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これまで『神の玩具』だろう人たちと会ったりしてきたが、タカヒロやマイが知っている人は居なかった。
それが良いことか悪いことかは判断できないが、そういうものなのだと思われてきた。
しかし、今回の『神の玩具』は、タカヒロが知っている人間ということで、場は静まりかえっている。
「タカヒロ。なんでその……相手は、城に居た?」
『神の玩具』は別の世界から送られて来た人間であり、この世界のそれも、城に勤めている人と接点など無いはずである。
タカヒロやハヤトのように、その力を城に勤める人などの目に留まって、なおかつ、国が管理するべきと判断するような魔法だったりの力である必要がある。
ただ、力が強いとかその程度なら、確かに強力な力であろうが、国は迎えようとなどしない。
ただ力が強いだけでは、国の利益が少ない上に、力を顕示するような相手は扱い辛いのだ。
タカヒロはすでに、過ぎた力を無くしているが、もしあの力が残っていたならば、こうして知り合いがいたからと頭を痛めてる場合ではなかったはずである。
確かに、魔法の力であるため、城が管理したい力であるが、何事にも限度がある。
『神の玩具』の力は、この世界では過ぎた力だ。
そして、その過ぎた力は、隠そうとしても隠し切れるものではない。
城は大いにタカヒロを警戒し、その行動を常に監視することになる。
これは別に王が、城に勤めている者たちが臆病と言う事ではなく、管理しきれない力が、いつどこでこの国に、王都に向けられるか分からないためだ。
だれだって、強すぎる力が信頼できるか分からない人間が持っていたら恐れるだろう。そういうことなのだ。
だが、タカヒロは新たにこの世界で持ちうる魔法の力を手にし、その力を認められて城に招かれた。
この世界の人間が、認められれば手にすることが出来るものを手に入れたのだ。
では、新たな『神の玩具』はどのようにして城に招かれたというのか。
レッドが重視するのも当然なことであった。
タカヒロはより頭痛そうに、こめかみに手を当てる。
「あ~……。一応は、先の騒乱での活躍を賞するもので、呼ばれたみたいですよ? ……そのはずなんですけどねぇ……」
ここしばらく、レッドは弱った筋力の訓練で家の中で動くしか出来なく、マイはレッドの経過観察や調合だったりで同じく家に篭りがちで、リベルテであっても、レッドの介助のために家に居ることが多かったため、最近の王都の様子をあまり把握出来ていなかった。
タカヒロの話では、どうやら、ファルケン伯爵がランサナ砦の戦いに大きく貢献したとして、城に招かれていたらしい。
そして、その戦いにおいて活躍した冒険者たちも数名連れ立って現れたそうなのだが、ユーセーは居なく、代わりにその人物が居た、と言う事であった。
「あいつは来なかったのか……。あいつが活躍してないはずは無い、と思うんだが……。城に招かれていたらそれはそれで腹立たしいが、城に来なかったとなると、それは少し歯がゆくもあるな」
ユーセーとの出会いが出会いだっただけに、レッドはユーセーを嫌っているが、ユーセーの剣の腕だけは尊敬していた。
剣を使う者の完成形と言えそうな腕だったからだ。
「かなり激しい戦いだった、とだけは聞いてます。そちらで活躍したと言うのであれば、かなりの力の持ち主、と言う事になるのではないでしょうか?」
レッドとリベルテが思う所を口にする。
レッドとリベルテはファルケン伯が連れ立ってきた冒険者に意識を向ける中、マイはじっとタカヒロを見ていた。
「ねぇ、タカヒロ君?」
どことなく冷たさを感じる声に、レッドとリベルテがピタッと静まった。
「その知ってる人、女性?」
「え? ああ、そうだけど?」
タカヒロはそれが何? と言った様子でマイの方を向く。
リベルテはもう少し言葉を、と呟くがタカヒロには届かなかった。
「ふぅ~ん……。知ってる女性なんだぁ?」
言葉を強調されて、やっと不穏さに気づいたタカヒロが、慌てて弁解を始める。
「いやいやいや。無いから。有り得ないから。あれは僕も苦手なんだって。知ってるって言っても学生時代で同じクラスだっただけだから。それ以外に、何も無いから!」
