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『神の玩具』と思われる二人を連れて、メレーナ村から王都に戻る一行。
王都までは三日の道のりであれば、最低二日は野営となる。
初日は少し楽しそうにしていたマイとタカヒロの二人であったが、二日目になるとあきらかに辛そうにしている。
メレーナ村に来るまでどうだったのかと思わないでもないが、野営するような暮らしはなかったのだろうことが見て取れた。
王都に着くと村とは違い城壁があり、人が多いことから呆けている様は、いかにも村から来ましたという雰囲気でホッとするのだが、連れて来た以上、それなりに見ていないといけないことに早くも気が重いレッドであった。
「今回もありがとうございました。また依頼するときはお願いしますよ、レッドさん」
「ラングさんは金払いもいいからな。こちらもアテにさせてもらいますよ」
城門を抜けた後、レッドたちは自身の荷物を馬車から降ろす。ラングはこのまま自分の商会に戻り、レッドたちはギルドに報酬をもらいに行くためだ。
「冒険者ギルドに行くとからまれるのかな。テンプレだし」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ。でも、レッドさんたちが居るから大丈夫じゃない?」
あちらの二人がこそこそと何かを話ししているのが、王都にどのような判断をしているのか少し怖い二人。
「大丈夫ですかね?」
「いや、どの道、王都には来ただろうから。後は何事も無く過ごしてもらえればいいんだがな……。知ってるから気をつけられるというのはあるが、こう心労を感じると知らなきゃ良かったと思うわ……」
「私達が面倒を見る理由もないですし、そんな余裕もないですからねぇ」
楽しそうな雰囲気の二人と憂鬱そうな二人の組み合わせに、住民達の目を集めていたことに当人達は気づかなかった。
「あら? レッドさんたち、おかえりなさい。完了報告お願いしますね」
エレーナさんがエントランスにちょうど良く居たらしい。
マイたちはこれから冒険者登録を行い、自分たちで稼いで生活していくのだ。
先達として教えられることはあるだろうが、まずは職員が教えることの方が先だろう。
要は早く投げ出して、落ち着きたいのである。
「エレーナさん、ちょうど良かった!」
レッドがエレーナの手を取る。
普段見受けることの無いレッドの積極的な接触にエレーナは顔が赤くなるのがわかる。
どうしようかと思い、リベルテに目を向けるが、リベルテもいつも雰囲気が違う。
「エレーナさん。こちらの二人、冒険者希望なんだそうです。手続きと、あと冒険者がどういった仕事をするかとか詳しく知らないみたいなので、教えてあげてください」
リベルテもエレーナのもう一方の手を取り、若干の早口でお願いしてくる。
「わ、わかりました」
あまりの押しにエレーナが了承の意を示すと、よっしとばかりにレッドは後ろの二人に伝えに行き、リベルテは依頼完了の報告に去っていく。
「なんなんですか……」
エレーナがふぅと息を吐いて落ち着きを取り戻そうとしていると、遠慮がちに声がかけられる。
「あのぅ、すみません。レッドさんたちから聞いたと思うのですが、私達冒険者になろうと思ってます。よろしくお願いします」
レッドたちの勢いに、何かしら問題がある人かと思えば、腰が低い挨拶に幾分かの戸惑いを覚えながら、顔に出さない辺り、エレーナはできる人だった。
「よし、これでしばらくは大丈夫だろう」
「贅沢はできないでしょうが、当面の生活費は村からの持ち出しでなんとかなるようでしたからね」
「んじゃ、戻ってゆっくりしようぜ。もう疲れてるから、酒飲んで寝たいわ」
二人は足早に宿に戻り、早速と酒場に足を運び、エールやワインなどを飲んで就寝する。
ここまで気を緩めなければいけないほど疲れたのは久々だったのだ。
だが、一度結んだ縁というのはなかなか切れるものではない。
ましてやその縁がつい最近結んだばかりとなれば、なおさらである。
「レッドさん、冒険者って地味すぎませんか?」
いつも通っている酒場で、マイたちに捕まったのである。
そして、絶賛愚痴中である。
冒険者にどんな印象を持っていたのかと思うところであるが、モンスター討伐など早々あるものでないし、人手が足りないものやあまり人がしない雑用が主なものなのだ。
職にあぶれた者たちの受け皿的なものにそうそう華などないものである。
「なんかもっとこう、モンスターを倒して回って、その素材を売ったりして儲けられる仕事じゃないんですか……」
