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「レッドさん。そういえば銃を使ってた人のことわかりました? それと銃がどうなったかとか」
陽が差す時が長くなってきたとは言え、まだまだ寒い外を尻目にゆっくりとマイが作ってくれたドクダミ茶を飲み、ゆったりとしていたところにタカヒロが唐突に質問をなげる。
飲もうとコップを持ち上げていたレッドの手が止まる。
リベルテに謝りながら投げっぱなしにした後、レッドは忘れていたのだ。
もはや唐突なその質問は渾身のストレートであった。
どういったものかと目をさ迷わせるレッドの様子は、状況をとても判りやすく伝えており、タカヒロはジトッとレッドを見るだけである。
誰も何も発しない時間がほんの少し、だがそこに居るものにはとても長く感じられる時間が過ぎる。
だがそこに救いが現れた。
「今日も寒いです……。マイさん私にも温かいお茶ください……」
リベルテが起きてきたのだ。
レッドはこれ幸いと目でリベルテに助けを求めるが、寝起きであるためかリベルテの反応は無く、マイからどうぞと差し出されたお茶を、ありがとうとゆっくりと少し冷ましながら飲み始める。
ほぉっと一息ついたところで、レッドだけでなくマイやタカヒロからも目を向けられていることに気づいたリベルテは何事かと慌てる。
「な、なんですか?」

もちろん、わが身の保身を図るため、レッドがそろそろとリベルテの機嫌を窺いながら小声で事態を説明する。
「いや……あの……銃とかいうものを使ってた奴の話、なんだが……。あれからどうなってますか?」
自らの丸投げで迷惑を被らせているのがわかっているため、口調も丁寧気味である。
「ああ、その件ですか。それで何を知りたいんでしたっけ?」
思いのほかあっさりと事態を受け止めるリベルテに、レッドは心底感謝をこめた目をむけ、タカヒロたちはさすがとばかりの目に変わる。
「えと、その人がどんな人だったのかなとか。どうなったのかなとか」
「それと、銃がどうなってるのかとか」
それらを聞いてリベルテはレッドを見て、レッドが一瞬の間を空けてからうなづくのを確認してから話し始める。

「そうですね……。まず銃というものですけど、悪しき武具として封印されています。そして銃というものが広まっている感じはありませんね。こちらの国でもそれらしきものを持っている人も作っている人もいないでしょう?」
「それはどうしてですか?」
「最初にその銃を使っていた人は片手で扱っていたらしいのですが、片手で扱えるようなものにできた人はこれまでにいないのです。その後にこう両手で構えるような筒の形のもので広めようとした人が居たらしいのですが、材料が揃わなかったのかそれとも想定されていたほどの力がなかったのか取り上げられることはなかったようです」
「なんでですか?」
「それはわかりませんよ。私がその時代に生きていたわけではありませんから。それにそこまで記録が残されていませんし。消されたのか書かなかったのか、それすらも、ですね」
話ながらリベルテは朝食をまだ取っていないため、マイが作っていたコーンスープを自分でよそう。
マイも話を聞くために椅子に座っていて、今先ほどの話に止まっていたからだ。

「そういえば、悪しき武具とかいってましたよね? それ、なんでって聞いてもいいですか?」
「そういってる時点で聞いてますよね、それ。変な言い回しです。なんとなく想像が付いていると思いますが、その銃を使っていた方は討伐されました。凶悪な暴威を奮った者として」
それを聞いて沈黙する二人。
そこにレッドが口を挟む。
「残ってるそいつの記録がどんなのか俺は知らないが、見当が付くところはあるな。強すぎたんだろ、そいつは。強い奴に憧れたり、頼もしいって思うのはあるが、強すぎる力は状況が少しでも変われば脅威に変わるもんだ。ちゃんと知ってたか? 冒険者ギルドは王都と各貴族領の人が多いところにしか作られないし、冒険者はギルドのない村には長く滞在してはいけないことになってるのを」
「「え?」」
「ちゃんと規則見とけよ。良くて罰則、悪けりゃその場で討伐されるぞ」
二人が初めて聞いたという反応をしたことに、笑いながら規則だとレッドは言うが、悪ければ殺されるとあれば笑えるはずもない。
二人が固まって言葉にだしていないが、目はなんでと強く訴えていた。

