてしまい、今は稼げるかもしれないが、今後採取の依頼があってもこなせなくなるに等しい。
次から稼げなくなってしまうのだから、意味がある行為とは思えないのだが、人間と言うのは理不尽な生き物でもある。
苦しい時だからこそお互い様と考えて欲しいものだが、苦しいからこそ自分だけでもと言う考えてしまうのもあるのだ。
稼ぐと言うことで理解は出来るのだが、後を考えない行動は認めたくないものだった。
そして、森の奥でまだ続いていた少人数が通っただろう道。
オルグラント王国の人がわざわざこのような森を抜けていく用などありはしない。
それなのに奥へ向かったとなれば、それは恐らくアンリだろうと思われる。
道なき道を抜けた先の方角はアクネシア。今はキスト聖国である。
複数の足跡があったことから、キストへ手引きする者がついていたと言うことになる。
レッドは重くなってくる気持ちに、深いため息をつくしか出来なかった。
憂鬱なまま歩いていくと、暗い中に明かりが見えてくる。火の明かりだ。
火は馬車の近くで焚かれていて、火の明かりにレッドは少しだけ気持ちが落ち着いてくるのがわかった。
「火を熾してくれていたのですね。ありがとうございます」
リベルテがマイに礼を言えば、マイが胸を張って喜んでいた。
以前のマイは火を熾すのも難儀していた。
タカヒロたちの世界ではこちらより火を熾すのが簡単らしく、火の熾し方がわからなかったのだ。
マッチ自体はあちらの世界にもあったらしいので、やはり昔にこちらの世界にきた『神の玩具』が作り出したのだろうとレッドたちは納得したものである。
しかし、それよりも簡単に火をつけられる道具があるらしく、マッチを使って火をつけることはほとんど無いと言うのだから技術はかなり進んでいるのだが、自分たちでしなくても良い生活を送っていたようで、火を熾すと言うことに関わってこなかったと言われて、レッドたちはそこでも驚いたものである。
マイたちの最初の頃は、乾燥していない生枝を火にくべて、火が広がるどころか煙が広がり、首をかしげていたのも今となっては懐かしいものであった。
「火を熾せるのは当然だ。……だがまぁ、よくやった」
火を熾すくらいで褒めるのもどうかと思って口にしたレッドであったが、頑張ったのに褒めてくれない、とマイは不満を露にしていた。
こちらの世界では、火を熾すことが出来ないと生活に困るものである。
日々の食事であったり、暖をとる際、そしてこのような外泊の時に火は欠かせない。
水については、王都の近場であれば馬車に積めれば足らせることができる。
遠くに行く場合であれば、その付近で水を探さないといけないことがあるが、見つけた水はそのまま飲むわけにはいかなく、一度沸かす必要があるのだから、やはり何よりも火を熾すと言うことが大事だった。
「森の中はどうでしたか?」
レッドたちが戻ってきたことから食事を始め、マイは炙るように火に干し肉を近づけながら聞いてくる。
「だいぶ変わってしまってますね……。薬草もかなり採り尽くされてしまっているようで、またしばらく薬草の確保が大変になると思います」
「ええ~!? 採り尽さないようにってギルドから言ってましたよね? 薬草が手に入りづらくなるって困るなぁ」
この世界に来て間もない頃のマイであれば、薬草が無くて困ると言う考えにはならなかっただろう。
マイたちの世界では、物が簡単に、そして大量に手に入れることが出来たらしく、こちらの世界でもそのままなのだと思っているようだったのだ。
メレーナ村で自称の薬師見習いをやっていた頃は、実際は持っていた力によって癒していたのだが、周囲に疑念をもたれない様に、薬草と聞いた物はどんどんと採っていたらしい。
村であり、他に薬師が居なく、薬草を必要とする人が他に居なかったから問題にならなかっただけなのだから、マイの運の良さというべきか悪運に口をあけるしかないものだった。
それが今はその採れる量とそこから先についても考えるようになっているのだから、この世界の薬師であることに、レッドは感心する。