「おまえ、それどんだけ夢みてんだよ……」
「だって、これじゃあ何を持って『冒険者』なんて言うんですか。どこも冒険してないじゃないですか」
「そっちもか……」
男であれば冒険譚や英雄譚などを読んで、そういう思いを馳せるというのはわかるものではあるが、働き始めればこんなものかと落ち着くものである。
男だけでなく女性でもそのようなことを考える人も少なくは無いが、男よりはいくらか現実的で、死ぬかもしれないことを考えれば、そんな夢見る冒険者になろうとはしない。
「冒険をしてないのにということですけど、私達のこの陸地も海もわかっていないことが多いんですよ。各貴族たちが領地を与えられて発展させて、村とかできたりしてますけど、まだまだわからない土地も多いんです。その先にどんな土地があるのか、モンスターが居るのかね。そういう土地に調査に最初に行くとすればそういった依頼を受ける冒険者になります。
それから、そういう土地の調査だけでなくても、モンスターの討伐の依頼があったとして、どれだけいるのかとか、どこをねぐらにしているのかなんて自分たちで調べることになります。採取の依頼だったとしても、どこにあるとか確定した情報がなければ探して回らないといけません。
ほら、こうなれば『冒険』ですよね」
リベルテの説明にそれはそうかもしれないけど、とまだ不満は消えないタカヒロ。
「ラノベならモンスターがあっちこっちにいて、皆がそう簡単に倒せないやつを倒して回って一気にお金持ちになって名声も、ってなるんだけどなぁ……」
「そんな怖い世界嫌だぞ。モンスターで溢れてるとか、人が生活していけないじゃないか」
タカヒロのあまりにも怖ろしい願望に、顔をしかめて嫌そうに返すレッド。
「え~、でも倒せばいいだけじゃないですか」
「戦える人がどれだけいて、戦えない人がどんだけいるんだよ。そんなにモンスターに溢れられてたら、土地も広げられんだろ。村とかじゃ滅ぼされかねない。だいたい、そんな世界なら冒険者なんかなくて、みんな兵士とかになってるだろ」
モンスターと戦わなくてはいけないことが多いのであれば、職にあぶれた者達は皆兵士とすればいいのである。冒険者なんて受け皿は必要ないのだ。
「でも、世界のあっちこっちいくなら国に縛られない冒険者しかいないじゃないですか」
「ん? 冒険者であっても他の国とか領内に入ることはできないぞ。国の手続きがいる」
「はぁ!?」
レッドたちにすれば当たり前なことであったが、タカヒロたちにとっては全く違ったようである。
こんなところから考えが違うのかと額に手を当てるレッド。
「いや、普通に考えて自由に相手の国とかうろつかれてたまるか、って話なんだが」
「いやいや、冒険者って国のものじゃなくて民間企業で全世界に支店とかあるものでしょ。それで戦争とかあってもモンスターと戦うことが主で、人と戦うと戦争の被害を大きくしすぎるから参加しないものじゃないの!?」
「なにそれ……」
いったいどんな世界の話なんだと頭を悩ませるレッドとリベルテ。
国ではなく民間というがその運営のお金はどこから出ているというのか。
それに全世界に支店があるというのでは、各国の内情が全ての国に筒抜けになるということ。今でさえ他国の情報を如何に仕入れるか情報戦を繰り広げているだろう国々に、そんな危険な組織が認められるわけが無い。
モンスターと戦うから強いと言われても、兵士だって訓練はしているし、モンスターとも戦う。人同士で戦えば、人と戦うことのある兵士の方が分があるようにしか思えない。
それら思ったことをざっくりと伝えると、タカヒロはがっくりとうなだれていた。
「なんだよそれ……。全然違うじゃん……」
はやくも世界の違いを感じるレッドとリベルテ。
こうも違うことがあれば、ぶつかりもすれば、変えようと動こうとするだろう。
いまのところは、レッドたちの説明にブツブツ言ってはいるが大人しそうであるマイとタカヒロに胸を撫で下ろす二人であるが、いつどこでどんな行動に出るかなど他の者にはわからない。
どうなるかわからないが、彼らとは幾度と無く話をしていかなくてはいけないだろう事だけはたしかである。
少しでもこの世界について教え、わかってもらい、その上で生きて欲しい。
世界は変化を求めるとしても、人は急激な、大きな変化は望まないものなのだから。
そしてそういった変化は決して簡単ではなく、そして人の争いに向かってしまうものだから。
今日はそのまま酒席に突入し、これから先、お酒を飲む機会と量が増えるだろうことにリベルテはひっそりと頭を悩ませるのだった。
