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再び買い物
しおりを挟むおやつの後の休憩も終わり、二人はそれぞれの仕事に戻……ろうとしたのだが。
横になった疾風を見て、肝心な物が揃っていないことに気がついた。
「聞きたいことがある」
「なんだ?」
「今日、これから作業の続きを行わないとして。明日中に全て終えられるか?」
「問題ねぇな。木はふもとまで切り終えて、半分までは切り株も抜いてる。邪魔になるような石や岩も無ぇし、明日中には全て抜き終えて整地出来るな」
「ではこれから、お前の日用品や衣服。それに寝具も買いにいくぞ」
「は?」
立ち上がりそう宣言した愛枝花に、まどろんでいた疾風は目を点にして驚いた。
声が裏返らないように必死だったのだろう。
通常より低い声が出てしまい、慌てて口元に手を添えるが。
愛枝花は特に気にする素振りも見せず、別のことで疾風を叱咤した。
「は?ではない!寝具も無しにどうやって今夜の寒い夜を凌ぐというのだ?!」
「あー…」
「それに、今は男用の作務衣があるが。明日以降の着替えはどうするつもりだ」
「だよ、な。悪い、うっかりしてたな」
「私も同じだ。暗くなる前に買い物に行くぞ」
早くしなければ、電気が通っていない社では暗くなると灯りをつけるだけで一苦労なのだ。
それに、陽が沈む前に荷ほどきを済ませてしまわないと色々と不便である。
簡単に身仕度を整えた二人は、疾風におぶってもらいひとっ飛びでふもとにたどり着いた。
そこからはリアカーを引っ張り、またも商店街に向かう。
社までの車道が完成するまでは、このリアカーを貸したままにしてもらえることになっているので。
雨や雪が降らない限りは、荷物の運搬が楽になる。
とりあえず今日明日は降りそうにないので、暗くなる前に買い物を済ませなくてはならないだけだ。
もう少しで夕方になり、時間はギリギリだが。ふもとから商店街は近いので、疾風の足ならすぐに帰れることだろう。
とにもかくにも、商店街に着いた二人はまず軽い物から購入し。
最後に寝具一式を手にいれた。畳がすり減っているので、新品の畳マットを買いその上に布団を敷こうと考えた。
そして布団はさわり心地が最高の物で、同じく最高のさわり心地の毛布も購入。
枕は低反発で、フェイクファーの枕カバーも揃えて買った。
これで湯たんぽを使えば、底冷えしすきま風がひどい社でもなんとか眠ることが出来るだろう。
ついでに愛枝花の分の新しい布団一式も購入した。(子供用布団)
「偽物だってわかってても、なんで新品のフェイクファーってさわり心地が最高なんだろうな~?」
「…確かに、抗えないものがある」
社に帰り、買ったばかりの布団カバーに頬擦りするのをはた目で見つめながら。
愛枝花もその肌触りを確かめた。
衣服や布団などのタグを外しながら、買ったばかりの畳マットを敷く。
真新しいい草の匂いが香ってくると妙に心が高揚した。
「今夜の飯はなんだ?」
「身の回りの物を片付けている最中に、もう食事の話か」
「いや、買った手羽先がまだ出てきてないなーと。……そういえば、商店街のやつら愛枝花が昼間に買い物に来ても不思議がってなかったな。なんでだ?」
今日は平日である。いくらなんでも、見た目が子供の愛枝花が昼間に買い物に行くのはひどく目立つはずだ。
それが特に気にされた素振りもなく普通に過ごせていた。
気になった疾風は愛枝花の周囲をクンクン嗅ぎまわるが、アゴにアッパーをくらって畳の上に沈んだ。
「無礼は許さぬといったはずだ」
「お、狼の習性で…匂いでどこか変わったところがないか確認しようとしましたっ…」
「別に隠している訳ではないのだから、口で言えば説明してやるというのに…」
阿呆ここに極まれり。そんなことを心の内で思いながら、わざとらしくため息をはいた。
「種は、この腕輪だ」
「紐作りの腕輪だな。白い石がついて…これが?」
「私が作った。これを身につけている間は、私自身が不自然に見えないように出来るのだ。子供であっても、平日の昼間に買い物に出かけてもなんらおかしくはないのだと。普通の人間に錯覚させることが出来る。…昼間しか使えぬがな」
「太陽の光が力の源ってことか?」
「そういうことだ。しかし、あまり使いすぎては石が容量を超えて壊れてしまう。だからほんの少しの時間しか使えない」
神器とはいえ、大切に使っていたので何百年もの時を越えても未だに使用可能なのだからすごい。
たとえ身の回りの物や食料など、自分で買いに行かなければならない時にのみ使っていただけなのだとしてもだ。
疾風が愛枝花の物持ちの良さに素直に感心していれば。夕食の準備に取りかかるべく、部屋を出ようとしていた。
「あぁ、そうだ。まだ明るいうちに湯浴みをしてまいれ。狼ならば、夜目はきかぬのだろう?」
「そうだな。それじゃ、お言葉に甘えーーーー……待てよ?」
さっそく購入したばかりの寝間着を持って、愛枝花と一緒に部屋を出ていこうとしていたのだが。
先ほどのセリフの一端に、気になるところを見つけた。
「…暗くなる前に帰ろうって、やけに急いでたよな?」
「山の中ゆえ、社に灯りがないと真っ暗で何も手がつけられぬからな」
「いや…狼である俺が夜目だって知ってたし」
「知ろうと思えば誰でも知れることだろう」
「もしかして、俺の為に早く、ぅうっ?!」
「考え違いもはなはだしいぞ」
厚く縫っているとはいえ、疾風の足袋の上に愛枝花の小さな足が容赦なく振り落とされる。しかも踵でグリグリすることも忘れない。うめく疾風をしり目に、愛枝花はそれ以上何も言うことなく厨に向かっていった。
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