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豊穣祭後の雰囲気は、どこか物悲しい気分を感じさせる。
実際には、屋台や出店の片付け、王都から各地へ戻る人々、そして、普段と変わらぬ日々を送る人たちの喧騒が聞こえるため、ひっそりとした様子など何処にも無い。
しかし、リベルテの家には賑やかさは無かった。
リビングのテーブルには、朝食の食器が二人分残っていて、レッドは窓の外を見ながらドクダミ茶を飲んでいた。
リベルテも、いつもであればすぐ食器をの片付けるだが、レッドと一緒にゆっくりとドクダミ茶を飲んでいる。
そう……、マイが薬師になるため、師匠となってくれたソレの家に移ってしまったのだ。
また、マイに合わせてタカヒロも、リベルテの家を出て行っていたのである。
「マイがこの家を出るのに合わせて、僕もここ出ます。お世話になりました」
豊穣祭で新メニューの料理を堪能して戻ってきたレッドたちに、タカヒロがいきなり切り出した言葉がこれだった。
「えぇぇ!? ちょっと、タカヒロ君!? いいの? 大丈夫なの? ちゃんと考えてるの?」
この家を出るマイが一番に驚いてタカヒロに詰め寄っていたが、君に言われるほどじゃない、と頭を片手で押さえられていた。マイは小柄な方なので、タカヒロの身長であれば、容易にマイを上から止められるのである。
「……一応、理由を聞いてもいいか?」
自分の部下と言うわけでも親族と言うわけでもない相手に、強制など出来ない。
ましてや、こちらに迷惑を掛けようとしている相手でも無いのだから、レッドが上から物を言うわけにはいかないのである。
「元々、この王都で生活してみたいって言ってついてこさせてもらって、僕ら二人で冒険者やってたけど、レッドさんたちのご好意で、この家に住まわせてもらってました。でも、僕らってチームでは無いですよね? 組んでるわけでも無いわけですし、マイが独り立ちするなら、僕もこのままお二人の好意に甘えてるのは違うかなって」
レッドたちは、マイとタカヒロが『神の玩具』であり、その力に任せて何か仕出かさないか監視する目的と、王都での生活をわかってもらえるようにと世話をし始めたにすぎない。
自分たちの目的に沿うように王都での冒険者生活を勧め、タカヒロたちの人柄を確認したので、より近くで接するために、運よく手に入った家に誘ったのである。
もう2年も行動を共にしてきて、二人の力と人柄を見てきた。
王都の生活にも慣れてきているし、それぞれがレッドたち以外に話をする相手が出来ている。
タカヒロが言った様に、冒険者のチームを組んではいないのだから、個人の家にチームでもない者が一緒に生活する理由は無いのである。
「……寂しく、なりますね……」
馴染んできた賑やかな日々であったが、自分で進む道を決めた人を引き止める理由はどこにもない。
一気に人が去ってしまうことの寂しさはあるけれど、いつかは離れていく可能性があったのだ。
それがこの機会になっただけである。
リベルテのこぼした言葉はそれがわかっていてもなお、これまでの日々から溢れてきた思いだった。
「タカヒロ君……。どこか行っちゃうの?」
マイが置いて行かれた子どものような顔になる。
『神の玩具』とは、ここでは無い、違う場所から現れた、来させられた人たちである。
同じ境遇であるタカヒロと会ったことは、マイにとって支えになっていたのだろう。
いくらこの世界で、王都での生活に慣れてきたとは言え、レッドたちと離れるより、自分に近いタカヒロと離れてしまうことに心細さを覚えるのも無理は無いと思えた。
「ん? いや、普通にこの王都にいるよ。 他の所に行っても上手くやって行けそうな気がしないし。行くとしたらメレーナ村だけど、あそこには冒険者ギルドなんて無いからねぇ」
何言ってるの? とばかりにマイを見るタカヒロ。その言葉に、マイが明らかにホッとする。
「ひとまずは、自分ひとりでやれそうなことをやって生活してくってところですかね。ここでは快適に過ごさせてもらってたので、大変なことが多そうですけどねぇ」
借りていた部屋の方を見て、リベルテたちに向かって、少し困ったような顔で笑いかける。
「……でしたら、このままこちらに居ても」
レッドがリベルテの肩に手を置いて、言葉を止める。
「自分で考えて決めたことを、他のやつが止めたらダメだ。よほど間違ってたことだったり、無謀なことをしようとしてない限りは、な」
レッドがタカヒロに目を向けると、タカヒロが親指を立てる。