王都までは三日の道のりであれば、最低二日は野営となる。
初日は少し楽しそうにしていたマイとタカヒロの二人であったが、二日目になるとあきらかに辛そうにしている。
メレーナ村に来るまでどうだったのかと思わないでもないが、野営するような暮らしはなかったのだろうことが見て取れた。
王都に着くと村とは違い城壁があり、人が多いことから呆けている様は、いかにも村から来ましたという雰囲気でホッとするのだが、連れて来た以上、それなりに見ていないといけないことに早くも気が重いレッドであった。
「今回もありがとうございました。また依頼するときはお願いしますよ、レッドさん」
「ラングさんは金払いもいいからな。こちらもアテにさせてもらいますよ」
城門を抜けた後、レッドたちは自身の荷物を馬車から降ろす。ラングはこのまま自分の商会に戻り、レッドたちはギルドに報酬をもらいに行くためだ。
「冒険者ギルドに行くとからまれるのかな。テンプレだし」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ。でも、レッドさんたちが居るから大丈夫じゃない?」
あちらの二人がこそこそと何かを話ししているのが、王都にどのような判断をしているのか少し怖い二人。
「大丈夫ですかね?」
「いや、どの道、王都には来ただろうから。後は何事も無く過ごしてもらえればいいんだがな……。知ってるから気をつけられるというのはあるが、こう心労を感じると知らなきゃ良かったと思うわ……」
「私達が面倒を見る理由もないですし、そんな余裕もないですからねぇ」
楽しそうな雰囲気の二人と憂鬱そうな二人の組み合わせに、住民達の目を集めていたことに当人達は気づかなかった。
「あら? レッドさんたち、おかえりなさい。完了報告お願いしますね」
エレーナさんがエントランスにちょうど良く居たらしい。
マイたちはこれから冒険者登録を行い、自分たちで稼いで生活していくのだ。
先達として教えられることはあるだろうが、まずは職員が教えることの方が先だろう。
要は早く投げ出して、落ち着きたいのである。
「エレーナさん、ちょうど良かった!」
レッドがエレーナの手を取る。
普段見受けることの無いレッドの積極的な接触にエレーナは顔が赤くなるのがわかる。
どうしようかと思い、リベルテに目を向けるが、リベルテもいつも雰囲気が違う。
「エレーナさん。こちらの二人、冒険者希望なんだそうです。手続きと、あと冒険者がどういった仕事をするかとか詳しく知らないみたいなので、教えてあげてください」
リベルテもエレーナのもう一方の手を取り、若干の早口でお願いしてくる。
「わ、わかりました」
あまりの押しにエレーナが了承の意を示すと、よっしとばかりにレッドは後ろの二人に伝えに行き、リベルテは依頼完了の報告に去っていく。
「なんなんですか……」
エレーナがふぅと息を吐いて落ち着きを取り戻そうとしていると、遠慮がちに声がかけられる。
「あのぅ、すみません。レッドさんたちから聞いたと思うのですが、私達冒険者になろうと思ってます。よろしくお願いします」
レッドたちの勢いに、何かしら問題がある人かと思えば、腰が低い挨拶に幾分かの戸惑いを覚えながら、顔に出さない辺り、エレーナはできる人だった。
「よし、これでしばらくは大丈夫だろう」
「贅沢はできないでしょうが、当面の生活費は村からの持ち出しでなんとかなるようでしたからね」
「んじゃ、戻ってゆっくりしようぜ。もう疲れてるから、酒飲んで寝たいわ」
二人は足早に宿に戻り、早速と酒場に足を運び、エールやワインなどを飲んで就寝する。
ここまで気を緩めなければいけないほど疲れたのは久々だったのだ。
だが、一度結んだ縁というのはなかなか切れるものではない。
ましてやその縁がつい最近結んだばかりとなれば、なおさらである。
「レッドさん、冒険者って地味すぎませんか?」
いつも通っている酒場で、マイたちに捕まったのである。
そして、絶賛愚痴中である。
冒険者にどんな印象を持っていたのかと思うところであるが、モンスター討伐など早々あるものでないし、人手が足りないものやあまり人がしない雑用が主なものなのだ。
職にあぶれた者たちの受け皿的なものにそうそう華などないものである。
「なんかもっとこう、モンスターを倒して回って、その素材を売ったりして儲けられる仕事じゃないんですか……」
「おまえ、それどんだけ夢みてんだよ……」
「だって、これじゃあ何を持って『冒険者』なんて言うんですか。どこも冒険してないじゃないですか」