この世界で生きようとしてくれている証左なのだ。どうしてか嬉しさがこみ上げてきていた。
「モンスターの行動範囲にも変化があるでしょうね。今日は遭遇しませんでしたが、明日はどうなるか。フクフクは大丈夫でしたか?」
リベルテがマイの近くでじっとしているフクフクをなでると、フクフクが気持ち良さそうに目を瞑る。
「うん! とっても気持ち良さそうに飛び回ってましたよ。あ! そう言えば、フクフクがラガモフ取って来たんですよ! ……やってもらえますか?」
マイがラガモフの場所を指差す。
自分で捌くということが出来ないようだった。
これもやはり、あちらの世界では自分たちで捌いたりすることが無かったらしい。
切り分けられた状態で仕入れられたと言うのだから、マイたちの世界はお金がたくさんあるのだと思わざるを得ない。
ラガモフはリベルテが手早く捌き始めていた。
「あぁ、そうだ。マイ。明日は一緒に森に入ってくれ」
「え? 良いですけど……」
レッドがマイにかけた言葉に、作業をしていたリベルテが一瞬、驚いたような目をレッドに向けるが、すぐに納得した顔で作業を再開する。
アンリがキストの手引きであちらに向かったのであれば、キストの人間の出入りがまだこちら側にあると言うこと。
今日は何事もなかったが、以前に癒しの力を持っていたマイが狙われる可能性があることになるのだ。
レッドはそれを用心することにしたのである。
『神の玩具』は神の気まぐれでその力を失う時が来るらしいのだが、他の者たちからは何時その力を失ったのか確認する術はないのが後を引いてしまう。
本人たちの自己申告しかないのである。
マイは怪我を負ったフクフクを癒すことが出来なくなって、リベルテに泣きついてきたくらいであったから、失ったことについて間違いはないとレッドたちは考えている。
タカヒロについては……、今また魔法が使えるようになっているため、以前ほどの力を持っていないという自己申告を信じるだけだった。
『神の玩具』の力について確認する術などないため、いくら本人たちが力を失ったと言っても、力を隠しているのだけではないかと疑う者が多い。
そのため、今もなおキスト聖国の者がマイを狙っているかもしれないのだ。
キストの厄介さだけではなく、力について確認する術が無い『神の玩具』について考えて、レッドはため息をこぼしそうになるが慌てて堪えた。
ここでため息をこぼせば、マイに不安を与えてしまうことになる。
レッドは油断しないように、とマイに言って炙った干し肉を齧るのだった。
熱を通して食べやすくなった干し肉は旅の定番の食事であるが、やはり塩気が強いものだ。
保存を聞かせるためであるが、強い塩気にスープに入れるか、水などと交互に口にしていくしかないのが難点である。
しかし、食べ物についてであればマイは不平を言わないようで、平然と干し肉を次々と噛み切って咀嚼していく。
そして食事をしている時は本当に幸せそうな表情をしていた。
唾液で薄めるようにゆっくりと干し肉を齧っていると、次第に肉の焼ける匂いが広がってくる。
「はい。ラガモフのお肉が焼けましたよ。干し肉が塩気強いですから、こちらはそんなに塩を振りませんよ」
リベルテが焼いてくれたラガモフの肉をレッドは摘まんで口に入れる。
焼きたてなので熱いが、にじみ出てくる脂が肉を食べていることを実感させる。
少し味気ないように感じてしまうが、それは干し肉を少し齧れば丁度良くなる。
「ん~。お肉って良いですよね~」
マイは言うまでもなくラガモフの肉に満足げであったが、リベルテは少しだけ不満そうにしている。
普段から料理しているためか、ただ焼いただけの肉に一味つけたいらしいのだが、今から探してくる時間はないし、こういう料理を食べるのも旅であったり遠出した際の楽しみと考えるしかない。
レッドはそうリベルテに声を掛けようとするが、長く一緒に冒険者を続けてきた相棒だけあって、同じ考えにはなるらしく、リベルテは小さく笑みを浮かべていた。
それにつられて、レッドも小さく笑みを浮かべた。