タカヒロが必死に言葉を並べ立てるが、マイの険しい視線は軟化しない。
「な、なぁ。その相手がどんな人となりなのかは、今後、警戒するにしても大事な判断材料になるだろう。教えてくれないか?」
見かねて、レッドが少しだけ方向を誘導する。
あのまま、ただ否定の言葉だけを言ってもマイには届かないのだ。
ちゃんとどこがダメだとか、どういう理由でダメなのか、誠実に真剣に話さないとダメなのだ。
リベルテに睨まれた時に、少しだけ、そう、少しだけ今のタカヒロと似た感じになった経験から、レッドはあのままでは不味いことを察したのだ。
リベルテがレッドに向ける目が、少しだけ面白がっているようだったのは、誰も気づかなかった。
「そ、そうですねぇ。ん~、自己中心的、ですかねぇ。自分の考えがあって、他の人の話を聞いている風でも、最後には自分の意見に持っていく……とか。そんな感じですかねぇ……」
自分の考えを持っている、と言うのは大事なことであるが、それが本当に正しい考えで、間違いないとは、言い切れない。
他の人と意見とすり合わせて、より良い考えに出来たり、間違いに気づいたり出来るものだ。
しかし、聞いた振りしつつも自分の意見を通す、と言うのは相手に寄ることもなければ、自分の間違いを認めないと言うことである。
周囲にとって、好ましいと思えず、近づきたいとは思えない相手と言える。
面倒ごとを嫌って、一歩引いた所から見るようにしているタカヒロなら、相手の考えをがんがんと押し付けられる、なんて苦痛でしかないだろうな、とレッドたちにも察せられた。
「……そのような人が城で、王や貴族の方々に会うと言うのは、危険過ぎませんか?」
「そうだな……」
「ん~、そんな人がどんな力を持ったら、大活躍してお城に呼ばれるほどになるんだろうね?」
自分の意見を曲げようとしない人間が、知らない世界の王や貴族など、身分を持って接する相手に無難に挨拶をこなせるとは考えにくい。
リベルテの素直な意見に、レッドも同意を示す。
マイもさすがに、その人物の危うさを認識してきたらしかった。
「さすがに、どんな力を持ってるかなんて、知らないよ。教えてなんてもらえるわけないし、王様から褒美を貰うだろう場所に、僕は入れないし、行きたくないからね。帰りかな? って所で、姿を見かけただけだし」
騒乱によって『神の玩具』はもういらない、と思っている所に新しい『神の玩具』が現れた。
その事実は変えようが無く、レッドたちは唸って頭を痛めるしかなかった。
「いずれにせよ。その方は警戒しておいた方が良さそうですね。ハーバランドを拠点とされているのであれば、王都で会う事は無さそうなのが救いでしょうか? この国の中枢に影響を与えることもないはずですし」
リベルテの言葉に皆頷いて、話が終わったと、タカヒロは自室に戻っていった。
マイも戻ろうと立ち上がった所で、リベルテから声をかけられた。
「タカヒロさんのこと、もう少し信じてあげてください。お二人の関係も、少し変わっているのですから」
リベルテの言葉に、マイはぎょっとして振り返る。
リベルテがとても良い笑顔を向けていて、マイは何も言えず、逃げるように部屋へと駆け上がって言った。
「リベルテ。あいつらの何が変わったんだ?」
「ふふ。さぁ、なんでしょうね?」
リベルテの言葉の意味を一人理解できなかったレッドが、リベルテに聞いてみるがはぐらかされる。
独り釈然としないまま、自室へと戻り、レッドは日々の訓練に精を出すのであった。
それから翌日。
タカヒロは城へ向かい、レッドは訓練、マイは薬の勉強、リベルテはレッドの介助と家のことと動き出す。
いつもと変わらない生活が始まるはずだったのだが、徹夜してくるだろうはずのタカヒロが、急ぎで帰ってきた。
ここ最近では無かった行動に、リベルテは驚きのままタカヒロを出迎える。
「タカヒロさん!? 仕事が早く終わったのですか? ご飯、すぐ用意しますね」
いつもなら朝ごろに帰ってくるタカヒロの分の用意が必要で、竈へと足早に戻っていく。
タカヒロはリベルテに申し訳ないなと思いつつ、リビングへと入り、頭を抱えるように椅子に座る。
