SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜

ユララ

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如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす

楽しいですね

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第二十五話
 
 
 激しい重低音。
 地を這い向かって来る蛇のように、あるいは、迫り来る津波のような音の重圧。
 腹の奥底に感じる心地の良い振動が、私の心に浸透していく。
 
「——スゥ」
 
 息を大きく吸い込んでサビへと入る芽衣の演奏。決して上手いという訳ではない。双葉のような聞く者の感情を揺らすようなものでもない。
 けど私は、この音に魅力を感じていた。素人ではないが、時別上手い訳じゃない、良くも悪くも普通と言えるこの演奏に、私は確かに魅力を感じたのだ。
 なぜかは分からない。
 私の拙い音楽経験や、知識では説明出来ないが、彼女のベース音に私は惹かれている。
 
「————っ」
 
 ミスはありつつも、芽衣は最後まで振り絞るように全力で最後まで弾き——手を止めて息を吐く。
 
「……ど、どうでした?」
 
 不安そうにそう訊いてくる芽衣。
 私の答えは当然、
 
「良かった」
 
 と、決まっている。
 中学二年生でこれだけの演奏が出来るのだからなにも文句はない。
 偉そうなことを考えているが、ギターに置き換えて考えてみても、私なんて足元にも及ばない技術レベルだ。本当、偉そうなことは言えたもんじゃないな。
 かなりの練習を熟して来たであろうことは想像に難くない。
 
「私思わずギターで合わせたくなっちゃったよ! めっちゃ良かった!」
「あ、ありがとうございます!」
「いやぁ、これから楽しみだね~。早く何か一曲できるようにしたいね!」

 確かに。
 三人になったのなら一曲、インストでもいいからできるようにしてみたい。
 まあ、できることならボーカルがいた方がいいんだけど、今の演奏を見た限りじゃ芽衣にお願いするのはま技術的に早そうだ。
 もちろん私は論外だし、双葉は歌まで出来るほど緊張に慣れていない。
 しばらくはボーカルはなしでやるしかないだろう。
 
「この中で一番へっぽこなのは私だから、これからより一層精進いたす」
「うむ、励みたまえ」

 私の言葉にそう返してくるが、双葉は双葉でやるべきことがあるのを忘れてないだろうか。
 
「双葉は特訓」
「……今日は良くない?」
「ダメ」
「特訓とは?」
 
 芽衣にはまだちゃんと説明していなかったので双葉の抱えている問題と目標、現状のことを説明する。
 あと、隠していても仕方ないので、例の双葉のビフォーアフター動画も見てもらっておく。
 
「で、これが双葉の本当の実力」
「え……う、うま過ぎます! こんなすごい演奏を⁉︎」
「て、照れるなぁ~。ま、まあ、本気はもっと——」
「で、これが悲惨な状態」
「……べ、別人です」
「そっちは見せなくていいから!」
 
 スマホに保存しておいた双葉の演奏動画を見せ、全て把握して貰った。
 
「なるほどです。つまり、速水さんに本来の実力を出してもらえるようにわたしたちで支えて、緊張に慣らしていくということですね」
「そう。今日もこの後、人通りのある野外で双葉には演奏して貰う。とりあえず今日から駅前だから、移動しよう」
「ちょちょちょっと⁉︎ え、駅前って聞いてないよ⁉︎」
「言ってなかったから聞いてなくて当然でしょ」
「いやあああっ! まだ早いよ私には! まだ無理、絶対にムリー!」
「……双葉」
「無理無理ムリムリむりむりむり————‼︎」

 そこまで拒否されるなんて……もちろん想定済みだ。そしてこんな時の為の対抗策も当然、すでに講じてある。
 私は店の奥の方に向けて、大きめの声を張り上げる、
 
「——一葉さん、お願いします!」
「おう」
 
 召喚獣を召喚し、何者をも黙らせる一撃を放って貰った。
 
「つべこべ言わず行ってこい。本気でやるんだろうが」
「こめかみが弾け飛ぶようにいたいいい⁉︎」

 渚も喰らったコメカミドリル。
 しかし実の妹だからか、その威力は制限なしの本来の威力を持っていた。可愛い双葉の顔が、決して見せてはいけないほどしわくちゃになって歪んでいる。女の子がしていい顔じゃない。お笑い芸人のおじさんくらいだ、あんな顔をして他人に笑ってもらえるのは。
 私と芽衣は双葉の顔を見て失笑する。
 本当、笑えない。
 こんなブサイクな面を晒すなら全裸になったほうがマシかもしれない。
 ……本人にはなにも言わないでおいてあげよう。
 
「はぁ——はぁ——!」
「ほら、行ってこい」
「で、でも」
「まだ喰らうか?」
「いってきますお姉様!」
 
 そして素早い動きでギターを背に外に飛び出していった双葉を私と芽衣は追いかける。
 店を出る時に一葉さんにサムズアップしてお礼の意を伝えると、向こうも親指を立てて応えてくれた。
 先に行った双葉の背を追いかけて、私達は足早に駅への道のりを行く。
 
「なんか、楽しいですね」
「楽しい?」
「賑やかで、なんか、思わず笑顔になります」

 そう言った芽衣の顔は言葉通り笑顔で、本当に私たちと居ることが楽しいようだった。
 そう思って貰えたなら私も嬉しい限りだ。
 
「でも……」
 
 残念そうな顔をする彼女は独り言のように小さな声で芽衣は呟く。
 
「——渚リーダーも、一緒にバンドできたらいいのに」
 
 私は確かにそんな呟きを聴いたのだった。
 

 
 
 
 
 

 
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青春ガールズバンドストーリー!
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