「たまには外で食べるのも良いですよね! 今度はタカヒロ君もつれて、みんなで来ましょうよ」
レッドとリベルテが笑顔になっていることで、楽しんでいるとマイは思ったようである。
実際、こういった時間も悪くないとも感じているし、一人だけ城で仕事を続けるタカヒロを思うと自分たちだけ楽しむと言うことに気が引けてきて、レッドはそうだな、と口にする
「ええ、また皆さんで出かけましょう。また、ピクニック、でしたか? 行きましょう」
「わぁ~。今から楽しみです!」
リベルテの言葉に、マイはもぐもぐと口を動かしながら、ピクニックで持っていく食べ物の話をし始める。
今食事をしているのに、あれを食べたいとか、すぐ次の食事の話をする二人に、レッドは少しついていけなく、会話には入れなかった。
しかし、マイと楽しそうに話を続けるリベルテを見て、そんな話で盛り上がるもの良いかと、レッドは二人を眺めていた。
生きていると上手くいかないこと、苦しいこと、辛い事は多くあるもので、暗くなることばかりあるように思えてしまう。
だからこそ、今のような、ふと気が抜ける瞬間が掛け替えの無いものに思えて、レッドは気づけば一人、微笑んでいた。
レッドが微笑んでいることに、リベルテたちがレッドにピクニックで何が食べたいか聞いてくる。
マイとリベルテの会話を楽しそうに聞いていたものと思っているらしく、聞かれたレッドは次の食事について何も浮かばず、前と同じで良い、と端的に答えるのが精一杯だった。
「前と同じって……、レッドさんて実はマヨラーなんですねぇ」
マイが一人納得したように口にするが、それが何を言っているのかレッドには全く分からなかった。
暗くなって周囲が見えにくくなってきたため、レッドたちは調査を切り上げて馬車の所まで戻る。
調査範囲の半分は見回て回れていたのだから、十分な成果だった。
見えづらくなってきている道を慎重に歩く。
先頭を歩くリベルテを見失わないようにレッドは中止しつつも、今回見て回ってわかったことを考え出す。
まずは森の状況。
採取の依頼が高額で貼り出されてきているため、冒険者をしている者たちにとって稼ぎ時とは言えるが、森を荒らしすぎていた。
もう同じ場所で薬草が採れなくなってきてしまい、今は稼げるかもしれないが、今後採取の依頼があってもこなせなくなるに等しい。
次から稼げなくなってしまうのだから、意味がある行為とは思えないのだが、人間と言うのは理不尽な生き物でもある。
苦しい時だからこそお互い様と考えて欲しいものだが、苦しいからこそ自分だけでもと言う考えてしまうのもあるのだ。
稼ぐと言うことで理解は出来るのだが、後を考えない行動は認めたくないものだった。
そして、森の奥でまだ続いていた少人数が通っただろう道。
オルグラント王国の人がわざわざこのような森を抜けていく用などありはしない。
それなのに奥へ向かったとなれば、それは恐らくアンリだろうと思われる。
道なき道を抜けた先の方角はアクネシア。今はキスト聖国である。
複数の足跡があったことから、キストへ手引きする者がついていたと言うことになる。
レッドは重くなってくる気持ちに、深いため息をつくしか出来なかった。
憂鬱なまま歩いていくと、暗い中に明かりが見えてくる。火の明かりだ。
火は馬車の近くで焚かれていて、火の明かりにレッドは少しだけ気持ちが落ち着いてくるのがわかった。
「火を熾してくれていたのですね。ありがとうございます」
リベルテがマイに礼を言えば、マイが胸を張って喜んでいた。
以前のマイは火を熾すのも難儀していた。
タカヒロたちの世界ではこちらより火を熾すのが簡単らしく、火の熾し方がわからなかったのだ。
マッチ自体はあちらの世界にもあったらしいので、やはり昔にこちらの世界にきた『神の玩具』が作り出したのだろうとレッドたちは納得したものである。
しかし、それよりも簡単に火をつけられる道具があるらしく、マッチを使って火をつけることはほとんど無いと言うのだから技術はかなり進んでいるのだが、自分たちでしなくても良い生活を送っていたようで、火を熾すと言うことに関わってこなかったと言われて、レッドたちはそこでも驚いたものである。