「だから、それが何七日わかんねぇよ……」
そして感謝の言葉と笑顔とともに、マイとタカヒロはこの家から旅立って行ったのだ。
「静かなもんだな……」
「あの二人が居なければ、こういう生活だったのですよね」
タカヒロたちが居ただけで賑やかな日々であった。その二人が居なくなったら、より一層静けさが感じられてしまう。
そっと、リベルテが目を向けた先は、フクフクが止まっていた場所。
マイが拾ってきて、育てると言いだしてから、長い日にちは経っていない。
それなのに、フクフクはマイとリベルテによく懐き、腕の中に収まる大きさであったので、可愛いと思えるようになってきていたのだ。
だが、マイと一緒に居なくなってしまい、もうこの家には居ない。
マイが飼い育てているのだから、マイが引き取っていったのは当然である。
「……仕事、行こうか」
「ふふ。そうですね。このまま居ても仕方が無いですから。洗い物をしてからにしますので、少し待っててください」
リベルテが食器を持って、洗い場に向かう。
レッドは立ち上がり、顔に両手を叩きつけて気を入れ替える。
「……よっし。行くか」
レッドはレッドで、準備をしに部屋へと戻るのだった。
二人は冒険者ギルドに向かい、レッドが依頼板を見回る。
この依頼を受けようなどと考えてきた仕事は無く、何か目に付いた依頼をと探すが、先ほどまでの家で感じていた気分が後を引いていて、いつものように、これだと手が伸びる依頼はなかった。
気分が乗らないのだから仕方が無いと、リベルテに相談に戻っていると、ギルドから出て行くグループがたまたま目に付いた。
冒険者たちの中に、タカヒロが混じっていたのだ。
元々、王都のどこかの宿に移っただけであり、もう会えなくなっていた訳ではない。
あの数からして、何かしらの討伐の依頼に混ざることが出来たのだろう。
人数が少ない方が一人頭の報酬は増えるが、その分危険が増す。相当な腕を持っていないと、罠や薬など用意する物が多くなり、出費の方が大きくなる。
そこで、討伐の依頼は受けたいが確実性を上げたいと、臨時にメンバーを募集することがあるのだ。
受けてきた依頼履歴と自分が出来る、得意なことを募集主と面談して、募集主が決めた相手が臨時で組むと言う方法か、ギルドに仲介してもらって組むと言う方法がある。
前者は募集主の目利次第となり、後者はギルドが人柄や実績を保障してくれるのだ。
タカヒロは、そのどちらかで組むことができたのだろう。
タカヒロも自身で歩み始めていることを感じさせた。
「あ、レッド」
タカヒロを見て、多少やる気が戻ってきたレッドであったが、どんな依頼にするかは決まっていない。
リベルテと相談しようとしていたところだったのだが、リベルテの他にもう一人、レッドを待っていた人が居た。
「よう。ちょっと話しようぜ」
ギルドマスターのギルザークである。
「……また勝手に抜け出してるのか? 仕事多いだろうに」
「まぁ、おまえら冒険者の統括だからな。会って話をするのも仕事だよ」
レッドの軽口にギルザークはどこか安心したようで、杞憂か、と呟いた。
「おまえらが連れてきた二人組が居ただろ? 女性は薬師を目指すって耳にした。それで、男の方は基本は一人でやって行くといか言ってくるから、募集のあった討伐のチームに混ぜといたぞ」
「ええ。マイさんはそのうち、冒険者の証を返却しにきます。薬師になりますから」
「あいつも考えることがあるみたいで。それで一人でやれるところまでやりたいんじゃないか、と思ってます」
早速と動きに変化のあった二人に、ギルザークは何かあったのかと暗に尋ねていたのだ。
しかし、レッドたちから返ってくる言葉に不穏さが無いことを感じ取り、そうかと返すギルザークの顔は、面倒見の良いおじさんであった。
「何か問題があったわけじゃ無いならいい。有ったならおまえらももっと深刻そうな顔になるだろうからな。お前たちがまた二人に戻るなら、ちょっと請け負ってくれんか? 腕が確かで口が堅く、信頼できそうなやつに頼みたい」
面倒見の良さそうなおじさんの顔から、ギルドマスターの顔に戻るギルザーク。レッドたちも釣られて気を入れ替える。
「早速の面倒ごとは歓迎しないんですけど……」
苦笑しながら、ギルマスの部屋に向かっていくギルザークの後を二人はついていく。
これまで過ごしてきた生活は変わらない。これまでと変わらない冒険者の生活が続くだけである。
豊穣祭後の冒険者ギルドは、また賑やかで、請け負っていく冒険者たちが続々と動き出していた。