ちょうど食事中だったレッドとマイが、この時間に帰ってきたタカヒロを物珍しそうに見ていた。
「おぅ、お疲れさん。……と言うか、また顔色悪いな。また何かあったのか?」
タカヒロは席につくなり頭を抱えるようにしていたのだが、レッドの言葉にガバッと顔を上げる。
「ヤバイっす……」
「え? なんだって?」
「あれ、城に居たんですよ……。なんでか、城勤めになってるらしくて」
タカヒロの言葉にレッドとマイは食事の手が止まり、タカヒロの分の食事を運んできていたリベルテが、ガチャっと食器を鳴らしてしまう。
「え? あの、タカヒロさんが知っている、という方、ですか?」
タカヒロが力なく頭を動かすと、タカヒロの前に食事をおいたリベルテとレッドが、揃って額に手を当てた。
「え、なんで城勤めになったんですか?」
「カーマインさんから聞いた限りだと、未来が分かるらしい、です。カーマインさんが、それが本当だったら凄いけど、そんな怪しい力が本当なわけがないって力説してましたけどね……」
タカヒロが疲れた様子の一端に、カーマインの力説を聞かされた、と言うのがあったのかもしれない。
だが、何よりも、タカヒロが口にした『神の玩具』の力は、これまた過ぎた力の極みつきであった。
「本当に未来が分かるのだとしたら、今の城にとって、喉から手が出るほど、欲しい力ですね」
「……本当に、そんな力あると思うか?」
「不思議な力が多かったから、あるかもしれませんね。あ~、私もそういう力を選べたら、欲しかったかも」
レッドとリベルテがマイに顔を向ける。
「え? 欲しくないですか? だって、未来がわかるんですよ? 失敗しなくてすみますし、良い事だけ出来そうじゃないですか?」
マイの欲丸出しの言葉に、レッドはため息を交えながらマイに問いかける。
「未来が分かっていて。その未来を変えたら、未来が分かるって言えるのか?」
レッドから投げられた言葉に、マイは大きく首を傾げる。
しばらく、マイが考え込む様子を見ていたが、なんて答えれば良いのかわからないようだった。
「いや、分かってる未来が酷いものだったら、変えたいじゃないですか。それで、その酷い未来を変えて良い未来に出来たら、それって凄いことじゃないですか?」
「それはそうだろうが……。なんて言えばいいのかな……。未来が分かるって言うのが、どうやっても変えられない未来がわかるのか、変えてしまえる未来がわかるのかで違う。変えられる未来なら、未来なんてわからないって話と同じだろ? それに、その分かる未来ってのがどれくらい先の話なのか、それともすぐ先なのか。少し後のことを言われても、ほとんど変えようがないし、かと言って、今から100年先だ、なんて言われてもそれが本当なのか、もう誰にもわからん」
レッドの言葉に、マイはわかるようなわからないような反応を示すが、タカヒロはわかるようで、時折、頷いていた。
パンパンと手を叩く音が響き、皆が音の方に顔を向ける。
「私たちが、その力がどのようなものかを考えても仕方がありません。それより、その方がどのように動くのか。この国にどのように関わってくるのか。それと私たちに関わってくるのか、です」
「その通りだが、それこそ俺らが今考えてどうにかなるものなのか? そいつ次第だろ?」
レッドたちの目がタカヒロに向く。
視線が集まり、何を聞かれているのかわかり、タカヒロは項垂れる。
「……ですよねぇ。関わりたくないですけど、城に行ってるの、僕だけだからなぁ」
接点を持てそうなのは、同じ城勤めのタカヒロだけである。
タカヒロが苦手とする相手であっても、タカヒロしかその人物の動きを見張ることが出来ないのだ。
リベルテも気の毒そうに、タカヒロに目を向けるしか出来そうに無かった。
「あ、そうだ」
マイが何かを思いついたらしい。
タカヒロとしては、あまり関わりたくない相手だけに、何か良い代案でもあるのかと、期待の顔を向ける。
「その人って、名前はなんて言うの?」
今更な話でありながら、これまで誰も頭に浮かばなかったことに、レッドたちも、あ、と口をあけてしまった。
タカヒロが、頭を掻き、ひとつ息を吐いてから口を開いた。
「あ~、確か、アンリって名前だったはずです」