「そっちもか……」
男であれば冒険譚や英雄譚などを読んで、そういう思いを馳せるというのはわかるものではあるが、働き始めればこんなものかと落ち着くものである。
男だけでなく女性でもそのようなことを考える人も少なくは無いが、男よりはいくらか現実的で、死ぬかもしれないことを考えれば、そんな夢見る冒険者になろうとはしない。
「冒険をしてないのにということですけど、私達のこの陸地も海もわかっていないことが多いんですよ。各貴族たちが領地を与えられて発展させて、村とかできたりしてますけど、まだまだわからない土地も多いんです。その先にどんな土地があるのか、モンスターが居るのかね。そういう土地に調査に最初に行くとすればそういった依頼を受ける冒険者になります。
それから、そういう土地の調査だけでなくても、モンスターの討伐の依頼があったとして、どれだけいるのかとか、どこをねぐらにしているのかなんて自分たちで調べることになります。採取の依頼だったとしても、どこにあるとか確定した情報がなければ探して回らないといけません。
ほら、こうなれば『冒険』ですよね」
リベルテの説明にそれはそうかもしれないけど、とまだ不満は消えないタカヒロ。
「ラノベならモンスターがあっちこっちにいて、皆がそう簡単に倒せないやつを倒して回って一気にお金持ちになって名声も、ってなるんだけどなぁ……」
「そんな怖い世界嫌だぞ。モンスターで溢れてるとか、人が生活していけないじゃないか」
タカヒロのあまりにも怖ろしい願望に、顔をしかめて嫌そうに返すレッド。
「え~、でも倒せばいいだけじゃないですか」
「戦える人がどれだけいて、戦えない人がどんだけいるんだよ。そんなにモンスターに溢れられてたら、土地も広げられんだろ。村とかじゃ滅ぼされかねない。だいたい、そんな世界なら冒険者なんかなくて、みんな兵士とかになってるだろ」
モンスターと戦わなくてはいけないことが多いのであれば、職にあぶれた者達は皆兵士とすればいいのである。冒険者なんて受け皿は必要ないのだ。
「でも、世界のあっちこっちいくなら国に縛られない冒険者しかいないじゃないですか」
「ん? 冒険者であっても他の国とか領内に入ることはできないぞ。国の手続きがいる」
「はぁ!?」
レッドたちにすれば当たり前なことであったが、タカヒロたちにとっては全く違ったようである。
こんなところから考えが違うのかと額に手を当てるレッド。
「いや、普通に考えて自由に相手の国とかうろつかれてたまるか、って話なんだが」
「いやいや、冒険者って国のものじゃなくて民間企業で全世界に支店とかあるものでしょ。それで戦争とかあってもモンスターと戦うことが主で、人と戦うと戦争の被害を大きくしすぎるから参加しないものじゃないの!?」
「なにそれ……」
いったいどんな世界の話なんだと頭を悩ませるレッドとリベルテ。
国ではなく民間というがその運営のお金はどこから出ているというのか。
それに全世界に支店があるというのでは、各国の内情が全ての国に筒抜けになるということ。今でさえ他国の情報を如何に仕入れるか情報戦を繰り広げているだろう国々に、そんな危険な組織が認められるわけが無い。
モンスターと戦うから強いと言われても、兵士だって訓練はしているし、モンスターとも戦う。人同士で戦えば、人と戦うことのある兵士の方が分があるようにしか思えない。
それら思ったことをざっくりと伝えると、タカヒロはがっくりとうなだれていた。
「なんだよそれ……。全然違うじゃん……」
はやくも世界の違いを感じるレッドとリベルテ。
こうも違うことがあれば、ぶつかりもすれば、変えようと動こうとするだろう。
いまのところは、レッドたちの説明にブツブツ言ってはいるが大人しそうであるマイとタカヒロに胸を撫で下ろす二人であるが、いつどこでどんな行動に出るかなど他の者にはわからない。
どうなるかわからないが、彼らとは幾度と無く話をしていかなくてはいけないだろう事だけはたしかである。
少しでもこの世界について教え、わかってもらい、その上で生きて欲しい。
世界は変化を求めるとしても、人は急激な、大きな変化は望まないものなのだから。
そしてそういった変化は決して簡単ではなく、そして人の争いに向かってしまうものだから。
今日はそのまま酒席に突入し、これから先、お酒を飲む機会と量が増えるだろうことにリベルテはひっそりと頭を悩ませるのだった。
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