実際には、屋台や出店の片付け、王都から各地へ戻る人々、そして、普段と変わらぬ日々を送る人たちの喧騒が聞こえるため、ひっそりとした様子など何処にも無い。
しかし、リベルテの家には賑やかさは無かった。
リビングのテーブルには、朝食の食器が二人分残っていて、レッドは窓の外を見ながらドクダミ茶を飲んでいた。
リベルテも、いつもであればすぐ食器をの片付けるだが、レッドと一緒にゆっくりとドクダミ茶を飲んでいる。
そう……、マイが薬師になるため、師匠となってくれたソレの家に移ってしまったのだ。
また、マイに合わせてタカヒロも、リベルテの家を出て行っていたのである。
「マイがこの家を出るのに合わせて、僕もここ出ます。お世話になりました」
豊穣祭で新メニューの料理を堪能して戻ってきたレッドたちに、タカヒロがいきなり切り出した言葉がこれだった。
「えぇぇ!? ちょっと、タカヒロ君!? いいの? 大丈夫なの? ちゃんと考えてるの?」
この家を出るマイが一番に驚いてタカヒロに詰め寄っていたが、君に言われるほどじゃない、と頭を片手で押さえられていた。マイは小柄な方なので、タカヒロの身長であれば、容易にマイを上から止められるのである。
「……一応、理由を聞いてもいいか?」
自分の部下と言うわけでも親族と言うわけでもない相手に、強制など出来ない。
ましてや、こちらに迷惑を掛けようとしている相手でも無いのだから、レッドが上から物を言うわけにはいかないのである。
「元々、この王都で生活してみたいって言ってついてこさせてもらって、僕ら二人で冒険者やってたけど、レッドさんたちのご好意で、この家に住まわせてもらってました。でも、僕らってチームでは無いですよね? 組んでるわけでも無いわけですし、マイが独り立ちするなら、僕もこのままお二人の好意に甘えてるのは違うかなって」
レッドたちは、マイとタカヒロが『神の玩具』であり、その力に任せて何か仕出かさないか監視する目的と、王都での生活をわかってもらえるようにと世話をし始めたにすぎない。
自分たちの目的に沿うように王都での冒険者生活を勧め、タカヒロたちの人柄を確認したので、より近くで接するために、運よく手に入った家に誘ったのである。
もう2年も行動を共にしてきて、二人の力と人柄を見てきた。
王都の生活にも慣れてきているし、それぞれがレッドたち以外に話をする相手が出来ている。
タカヒロが言った様に、冒険者のチームを組んではいないのだから、個人の家にチームでもない者が一緒に生活する理由は無いのである。
「……寂しく、なりますね……」
馴染んできた賑やかな日々であったが、自分で進む道を決めた人を引き止める理由はどこにもない。
一気に人が去ってしまうことの寂しさはあるけれど、いつかは離れていく可能性があったのだ。
それがこの機会になっただけである。
リベルテのこぼした言葉はそれがわかっていてもなお、これまでの日々から溢れてきた思いだった。
「タカヒロ君……。どこか行っちゃうの?」
マイが置いて行かれた子どものような顔になる。
『神の玩具』とは、ここでは無い、違う場所から現れた、来させられた人たちである。
同じ境遇であるタカヒロと会ったことは、マイにとって支えになっていたのだろう。
いくらこの世界で、王都での生活に慣れてきたとは言え、レッドたちと離れるより、自分に近いタカヒロと離れてしまうことに心細さを覚えるのも無理は無いと思えた。
「ん? いや、普通にこの王都にいるよ。 他の所に行っても上手くやって行けそうな気がしないし。行くとしたらメレーナ村だけど、あそこには冒険者ギルドなんて無いからねぇ」
何言ってるの? とばかりにマイを見るタカヒロ。その言葉に、マイが明らかにホッとする。
「ひとまずは、自分ひとりでやれそうなことをやって生活してくってところですかね。ここでは快適に過ごさせてもらってたので、大変なことが多そうですけどねぇ」
借りていた部屋の方を見て、リベルテたちに向かって、少し困ったような顔で笑いかける。
「……でしたら、このままこちらに居ても」
レッドがリベルテの肩に手を置いて、言葉を止める。
「自分で考えて決めたことを、他のやつが止めたらダメだ。よほど間違ってたことだったり、無謀なことをしようとしてない限りは、な」
レッドがタカヒロに目を向けると、タカヒロが親指を立てる。
「だから、それが何七日わかんねぇよ……」
そして感謝の言葉と笑顔とともに、マイとタカヒロはこの家から旅立って行ったのだ。
