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日明国
しおりを挟むーーーーーー海の果てとも言える場所に、四季が巡り美しく彩る島国があった。
外の国との交流を絶ち、独自の文明を築き上げていた『日明国』という国である。
独特の衣服や住居、武器に薬に食べ物などから派生した文化や歴史はめざましい発展を遂げたのだが。
たびたび耳に入る外国の素晴らしい技術や文化の話を聞いた当時の帝が、我が国のこれ以上の発展は望めないと判断しついに実行に移した。
日明国を開国したのだ。
しかし本来なら開国の立役者となるべき当時の帝は、開国計画を立案すると。
息子である東宮に、開国立案書の全てを委ねると共に帝の位も譲った。
新たな君主と共に、新たな時代を切り開いたのである。
それが今より十年も前のことだ。
開国してからというもの、異国との貿易を盛んに行い始め舶来品が日明国の主に首都に出回りはじめる。
見たこともない異国の品々は、日明国の国民の心をあっという間に掴むと共に。
新たな文化が出回ることで、さらなる繁栄を極めたのは言うまでもない。
外から入ってくる文化のおかげで、徐々にではあるが着物から洋装に変わり建物も洋館が増えていく。
人々はゆっくりと生き方を変えはじめ、文明開化時代が到来したのだ。
*******
そしてそんな今をときめく開国時代に、首都から少し外れた町においてそこそこ有名な女がいた。
それがホウキを振り回していた女、照葉である。
なぜ有名なのかといえば、理由は大きく分けて二つあった。
照葉は親兄弟どころか、親戚や頼る者すらいない孤児の身でありながら。
首都からはやや離れてはいるが、治安が良く道もきちんと整備されている地域に小さいながらも一軒の店を持ち切り盛り出来ているやり手なのである。
近所の人たちへの挨拶や、付き合いなども欠かさず。
また人見知りしない性格のおかげで、大抵の人とは仲良くなれている。
そのおかげで、知名度がまったく無い状態からの営業にも関わらず。
知り合えた人びとの伝で、地道に顧客を増やしているのだから凄い。
日明国に昔から生息している在来種の花などはもちろん。
最近では人気が出てきている外来種の花も、種類豊富に取り扱うことが出来ているのですこぶる店は繁盛した。
おかげでなんの後ろ楯も無い女一人でも、なんとか暮らしていけている。
そんな花屋の照葉は、性格も器量良しだったが見た目もすこぶる上等だった。
異国の品が町に溢れ、和装から洋装に変わりつつある中で。
特に照葉世代の女たちはこぞって洋装を着ている中(まだまだ富裕層限定、しかし庶民も着れないことはない)。
未だに四季折々に合わせた着物を着ている姿は、日明美人と詠われるほどだ。
腰まである長い黒髪は、まるで光沢のある絹のような艶やかさ。
踏み荒らされていない雪原のような肌。
桜の花びらを浮かべたような色合いの形の良い唇。
星空の煌めきを宿した黒曜石の瞳を持ち。
しなやかな白魚の手足に、女性らしい香気漂う柔らかな肢体。
まるで世の女性の憧れを全てその身に宿したような彼女は、日明国の誉れであるーーーーと誰もが噂する。
そんな彼女は、やはり男たちに非常にモテた。
最初こそは近隣の男たちだけだったが。
噂が広がり、小さな店だというのに人でごった返すほどの賑わいを見せた。
最初こそ商売繁盛と喜んでいたが。
明らかに下心を隠さない男たちばかりの客層で、照葉が心底うんざりしているところに。
素行の良くない男たちまで、冷やかしにやって来るようになってしまった。
一般の男たちは、柄の悪い男たちに恐れをなして照葉から離れてしまう。
そしてニヤニヤ笑う男たちが照葉に手を伸ばしたその瞬間ーーーーそれは起こった。
特に踏み込んだ訳でも、力を入れた訳でもないのに。
照葉が男の手を軽く掴んだ次の瞬間に、男はひっくり返っていた。
男が大柄だったこともあり、地面に背中がついた時にはものすごい地響きが辺りに響く。
何が起こったのかわかっていない柄の悪い男たちが、油断している隙をついて。
全員を投げてはひっくり返すことを続けていたら。
ようやく騒ぎを聞きつけた憲兵隊士がやって来たので、男たち全員を引き取ってもらった。
そしてその憲兵隊士の中に一人だけ、皇族直属の警備隊ーーーー守呉隊が混ざっていたのだ。
国の花形、精鋭部隊と言われる守呉隊。
その中でも郡を抜いて強者の実力者と噂される千樹大和は、明らかに騒ぎの元になっていた照葉に事情を聞こうと直々に声をかけた。
隊の中でも一二を争う強者で高給取り、顔の造りもすこぶる上等なことから。
女性たちに非常にモテると言われている男が、国の誉れと名高い美女と相対したのだ。
当然、周りは色めきたった。
絵から抜き出たような美男美女が、現実でしかも間近で見られるのだ。
まるでお芝居を見ているようだと、騒ぎを聞きつけて新たに集まった人々もうっとりと二人を見つめている。
ただの事情聴取なのだが、そんなことは民衆には関係ない。
めったにない目の保養が出来る、それだけでここへ来た意味があった。
『おかげ様で助かりました』
男たちをいつまでも投げ続ける訳にもいかなかっただろうから、隊士が来てくれただけで場の収拾がつくばかりか。
ゴロツキ連中を片付けてもらえるのだから、とても助かるというものだ。
照葉は事情聴取に応じるべく、精一杯の愛想笑いを見せながら顔を上げた。
するとどうだろう。
大和は照葉の姿を一目見ただけで、仕事熱心だった男が初めて職務放棄して。
照葉を勢いよく抱きしめたかと思えば、男らしく大きな声で愛の告白をしたのだ。
『お前が好きだ!!愛してる!!!』
『・・・・・・・・は?』
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