マイたちの最初の頃は、乾燥していない生枝を火にくべて、火が広がるどころか煙が広がり、首をかしげていたのも今となっては懐かしいものであった。
「火を熾せるのは当然だ。……だがまぁ、よくやった」
火を熾すくらいで褒めるのもどうかと思って口にしたレッドであったが、頑張ったのに褒めてくれない、とマイは不満を露にしていた。
こちらの世界では、火を熾すことが出来ないと生活に困るものである。
日々の食事であったり、暖をとる際、そしてこのような外泊の時に火は欠かせない。
水については、王都の近場であれば馬車に積めれば足らせることができる。
遠くに行く場合であれば、その付近で水を探さないといけないことがあるが、見つけた水はそのまま飲むわけにはいかなく、一度沸かす必要があるのだから、やはり何よりも火を熾すと言うことが大事だった。
「森の中はどうでしたか?」
レッドたちが戻ってきたことから食事を始め、マイは炙るように火に干し肉を近づけながら聞いてくる。
「だいぶ変わってしまってますね……。薬草もかなり採り尽くされてしまっているようで、またしばらく薬草の確保が大変になると思います」
「ええ~!? 採り尽さないようにってギルドから言ってましたよね? 薬草が手に入りづらくなるって困るなぁ」
この世界に来て間もない頃のマイであれば、薬草が無くて困ると言う考えにはならなかっただろう。
マイたちの世界では、物が簡単に、そして大量に手に入れることが出来たらしく、こちらの世界でもそのままなのだと思っているようだったのだ。
メレーナ村で自称の薬師見習いをやっていた頃は、実際は持っていた力によって癒していたのだが、周囲に疑念をもたれない様に、薬草と聞いた物はどんどんと採っていたらしい。
村であり、他に薬師が居なく、薬草を必要とする人が他に居なかったから問題にならなかっただけなのだから、マイの運の良さというべきか悪運に口をあけるしかないものだった。
それが今はその採れる量とそこから先についても考えるようになっているのだから、この世界の薬師であることに、レッドは感心する。
この世界で生きようとしてくれている証左なのだ。どうしてか嬉しさがこみ上げてきていた。
「モンスターの行動範囲にも変化があるでしょうね。今日は遭遇しませんでしたが、明日はどうなるか。フクフクは大丈夫でしたか?」
リベルテがマイの近くでじっとしているフクフクをなでると、フクフクが気持ち良さそうに目を瞑る。
「うん! とっても気持ち良さそうに飛び回ってましたよ。あ! そう言えば、フクフクがラガモフ取って来たんですよ! ……やってもらえますか?」
マイがラガモフの場所を指差す。
自分で捌くということが出来ないようだった。
これもやはり、あちらの世界では自分たちで捌いたりすることが無かったらしい。
切り分けられた状態で仕入れられたと言うのだから、マイたちの世界はお金がたくさんあるのだと思わざるを得ない。
ラガモフはリベルテが手早く捌き始めていた。
「あぁ、そうだ。マイ。明日は一緒に森に入ってくれ」
「え? 良いですけど……」
レッドがマイにかけた言葉に、作業をしていたリベルテが一瞬、驚いたような目をレッドに向けるが、すぐに納得した顔で作業を再開する。
アンリがキストの手引きであちらに向かったのであれば、キストの人間の出入りがまだこちら側にあると言うこと。
今日は何事もなかったが、以前に癒しの力を持っていたマイが狙われる可能性があることになるのだ。
レッドはそれを用心することにしたのである。
『神の玩具』は神の気まぐれでその力を失う時が来るらしいのだが、他の者たちからは何時その力を失ったのか確認する術はないのが後を引いてしまう。
本人たちの自己申告しかないのである。
マイは怪我を負ったフクフクを癒すことが出来なくなって、リベルテに泣きついてきたくらいであったから、失ったことについて間違いはないとレッドたちは考えている。