名前を思い出すのも、嫌そうな顔であった。
それが良いことか悪いことかは判断できないが、そういうものなのだと思われてきた。
しかし、今回の『神の玩具』は、タカヒロが知っている人間ということで、場は静まりかえっている。
「タカヒロ。なんでその……相手は、城に居た?」
『神の玩具』は別の世界から送られて来た人間であり、この世界のそれも、城に勤めている人と接点など無いはずである。
タカヒロやハヤトのように、その力を城に勤める人などの目に留まって、なおかつ、国が管理するべきと判断するような魔法だったりの力である必要がある。
ただ、力が強いとかその程度なら、確かに強力な力であろうが、国は迎えようとなどしない。
ただ力が強いだけでは、国の利益が少ない上に、力を顕示するような相手は扱い辛いのだ。
タカヒロはすでに、過ぎた力を無くしているが、もしあの力が残っていたならば、こうして知り合いがいたからと頭を痛めてる場合ではなかったはずである。
確かに、魔法の力であるため、城が管理したい力であるが、何事にも限度がある。
『神の玩具』の力は、この世界では過ぎた力だ。
そして、その過ぎた力は、隠そうとしても隠し切れるものではない。
城は大いにタカヒロを警戒し、その行動を常に監視することになる。
これは別に王が、城に勤めている者たちが臆病と言う事ではなく、管理しきれない力が、いつどこでこの国に、王都に向けられるか分からないためだ。
だれだって、強すぎる力が信頼できるか分からない人間が持っていたら恐れるだろう。そういうことなのだ。
だが、タカヒロは新たにこの世界で持ちうる魔法の力を手にし、その力を認められて城に招かれた。
この世界の人間が、認められれば手にすることが出来るものを手に入れたのだ。
では、新たな『神の玩具』はどのようにして城に招かれたというのか。
レッドが重視するのも当然なことであった。
タカヒロはより頭痛そうに、こめかみに手を当てる。
「あ~……。一応は、先の騒乱での活躍を賞するもので、呼ばれたみたいですよ? ……そのはずなんですけどねぇ……」
ここしばらく、レッドは弱った筋力の訓練で家の中で動くしか出来なく、マイはレッドの経過観察や調合だったりで同じく家に篭りがちで、リベルテであっても、レッドの介助のために家に居ることが多かったため、最近の王都の様子をあまり把握出来ていなかった。
タカヒロの話では、どうやら、ファルケン伯爵がランサナ砦の戦いに大きく貢献したとして、城に招かれていたらしい。
そして、その戦いにおいて活躍した冒険者たちも数名連れ立って現れたそうなのだが、ユーセーは居なく、代わりにその人物が居た、と言う事であった。
「あいつは来なかったのか……。あいつが活躍してないはずは無い、と思うんだが……。城に招かれていたらそれはそれで腹立たしいが、城に来なかったとなると、それは少し歯がゆくもあるな」
ユーセーとの出会いが出会いだっただけに、レッドはユーセーを嫌っているが、ユーセーの剣の腕だけは尊敬していた。
剣を使う者の完成形と言えそうな腕だったからだ。
「かなり激しい戦いだった、とだけは聞いてます。そちらで活躍したと言うのであれば、かなりの力の持ち主、と言う事になるのではないでしょうか?」
レッドとリベルテが思う所を口にする。
レッドとリベルテはファルケン伯が連れ立ってきた冒険者に意識を向ける中、マイはじっとタカヒロを見ていた。
「ねぇ、タカヒロ君?」
どことなく冷たさを感じる声に、レッドとリベルテがピタッと静まった。
「その知ってる人、女性?」
「え? ああ、そうだけど?」
タカヒロはそれが何? と言った様子でマイの方を向く。
リベルテはもう少し言葉を、と呟くがタカヒロには届かなかった。
「ふぅ~ん……。知ってる女性なんだぁ?」
言葉を強調されて、やっと不穏さに気づいたタカヒロが、慌てて弁解を始める。
「いやいやいや。無いから。有り得ないから。あれは僕も苦手なんだって。知ってるって言っても学生時代で同じクラスだっただけだから。それ以外に、何も無いから!」
タカヒロが必死に言葉を並べ立てるが、マイの険しい視線は軟化しない。
