SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜

ユララ

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如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす

天才ね

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第三十二話
 
 
「——違う、もっとぎゅぃーんって! 音出てないよ瑠璃!」
「うん」
「双葉さん、ちょっと走り気味ですっ」
「分かった!」
 
 音を合わせる中で、各々の気づいたことを伝える。
 スピーカーから発せられる音に負けないくらいの声量で、叫ぶように言い合うが、しっかり防音性能がある部屋なので問題はない。流石に少しは音漏れもあるだろうが、ご近所迷惑は気にしなくていいくらいのレベルなので大丈夫。
 三人で会議をし、ライブをすると決めてから一週間。
 私達はこうして放課後になると、夜まで音を合わせ、本格的な練習に励んでいた。
 
「ふぅ。双葉の緊張はもう全くないね」
「うん! 二人とならもう緊張しないで済むよ。って言っても、合わせるのは難しくて、それはそれで、まだまだ技術が足りないんだけどね……」
「それは私達も同じ」
「うん、頑張る」
「芽衣は音をもっと前に出していい。自信が足りない感じがするから、もっと気にせず前に出るくらいの気持ちでいいよ」
「了解です、瑠璃さん」
「うん。リズムキープは一番優れているから頼りにしてる」
「分かりました!」
 
 この一週間で芽衣との関係もより親密になった気がする。もう私達は運命共同体のような、確かな絆を持つまでになったと言っていい。それくらいの仲間意識が芽生えていた。
 それはきっと私だけではなく、二人も感じてくれていることだろう。二人の浮かべる色が、私と同じ『信頼』の感情を現してくれているのだから。
 頼もしくて、嬉しい限りだ。

「私はもっと全体的な実力を向上させつつ、二人の邪魔をしないように、最低限の演奏ができるようにしないと」 
「瑠璃は私達より耳がいいから、頼りになるよ。なるんだけどさ」
 
 私の自己評価に対し、双葉がそう言って芽衣と視線を交わす。
 
「……はい、そうですね」
「だよね……」
「なに?」
 
 私はその反応が気になり二人に詰め寄る。 二人はなにやら呆れたような、けれど、どこか感心したような顔で私に言った。 
 
「いや、なんか、当たり前みたいな顔してるけどさ。指摘することが的確すぎて、とても素人には思えないんだよね」
「それにギターを始めて、どれくらいって言ってましたっけ」
「えーっと……まだ一ヶ月経ってない?」
「いやいやいやっ、とてもそんなレベルじゃないですよ⁉︎ 半年くらい熱心に練習した人くらいのレベルじゃないですか!」
「そうなの?」
「そうだよ! 私だって始めてから一年暮らい頑張ってそれくらい弾けるようになったのに! 私のレッスン以外でも隠れて練習してたんじゃないの⁉︎」
「まあ……動画とかで」
「ど、独学……私、自信無くしちゃうなぁ」
「双葉さん、大丈夫です。双葉さんはすごいギタリストです! 負けてないですよ!」
「うん……ありがとう。でも天才がこんな身近にいるとね、ちょっとメンタルがね……病む」
「双葉さん!」
 
 ガックリと、やる気を失った様子の双葉を頑張って励ます瑠璃から視線を外す。
 誤魔化すように、じゃらんっと構えたままのギターを適当に鳴らし、私は考える。
 
「天才ね……」
 
 父のギター動画を見て、練習をしていて思ったことがある。確かに私は父譲りの器用さと、耳の良さがあるのだろう。
 でも、天才というのはどんな人なんだろうかと考えてみれば、それはきっと『適正を持ちながら、最高効率で最大限の努力をし続けた人』のことだと私は思う。それに今の私は当てはまってない。きっと父のような本物になるには、私には努力が足りていないんだ。
 費やして来た時間が足りていないとも言える。まだまだその領域に達するには、ソレが圧倒的に足りていないのだ。
 だが逆に言えば、有り余る時間の全てをギターに注ぎ込めば、私は父に追いつける……はずだ。あの領域にまで私を高めるために、父はあの動画を作って残していたのだから。
 飲み込みがいい私を天才と言うのかは置いておいて、そんな天才とはまた違う、もう一つの天才を私は知っている。
 
「うぅ、私だって凄いんだよぉ~」
「はいっ、双葉さんは凄いです!」
「ありがとうよ~芽衣ちゃーん!」

 ……あのふざけている天才の、感情を揺さぶる演奏は、真似をしようとしてもできるモノじゃない。そう、私は思う。
 だから私は双葉の演奏に惚れさせられたのだ。
 
「ほら、次、合わせるよ天才」
「……天才? 私って天才?」
「うん。天才の音を聴かせてよ」
「——フッ、私の音を聞きたいのなら、聴かせてしんぜよう!」
「チョロい」
「チョロいですね……」
 
 猿もおだてれば木にのぼる。
 私は煽てて木に登らせた双葉が、木から落ちないように、常に調子の良いことを言い続け、最高の演奏を引き出す。
 なんともチョロい天才だが、その実力はやはり私と芽衣より遥かに高みにあって……私と芽衣は本気で喰らいついていく。
 
 
 そうして私達が音を合わせ続けて、さらに一週間後。
 
 
「ここか」
「テンション上がって来ました!」
「ヒィッ、き、緊張するよぉ」
「今日はただ話しをするだけ」
「それでも緊張するよ、ライブハウスだよ⁉︎」
「双葉が泣き喚いて取り乱したら芽衣、お願い」
「任せてください!」
「そんな子供みたいに⁉︎」
 
 形になったバンドとしての実力を人前で披露する、人生最大の舞台と言っても過言ではない場所。ライブハウスへ訪れたのだった。
 

  
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青春ガールズバンドストーリー!
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