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愛するのにも一苦労 第1話
scene1 向日葵探偵事務所での日常
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かき氷が食べたい。アイスクリームでもいい。スイカでもいい。キンキンに冷えたジュースでも構わない。とにかく冷たいものを体が欲している。
時刻は正午過ぎ。僕は午前中にペット探しの仕事を終えて、ただいま帰宅した。猫一匹を探すのに三時間も町中を歩き回っていた。汗が身体中から吹き出している。
外は内臓が溶けてしまうのではないかという不安が生まれるほど暑かった。熱中症にならなかったのは幸いである。
ここは向日葵探偵事務所――――桜が丘という町にある小さな探偵事務所である。所員は二人、所長にして探偵の僕こと九条創真と探偵見習いの逢坂はるねちゃんである。彼女はちょうど一か月前に起こった『マーメイド・ユートピア失踪事件』で出会った少女で、女子高生にして巨大財閥逢坂財閥総裁の娘。狭い事務所に舞い込む依頼は、ペット探し、人探し、身辺調査、事件解決など、危険をはらむものもある。日々、それらの依頼をこなして生きているのである
「創真、おかえり! 今、アイス作っているから待っていなさい」
台所の方から声が聞こえた。はるねちゃんだ。彼女はスイーツ作りが趣味らしく、ここに来てからというもの、暇なときはお菓子を作っている。今日はアイスだ。今月に入って、五回目のアイス。
「あ、そうだ。創真はアレルギーとかない?」
「ないよ。でも、アボカドは入れないでおくれよ。あれだけは大嫌いなんだ」
「アイスにアボカドって、どんなセンス? そんなもの入れないわよ」
アイスを作りながら言った。随分と楽しそうだ。
アイスはすぐに完成した。清涼感のある透明なグラスに盛り付けて、テーブルの上に運ばれた。待ちに待った納涼タイムである。
挨拶さえ忘れて、アイスを口に含んだ。ひんやりしていて美味しい。いい冷たさである。さっきまでの暑さが少し和らいできた。
「ちょっと、感想くらい言いなさいよ」
「うん、美味い」
「えー、それだけ? 他には?」
「冷たい」
「そりゃそうよ」
なんだか恋人の会話のようだ。が、僕たちの間に恋愛感情はない。あくまでも探偵と助手という関係である。
「ねえねえ、テレビ見て。隣の町で同性婚が合法化されたらしいわよ」
はるねがテレビを見ながら言った。
この時間はお昼のワイドショーの時間だ。画面の中には老若男女いろいろなコメンテーターの顔が映り、司会の人が分かりやすくニュースを解説している。はるねがこういう番組が好きなようで、この時間はいつもワイドショーを観ている。
『私はいいと思いますね、同性婚。好きな人が同性か異性かなんてどうでもええやん。大切なのは幸せに暮らしていけるかどうか、幸せになれるっちゅうなら、ありだと思います』
関西弁のお姉さんが言う。それに反論するのは老け顔の表情の硬い男の人だ。
『結婚を恋愛の延長線だと考えておられるんですか。それは違います。結婚は公的に認められた夫婦関係のことであり……』
『そんなんどうでもええちゃいますの? その間に愛があれば、なんでもいいと思いますがね』
お姉さんと男の人の討論が激しさを増している。
「あたしは賛成。反対する理由がないもの。別にいいじゃな、同性婚」
アイスを食べながら、勝手に討論に参加するはるねちゃん。夏休みになってから、昼間にはるねちゃんがいることが多くなって、こういう風景がよく見られるようになった。
さて、これを食べたら依頼報告書を作らなければ。面倒だから早く終わらせたい。しかし、仕事の前にデザートタイムは打ち切られることになった。
依頼人が事務所の扉を叩いたのだ。なんとなく、嫌な予感がする。
時刻は正午過ぎ。僕は午前中にペット探しの仕事を終えて、ただいま帰宅した。猫一匹を探すのに三時間も町中を歩き回っていた。汗が身体中から吹き出している。
外は内臓が溶けてしまうのではないかという不安が生まれるほど暑かった。熱中症にならなかったのは幸いである。
ここは向日葵探偵事務所――――桜が丘という町にある小さな探偵事務所である。所員は二人、所長にして探偵の僕こと九条創真と探偵見習いの逢坂はるねちゃんである。彼女はちょうど一か月前に起こった『マーメイド・ユートピア失踪事件』で出会った少女で、女子高生にして巨大財閥逢坂財閥総裁の娘。狭い事務所に舞い込む依頼は、ペット探し、人探し、身辺調査、事件解決など、危険をはらむものもある。日々、それらの依頼をこなして生きているのである
「創真、おかえり! 今、アイス作っているから待っていなさい」
台所の方から声が聞こえた。はるねちゃんだ。彼女はスイーツ作りが趣味らしく、ここに来てからというもの、暇なときはお菓子を作っている。今日はアイスだ。今月に入って、五回目のアイス。
「あ、そうだ。創真はアレルギーとかない?」
「ないよ。でも、アボカドは入れないでおくれよ。あれだけは大嫌いなんだ」
「アイスにアボカドって、どんなセンス? そんなもの入れないわよ」
アイスを作りながら言った。随分と楽しそうだ。
アイスはすぐに完成した。清涼感のある透明なグラスに盛り付けて、テーブルの上に運ばれた。待ちに待った納涼タイムである。
挨拶さえ忘れて、アイスを口に含んだ。ひんやりしていて美味しい。いい冷たさである。さっきまでの暑さが少し和らいできた。
「ちょっと、感想くらい言いなさいよ」
「うん、美味い」
「えー、それだけ? 他には?」
「冷たい」
「そりゃそうよ」
なんだか恋人の会話のようだ。が、僕たちの間に恋愛感情はない。あくまでも探偵と助手という関係である。
「ねえねえ、テレビ見て。隣の町で同性婚が合法化されたらしいわよ」
はるねがテレビを見ながら言った。
この時間はお昼のワイドショーの時間だ。画面の中には老若男女いろいろなコメンテーターの顔が映り、司会の人が分かりやすくニュースを解説している。はるねがこういう番組が好きなようで、この時間はいつもワイドショーを観ている。
『私はいいと思いますね、同性婚。好きな人が同性か異性かなんてどうでもええやん。大切なのは幸せに暮らしていけるかどうか、幸せになれるっちゅうなら、ありだと思います』
関西弁のお姉さんが言う。それに反論するのは老け顔の表情の硬い男の人だ。
『結婚を恋愛の延長線だと考えておられるんですか。それは違います。結婚は公的に認められた夫婦関係のことであり……』
『そんなんどうでもええちゃいますの? その間に愛があれば、なんでもいいと思いますがね』
お姉さんと男の人の討論が激しさを増している。
「あたしは賛成。反対する理由がないもの。別にいいじゃな、同性婚」
アイスを食べながら、勝手に討論に参加するはるねちゃん。夏休みになってから、昼間にはるねちゃんがいることが多くなって、こういう風景がよく見られるようになった。
さて、これを食べたら依頼報告書を作らなければ。面倒だから早く終わらせたい。しかし、仕事の前にデザートタイムは打ち切られることになった。
依頼人が事務所の扉を叩いたのだ。なんとなく、嫌な予感がする。
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