「な、なぁ。その相手がどんな人となりなのかは、今後、警戒するにしても大事な判断材料になるだろう。教えてくれないか?」
見かねて、レッドが少しだけ方向を誘導する。
あのまま、ただ否定の言葉だけを言ってもマイには届かないのだ。
ちゃんとどこがダメだとか、どういう理由でダメなのか、誠実に真剣に話さないとダメなのだ。
リベルテに睨まれた時に、少しだけ、そう、少しだけ今のタカヒロと似た感じになった経験から、レッドはあのままでは不味いことを察したのだ。
リベルテがレッドに向ける目が、少しだけ面白がっているようだったのは、誰も気づかなかった。
「そ、そうですねぇ。ん~、自己中心的、ですかねぇ。自分の考えがあって、他の人の話を聞いている風でも、最後には自分の意見に持っていく……とか。そんな感じですかねぇ……」
自分の考えを持っている、と言うのは大事なことであるが、それが本当に正しい考えで、間違いないとは、言い切れない。
他の人と意見とすり合わせて、より良い考えに出来たり、間違いに気づいたり出来るものだ。
しかし、聞いた振りしつつも自分の意見を通す、と言うのは相手に寄ることもなければ、自分の間違いを認めないと言うことである。
周囲にとって、好ましいと思えず、近づきたいとは思えない相手と言える。
面倒ごとを嫌って、一歩引いた所から見るようにしているタカヒロなら、相手の考えをがんがんと押し付けられる、なんて苦痛でしかないだろうな、とレッドたちにも察せられた。
「……そのような人が城で、王や貴族の方々に会うと言うのは、危険過ぎませんか?」
「そうだな……」
「ん~、そんな人がどんな力を持ったら、大活躍してお城に呼ばれるほどになるんだろうね?」
自分の意見を曲げようとしない人間が、知らない世界の王や貴族など、身分を持って接する相手に無難に挨拶をこなせるとは考えにくい。
リベルテの素直な意見に、レッドも同意を示す。
マイもさすがに、その人物の危うさを認識してきたらしかった。
「さすがに、どんな力を持ってるかなんて、知らないよ。教えてなんてもらえるわけないし、王様から褒美を貰うだろう場所に、僕は入れないし、行きたくないからね。帰りかな? って所で、姿を見かけただけだし」
騒乱によって『神の玩具』はもういらない、と思っている所に新しい『神の玩具』が現れた。
その事実は変えようが無く、レッドたちは唸って頭を痛めるしかなかった。
「いずれにせよ。その方は警戒しておいた方が良さそうですね。ハーバランドを拠点とされているのであれば、王都で会う事は無さそうなのが救いでしょうか? この国の中枢に影響を与えることもないはずですし」
リベルテの言葉に皆頷いて、話が終わったと、タカヒロは自室に戻っていった。
マイも戻ろうと立ち上がった所で、リベルテから声をかけられた。
「タカヒロさんのこと、もう少し信じてあげてください。お二人の関係も、少し変わっているのですから」
リベルテの言葉に、マイはぎょっとして振り返る。
リベルテがとても良い笑顔を向けていて、マイは何も言えず、逃げるように部屋へと駆け上がって言った。
「リベルテ。あいつらの何が変わったんだ?」
「ふふ。さぁ、なんでしょうね?」
リベルテの言葉の意味を一人理解できなかったレッドが、リベルテに聞いてみるがはぐらかされる。
独り釈然としないまま、自室へと戻り、レッドは日々の訓練に精を出すのであった。
それから翌日。
タカヒロは城へ向かい、レッドは訓練、マイは薬の勉強、リベルテはレッドの介助と家のことと動き出す。
いつもと変わらない生活が始まるはずだったのだが、徹夜してくるだろうはずのタカヒロが、急ぎで帰ってきた。
ここ最近では無かった行動に、リベルテは驚きのままタカヒロを出迎える。
「タカヒロさん!? 仕事が早く終わったのですか? ご飯、すぐ用意しますね」
いつもなら朝ごろに帰ってくるタカヒロの分の用意が必要で、竈へと足早に戻っていく。
タカヒロはリベルテに申し訳ないなと思いつつ、リビングへと入り、頭を抱えるように椅子に座る。
ちょうど食事中だったレッドとマイが、この時間に帰ってきたタカヒロを物珍しそうに見ていた。
「おぅ、お疲れさん。……と言うか、また顔色悪いな。また何かあったのか?」