「強すぎるからさ。全員が全員とは言わないけどな。モンスターの討伐の依頼があったら倒しに行くのは冒険者がほとんどだ。わざわざ依頼にだしてるんだからな。倒せなくて困っているモンスターを倒すやつらがずっとそこに残っててみろ。そこに住んでいる人たちが手を出せなかった相手を倒すやつらだぞ? もっと手が出せないってことだろ」
「そんな!? それって酷くないですか? その人たちのために戦ったんですよ? 少しくらいのんびりしてもいいじゃないですか」
「少しくらいなら、な。だいたい依頼できたなら、依頼達成した時点で帰るもんだ。残り続ける必要はないだろ。怪我してたにしても、そんな村より王都とかに戻ってきたほうが治療できる。そこに留まり続けるってのはな、感謝であったりその力で強要しているともとれるんだ。逆らえないだろ?」
「事実、かなり昔にその村を支配していたとも言える冒険者がいたことがあるんです。モンスターが現れればその冒険者が対処してくれますから、感謝していたのでしょうが、モンスターに常に襲われているものではありません。恩人だと思えば無碍にできませんし、あちらの要望に応えようともするでしょう。でも、村なのです。余裕が有る生活とも裕福ともなかなか言えないものです。いずれ要望にこたえることも、報酬が満足いくものにできなくなるでしょう。でも、その人が居なくなってしまい、報酬が出せないとかギルドに報告が出されたらもうだれも来てくれなくなるかもしれない。言うことを聞くしかなくなってしまいませんか?」
「そんなことを二度とさせないってことだな。冒険者となった者は覚えておかなきゃいけないことだ」
「じゃあ……銃を使っていた人も?」
「その可能性もありますね。残されている記録では、ほとんどの討伐依頼を一人でこなし、その稼ぎで他者の上に立つような振る舞いをしていたそうです。多くの女性を側に置いたりとか、それこそ先ほどの話にあったような『お願い』をしたりと。逆らったり敵対した人には銃で殺された人もいたそうです。だから、軍と大勢の人によって討たれたと」
「事実にしろ、改変されたところがあるにしても、まぁ、人の恨みを買いすぎたってことだろうよ」

すっかりと黙ってしまった様子の二人であったが、タカヒロが顔を上げる。
「前にリベルテさんは、新しい年の始まりの日を統一した人が嫌いって言ってましたよね? その人たぶん最後は殺された、んですよね?」
「どうしてそう思った?」
「他の国の王様達の意思を曲げてしまえるほどの力を持っていたんでしょ? 偉い人たちにとって邪魔だし、それこそ恨まれてると」
はるか昔に、各国にもお金や物資で顔が利き、多くの国を混乱させた後に年と通貨を統一させた一大商会を打ち立てた者。
「そうだな。物のやり取りにおいて大きな混乱が起こったからな。それで死んだ人もいるし、滅んだ国もあるからな。でもな、それだけじゃないんだよ」
「恨み以外に、ですか?」
「いや、恨みっちゃ恨みになるんだろうけどな。その商会は金を儲けすぎたんだ」
「商売なら儲けを出すことが目的じゃないですか。儲けすぎたからで命狙われたらたまりませんよ?」
「儲けるなって話じゃなくてな。貯めすぎた、集めすぎたって話だ。重さ大きさなどを統一したとは言え、金や銀だぞ? 鉱山を掘り出して精錬して取り出すものだ。限りがある物だ。それがその商会に集中するんだ、他は金が入らないってことになる。金がなくなって物が動かなくなってたとか、物を交換して手に入れてたとかって話も残ってる。なんだろうな? その商会を作った奴は金はいくらでも湧いてくるとでも思ってたのかもしれんな」
「そんな……」
マイは口を押さえて驚いていたが、タカヒロはレッドの話を聞いて、そうかと小さい声を出すだけだった。
反応に違いは有ったが、どことなく二人ともお金はいくらでも稼げる、あるいは世界にある物と思っていたように感じられた。
その様子を見たレッドは、『神の玩具』の末路を話すことは、彼らが力を振り回す一因になるのではないかと考えていたが、むしろ話したほうがこの世界に生きるということを考えてくれるのではないか、と思い直していた。

「ふぅ。ご馳走様でした。それでは今日も一つ稼ぎましょうか。夜はお酒を飲みながらいい物を食べましょう」
一つ明るくいうリベルテに弾かれたようにマイとタカヒロもやる気を出して動き出す。
それを見て、こういうのは真似できないなと思いながら、レッドも腰を上げる。
今日も今日とて、冒険者として、生活していくため、動かなくてはいけないのだ。
今日の空は晴れ間が広がり、少しずつ暖かさが戻ってきていた。
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