SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜

ユララ

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如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす

怖いね

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第三十九話
 
 
「なんだこのふざけたバンド名」
 
 私達は緊張でガチガチになった双葉を連れてステージからはけていくと、そのステージ裏に居た店長の泉さんに声をかけられた。
 
「どうも」
「今日はよろしくお願いします!」
「よろ、よろろっ——!」
「速水、吐くなよ。私の店を汚さないでくれ頼むから。ヤバければトイレに行け」

 緊張の限界に達してしまいそうな双葉に肩を貸した芽衣が、近くの椅子で双葉を休ませる。
 
「大丈夫かアレ」
「本番はなんとかします」
「まあ、大丈夫ならいいが」
「それとふざけてないですよ」
「あん?」
「バンド名。ちゃんと考えてあります」
「あぁ……まだ使えないのか」
「はい」
 
 楽しげに「青春だなぁ」と呟く泉さんは、踵を返してどこかへ行こうとしたところで、思い出したように双葉に目を向けた。
 
「そうだ、その子、速水」
「双葉がなにか?」
「相当デキるんだろ?」
「まあ」
 
 なぜ双葉の腕前のことを知っているのは置いといて、私は曖昧に返答する。
 
「お前のとこはまあ、仲間意識が強いみたいだし大丈夫だろうけど、取られないようにしっかり捕まえとくんだな」
「取られないように?」
「招いてもいない厄介者が来てるんだよ」
「厄介者、ですか」
「良いの見つけてもちょっかいかけないように、こっちも気をつけとくから」
「はあ」
「じゃ、頑張れよ新人」
 
 後ろでを振って去って行った泉さん。
 私は首を傾げながら二人の元へ戻ると、案の定、双葉が今にも吐き出しそうな泣き顔で地面を見つめていた。
 
「もうだめ…………しぬ」
「大丈夫です、双葉さんならやれます!」
「……根拠は?」
「え?」
「その根拠を出してくれないと、自信が湧かないの」

 めんどくさっ。
 
 と、喉まででかかった言葉を私は咄嗟に堰き止めたのだが、もう一人の口はそうもいかなかった。
 
「めんどくさいですよ双葉さん」
「酷い⁉︎」
「あ、つい本音が……」
 
 言わなくてもいい本音をさらりと言ってしまう芽衣の癖。
 でもそれは決して悪いものではない。
 彼女の本質を理解しているのなら、その一言に傷つくことなんてないのだから。
 
「根拠なんてないんです。ただ、双葉さんは*凄い*ので。とっても*かっこいい*ので、根拠なんてなく、ただ大丈夫だって思うんです!」
「芽衣ちゃん……」
 
 双葉はチョロい。
 褒めて煽てれば、精神的な問題なら大体のことは解決できる。
 芽衣もそれをよく覚えていたようで、上手く双葉を持ち上げている。
 けどその言葉はやはり、芽衣の優しく、人をよく見ている性分が成すことだ。
 きっと芽衣がいてくれれば、このバンドが壊れてしまうことはないだろう。最年少ながら頼りになる。
 
「さて、そろそろ戻ろ」
「うぅ、でも本当に平気かなぁ、大丈夫かなぁ!」

 控室にもどる道すがら、双葉がまだそんなことを言う。
 それに反応した芽衣が、小さな声で私に話しかけて来た。
 
「瑠璃さんからもなにか言ってあげてください。きっと私よりも、瑠璃さんの言葉の方が双葉さんには——」
「ああ、大丈夫大丈夫」
「大丈夫って……」
「ステージに上げちゃえば、後は私がどうにかするから。あと、芽衣の言葉は私の言葉に負けてない。自身持ちなよ」
「は、はい」
 
 私はそれだけ言って二人の前を歩く。
 さて、いよいよだ。
 私はこれからやるライブの緊張感を維持したまま、頭ではずっと、渚のことを思う。
 渚に自分なりの考えと思いがあるのは分かっている。
 でも私はその全てを受け入れた上で、私の願いを果たす。
 渚が私達と一緒に歩まないと言うのなら、私は、一緒に歩もうと無理やり手を取る。
 自分勝手なこの思いに賛同してくれた二人と一緒に、私はこのエゴを通そうと思う。

 ——みんなとバンドは組めないんだ。
 
 そう言った彼女の表情が。
 彼女の纏う悲しさの色が。
 私には嘘だと思えないから。
 
「頑張ろう、二人とも」
 
 貴女が苦しんでいるのなら。
 暗い場所で一人悲しんでいるのなら。
 
「……うん!」
「やりましょう!」
 
 私達が、一緒にいるよ。
 
 
 
 
 
 
 
 前のバンドの演奏が始まった光景を控え室のモニターで見ていた私は、ポケットに入れていたスマホが震えたので、画面を確認する。
 
『来たよ』
 
 その言葉に口角が上がる。
 私は緊張した面持ちの双葉にスマホの画面を見せて、芽衣にも同じように見せる。
 すると二人は顔を見合わせて、私と同じように微笑んだ。
 
「次の女子高生バンド(仮)プラス女子中学生一名さん、準備お願いしまーす」
 
 スタッフさんに声をかけられ、私達はステージ袖へ。
 そこから少し顔を出して、ギリギリ客席が見えるところで、観客を確認すると……居た。
 後ろの方でステージを見ている渚が。
 
「居た?」
「うん」
「よかったです」

 これで準備は整った。
 あとは……ぶちかますだけだ。
 
「ああああっ、ヤバいよっ、緊張がピークに!」
「落ち着いて、絶対大丈夫」
「そうです、大丈夫です!」
「なにも大丈夫じゃないんだよおおおおっ!」

 双葉が騒ぐが、もう逃げ場なんてない。
 あとはここでやることをやるだけなんだから、もう騒いだところで無駄。
 
「緊張は寸前で解いてあげるから、しっかり機材チェックして」
「うぅ、瑠璃の鬼……!」
「二人ともセトリオッケーですか?」
「二曲しかないし、流石に忘れない」
「私も大丈夫。色々大丈夫じゃないけど」
 
 手足をこれでもかと震わせながら言う双葉から、ステージに視線を戻す。
 前方で聴こえていた演奏がやみ、静寂に近い反応が観客席から聞こえる。
 
「怖いね」
 
 私は無意識にそう声に出していた。
 
「……だね」
「そう、ですね」
「でも、それでもいい」
「え?」
「どういうことでしょう……?」
 
 二人の疑問にステージを見たまま答える。
 
「今日の私達の演奏は観客全員に向けたものじゃない。たった一人の友達の手を掴むためのライブ。だからこれからやるのは——たった一人の為のもの」

 その言葉を聞いた二人はハッとして、小さく笑った。
 
「……そうだったね。私のギターで、渚を魅了してやらないと!」
「四人で音楽したいです。また、渚さんとやりたいです!」
「うん——やろう」
 
 私達の音楽で手に入れよう。
 私と双葉と芽衣と……渚で。
 きっと、その方が楽しいから。
 
 ギラギラとした眩しいくらいの、極彩色のステージへ、私達は脚を踏み出した。 
 
 
 
 
 
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青春ガールズバンドストーリー!
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