タカヒロは席につくなり頭を抱えるようにしていたのだが、レッドの言葉にガバッと顔を上げる。
「ヤバイっす……」
「え? なんだって?」
「あれ、城に居たんですよ……。なんでか、城勤めになってるらしくて」
タカヒロの言葉にレッドとマイは食事の手が止まり、タカヒロの分の食事を運んできていたリベルテが、ガチャっと食器を鳴らしてしまう。
「え? あの、タカヒロさんが知っている、という方、ですか?」
タカヒロが力なく頭を動かすと、タカヒロの前に食事をおいたリベルテとレッドが、揃って額に手を当てた。
「え、なんで城勤めになったんですか?」
「カーマインさんから聞いた限りだと、未来が分かるらしい、です。カーマインさんが、それが本当だったら凄いけど、そんな怪しい力が本当なわけがないって力説してましたけどね……」
タカヒロが疲れた様子の一端に、カーマインの力説を聞かされた、と言うのがあったのかもしれない。
だが、何よりも、タカヒロが口にした『神の玩具』の力は、これまた過ぎた力の極みつきであった。
「本当に未来が分かるのだとしたら、今の城にとって、喉から手が出るほど、欲しい力ですね」
「……本当に、そんな力あると思うか?」
「不思議な力が多かったから、あるかもしれませんね。あ~、私もそういう力を選べたら、欲しかったかも」
レッドとリベルテがマイに顔を向ける。
「え? 欲しくないですか? だって、未来がわかるんですよ? 失敗しなくてすみますし、良い事だけ出来そうじゃないですか?」
マイの欲丸出しの言葉に、レッドはため息を交えながらマイに問いかける。
「未来が分かっていて。その未来を変えたら、未来が分かるって言えるのか?」
レッドから投げられた言葉に、マイは大きく首を傾げる。
しばらく、マイが考え込む様子を見ていたが、なんて答えれば良いのかわからないようだった。
「いや、分かってる未来が酷いものだったら、変えたいじゃないですか。それで、その酷い未来を変えて良い未来に出来たら、それって凄いことじゃないですか?」
「それはそうだろうが……。なんて言えばいいのかな……。未来が分かるって言うのが、どうやっても変えられない未来がわかるのか、変えてしまえる未来がわかるのかで違う。変えられる未来なら、未来なんてわからないって話と同じだろ? それに、その分かる未来ってのがどれくらい先の話なのか、それともすぐ先なのか。少し後のことを言われても、ほとんど変えようがないし、かと言って、今から100年先だ、なんて言われてもそれが本当なのか、もう誰にもわからん」
レッドの言葉に、マイはわかるようなわからないような反応を示すが、タカヒロはわかるようで、時折、頷いていた。
パンパンと手を叩く音が響き、皆が音の方に顔を向ける。
「私たちが、その力がどのようなものかを考えても仕方がありません。それより、その方がどのように動くのか。この国にどのように関わってくるのか。それと私たちに関わってくるのか、です」
「その通りだが、それこそ俺らが今考えてどうにかなるものなのか? そいつ次第だろ?」
レッドたちの目がタカヒロに向く。
視線が集まり、何を聞かれているのかわかり、タカヒロは項垂れる。
「……ですよねぇ。関わりたくないですけど、城に行ってるの、僕だけだからなぁ」
接点を持てそうなのは、同じ城勤めのタカヒロだけである。
タカヒロが苦手とする相手であっても、タカヒロしかその人物の動きを見張ることが出来ないのだ。
リベルテも気の毒そうに、タカヒロに目を向けるしか出来そうに無かった。
「あ、そうだ」
マイが何かを思いついたらしい。
タカヒロとしては、あまり関わりたくない相手だけに、何か良い代案でもあるのかと、期待の顔を向ける。
「その人って、名前はなんて言うの?」
今更な話でありながら、これまで誰も頭に浮かばなかったことに、レッドたちも、あ、と口をあけてしまった。
タカヒロが、頭を掻き、ひとつ息を吐いてから口を開いた。
「あ~、確か、アンリって名前だったはずです」
名前を思い出すのも、嫌そうな顔であった。
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