「静かなもんだな……」
「あの二人が居なければ、こういう生活だったのですよね」
タカヒロたちが居ただけで賑やかな日々であった。その二人が居なくなったら、より一層静けさが感じられてしまう。
そっと、リベルテが目を向けた先は、フクフクが止まっていた場所。
マイが拾ってきて、育てると言いだしてから、長い日にちは経っていない。
それなのに、フクフクはマイとリベルテによく懐き、腕の中に収まる大きさであったので、可愛いと思えるようになってきていたのだ。
だが、マイと一緒に居なくなってしまい、もうこの家には居ない。
マイが飼い育てているのだから、マイが引き取っていったのは当然である。
「……仕事、行こうか」
「ふふ。そうですね。このまま居ても仕方が無いですから。洗い物をしてからにしますので、少し待っててください」
リベルテが食器を持って、洗い場に向かう。
レッドは立ち上がり、顔に両手を叩きつけて気を入れ替える。
「……よっし。行くか」
レッドはレッドで、準備をしに部屋へと戻るのだった。
二人は冒険者ギルドに向かい、レッドが依頼板を見回る。
この依頼を受けようなどと考えてきた仕事は無く、何か目に付いた依頼をと探すが、先ほどまでの家で感じていた気分が後を引いていて、いつものように、これだと手が伸びる依頼はなかった。
気分が乗らないのだから仕方が無いと、リベルテに相談に戻っていると、ギルドから出て行くグループがたまたま目に付いた。
冒険者たちの中に、タカヒロが混じっていたのだ。
元々、王都のどこかの宿に移っただけであり、もう会えなくなっていた訳ではない。
あの数からして、何かしらの討伐の依頼に混ざることが出来たのだろう。
人数が少ない方が一人頭の報酬は増えるが、その分危険が増す。相当な腕を持っていないと、罠や薬など用意する物が多くなり、出費の方が大きくなる。
そこで、討伐の依頼は受けたいが確実性を上げたいと、臨時にメンバーを募集することがあるのだ。
受けてきた依頼履歴と自分が出来る、得意なことを募集主と面談して、募集主が決めた相手が臨時で組むと言う方法か、ギルドに仲介してもらって組むと言う方法がある。
前者は募集主の目利次第となり、後者はギルドが人柄や実績を保障してくれるのだ。
タカヒロは、そのどちらかで組むことができたのだろう。
タカヒロも自身で歩み始めていることを感じさせた。
「あ、レッド」
タカヒロを見て、多少やる気が戻ってきたレッドであったが、どんな依頼にするかは決まっていない。
リベルテと相談しようとしていたところだったのだが、リベルテの他にもう一人、レッドを待っていた人が居た。
「よう。ちょっと話しようぜ」
ギルドマスターのギルザークである。
「……また勝手に抜け出してるのか? 仕事多いだろうに」
「まぁ、おまえら冒険者の統括だからな。会って話をするのも仕事だよ」
レッドの軽口にギルザークはどこか安心したようで、杞憂か、と呟いた。
「おまえらが連れてきた二人組が居ただろ? 女性は薬師を目指すって耳にした。それで、男の方は基本は一人でやって行くといか言ってくるから、募集のあった討伐のチームに混ぜといたぞ」
「ええ。マイさんはそのうち、冒険者の証を返却しにきます。薬師になりますから」
「あいつも考えることがあるみたいで。それで一人でやれるところまでやりたいんじゃないか、と思ってます」
早速と動きに変化のあった二人に、ギルザークは何かあったのかと暗に尋ねていたのだ。
しかし、レッドたちから返ってくる言葉に不穏さが無いことを感じ取り、そうかと返すギルザークの顔は、面倒見の良いおじさんであった。
「何か問題があったわけじゃ無いならいい。有ったならおまえらももっと深刻そうな顔になるだろうからな。お前たちがまた二人に戻るなら、ちょっと請け負ってくれんか? 腕が確かで口が堅く、信頼できそうなやつに頼みたい」
面倒見の良さそうなおじさんの顔から、ギルドマスターの顔に戻るギルザーク。レッドたちも釣られて気を入れ替える。
「早速の面倒ごとは歓迎しないんですけど……」
苦笑しながら、ギルマスの部屋に向かっていくギルザークの後を二人はついていく。
これまで過ごしてきた生活は変わらない。これまでと変わらない冒険者の生活が続くだけである。
豊穣祭後の冒険者ギルドは、また賑やかで、請け負っていく冒険者たちが続々と動き出していた。
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