タカヒロについては……、今また魔法が使えるようになっているため、以前ほどの力を持っていないという自己申告を信じるだけだった。
『神の玩具』の力について確認する術などないため、いくら本人たちが力を失ったと言っても、力を隠しているのだけではないかと疑う者が多い。
そのため、今もなおキスト聖国の者がマイを狙っているかもしれないのだ。
キストの厄介さだけではなく、力について確認する術が無い『神の玩具』について考えて、レッドはため息をこぼしそうになるが慌てて堪えた。
ここでため息をこぼせば、マイに不安を与えてしまうことになる。
レッドは油断しないように、とマイに言って炙った干し肉を齧るのだった。
熱を通して食べやすくなった干し肉は旅の定番の食事であるが、やはり塩気が強いものだ。
保存を聞かせるためであるが、強い塩気にスープに入れるか、水などと交互に口にしていくしかないのが難点である。
しかし、食べ物についてであればマイは不平を言わないようで、平然と干し肉を次々と噛み切って咀嚼していく。
そして食事をしている時は本当に幸せそうな表情をしていた。
唾液で薄めるようにゆっくりと干し肉を齧っていると、次第に肉の焼ける匂いが広がってくる。
「はい。ラガモフのお肉が焼けましたよ。干し肉が塩気強いですから、こちらはそんなに塩を振りませんよ」
リベルテが焼いてくれたラガモフの肉をレッドは摘まんで口に入れる。
焼きたてなので熱いが、にじみ出てくる脂が肉を食べていることを実感させる。
少し味気ないように感じてしまうが、それは干し肉を少し齧れば丁度良くなる。
「ん~。お肉って良いですよね~」
マイは言うまでもなくラガモフの肉に満足げであったが、リベルテは少しだけ不満そうにしている。
普段から料理しているためか、ただ焼いただけの肉に一味つけたいらしいのだが、今から探してくる時間はないし、こういう料理を食べるのも旅であったり遠出した際の楽しみと考えるしかない。
レッドはそうリベルテに声を掛けようとするが、長く一緒に冒険者を続けてきた相棒だけあって、同じ考えにはなるらしく、リベルテは小さく笑みを浮かべていた。
それにつられて、レッドも小さく笑みを浮かべた。
「たまには外で食べるのも良いですよね! 今度はタカヒロ君もつれて、みんなで来ましょうよ」
レッドとリベルテが笑顔になっていることで、楽しんでいるとマイは思ったようである。
実際、こういった時間も悪くないとも感じているし、一人だけ城で仕事を続けるタカヒロを思うと自分たちだけ楽しむと言うことに気が引けてきて、レッドはそうだな、と口にする
「ええ、また皆さんで出かけましょう。また、ピクニック、でしたか? 行きましょう」
「わぁ~。今から楽しみです!」
リベルテの言葉に、マイはもぐもぐと口を動かしながら、ピクニックで持っていく食べ物の話をし始める。
今食事をしているのに、あれを食べたいとか、すぐ次の食事の話をする二人に、レッドは少しついていけなく、会話には入れなかった。
しかし、マイと楽しそうに話を続けるリベルテを見て、そんな話で盛り上がるもの良いかと、レッドは二人を眺めていた。
生きていると上手くいかないこと、苦しいこと、辛い事は多くあるもので、暗くなることばかりあるように思えてしまう。
だからこそ、今のような、ふと気が抜ける瞬間が掛け替えの無いものに思えて、レッドは気づけば一人、微笑んでいた。
レッドが微笑んでいることに、リベルテたちがレッドにピクニックで何が食べたいか聞いてくる。
マイとリベルテの会話を楽しそうに聞いていたものと思っているらしく、聞かれたレッドは次の食事について何も浮かばず、前と同じで良い、と端的に答えるのが精一杯だった。
「前と同じって……、レッドさんて実はマヨラーなんですねぇ」
マイが一人納得したように口にするが、それが何を言っているのかレッドには全く分からなかった。
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