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始まりの戦い

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 とある国に、女神の生まれ変わりなのではないかとうたわれた誰もが見惚れる美人がいた。花屋の照葉てるはという女である。
国中の人々の羨望の対象、女たちの憧れの的、男たちからは高嶺の花ともてはやされている女だ。

 歩く姿や動作の一つ一つでさえ、美しい花に例えられている彼女ではあったが。
歴戦の戦士がかかげる武器のようにホウキを持って、男と戦っているなんて誰が思うだろうか?
思いきりホウキを振りかぶるその姿は、家庭で見たくない混沌の塊である黒いアレに遭遇そうぐうし瞬時に殺しにかかる姿に非常によく似ていた。


「さっさとお帰りくださいな」


 蜜のように甘い声でそう言うものの、手を休めずするどい一撃を相手に繰り出す。
しかし相手は曲がりなりにも弱者ではないので、簡単に避けられてしまった。
しかし照葉もだてに三ヶ月近くもホウキを振り回してはいない。
攻撃をけるだけの男に必死にくらいつく。
その様子にさしもの手練てだれの男にも、多少の焦りが見えはじめた。


「俺は客だぞ!?なんだその殺す勢いの攻撃は!!」
「あらやだ、女の細腕ほそうでが繰り出す攻撃なんて子猫がじゃれついているようなものでしょう?」
「子猫は子猫でも子ライオンや子虎などの猛獣の類いだ!噛まれたり引っ掻かれただけで重傷になってもおかしくない・・・!!」
「こんなにか弱い女を捕まえて猛獣だなんて、よほどお疲れなのね」
「自分でか弱いと言うなら、もう少し一般人らしく振る舞わないか・・・?」
「真剣を振り回してないだけ充分に一般人らしいでしょうっ、に!」


 それこそつい最近までは、照葉の攻撃を男は笑いながら簡単に避けたものだった。
しかし今となっては、照葉からの攻撃をかわすことは出来ても武器であるホウキを奪うどころか拘束すらままならない。
すなわち、攻撃の速度や威力が地味に上がっているのだ。

 照葉の攻撃対象の男、大和が手を伸ばしたところでそうはさせまいと後ろに大きく下がり体勢を立て直しまた構えた。
深く深呼吸したところで、ふと照葉は冷静になって考える。


 自分はなぜ、目の前にいる男と戦っているのか。


 そもそもなぜ戦うことになったのか。
原因である男を睨みつければ、肩をすくめてみせるので。
それが余計に照葉のかんにさわった。


「・・・まるで何十年も戦い抜いた、女武者と対峙している気分だよ」
「私は一介の花屋、戦ったこともましてやそれに巻き込まれたこともないただの小娘です。それを女武者とは・・・褒めすぎです、うふふ」
「女武者をバカにする気は毛頭ないことを念頭に置いて、褒め言葉を言ったつもりじゃないことぐらいわかるな?」


 照葉にとっては褒め言葉を言われ、テンションが上がったのをキッカケに再び構えに力を注ぐ。
それがわかったのか、大和も新たに構え照葉からの攻撃に備えた。


「もういい加減、今日こそ二人きりで一緒に出かける約束をーーーー」
「帰れ!!!!」


 一瞬で距離をつめ、脳天に大きな一撃を加えようとしたが。
やはり力及ばず、またも避けられてしまった。
この攻撃で照葉の集中力は切れてしまったので、もはや大和をどうこうする気力は残っていない。

 しかし、照葉は気づいた。
普段ならこの程度のことで息一つ乱さない男が、今日は汗を多少なりともかいている。
追いつめている、確実に!
その事実に機嫌を良くし、負けたというのに照葉は笑顔でホウキを片付けた。


「どうしてそんな頑なに俺をこばむんだ」
「自分自身に問うてみたらいかが?」
「断られる理由がどこにも見当たらない」


 そう大和が言った瞬間、照葉からの殺気と睨みの凄みが一気に増した。
理由はわからないが地雷を踏んだことに気づいた大和は大人しく口を閉じる。
そして自分から顔を背けた愛しい女の横顔を見て。
約束は取り付けることが出来なくとも、とりあえずは声を聞けて顔が見られただけで満足出来る程には忍耐強い男だった。





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