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第1章
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しおりを挟む“もう終わりにならない?”
「うーん。あと、もうちょっとかな。」
何度目になるか分からない問いに、キースも何度目になるか分からない答えで返す。
今、私はキースに後ろから抱きすくめられている。
全く意図の分からないキースの条件を不審に思いながらも、これで黙っていてもらえるならと、惑いつつも了承し頷いた。
「《ドライ》……さすがにこのままじゃね。着替えてきて。俺は後ろを向いてるからさ。」
キースが魔法を使ったようで、一瞬風が吹き抜けると水を含んで重かったローブがふっと軽くなり、干していたほかの服も乾かしてくれたようだった。
いつも通りの服装に急いで着替えると座って手招きするキースの腕の中に収まったのだった。
そして、今の状態である。
実際はまだそれほど時間は経っていないのかもしれないが、私の中では永遠の時のように長く感じる。
キースはまだ私を解放してくれない。
「黙ってるから退屈に感じるのかな?じゃあ何か話そうか。何が聞きたい?」
キースも沈黙とこの空気に耐えかねたのかそんな提案をしてきた。
この状況とか聞きたいことなど山ほどあるけれど……
「あ、こうしてる理由?えーとね、俺、定期的に女の子と触れ合わないと死ぬ呪いにかかっててさ。それのためなんだよね。」
まいっちゃうよね。と冗談めかして笑う。
多分というか絶対この理由は嘘だろう。
そんな呪いは聞いたことがない。
先に言われてしまったということはこれ以上は聞いてはいけないということらしい。
自分から聞いておいて何とも勝手だ。
一番聞きたかった事は聞けないが、私も気を紛らわすためにずっと気になっていたことを聞いた。
“じゃあ、キースから魔力が感じられなかったのはどうして?”
命あるものは全てのものが魔力を持っている。
とても希少なものであるが、全ての魔力を消すと言われている魔石も存在するが、それは自分の中にある魔力や周りの魔力まで消してしまい魔法が使えなくなってしまうのであまり利用されていない。
それに、今のキースには魔力が感じられるからその方法でないことは確かだろう。
「それはね、俺が無効化魔法を使える魔術師だからだよ。それを応用して俺の中の魔力を見えなくしてるんだ。どうやってやるのかは起業秘密ね。」
そんな方法があったとは知らなかった。
無効化魔法が使える魔術師自体少ないのでその使用方法は一般に知られていない。
そのような隠密行動にも有利といえる魔法が使えるキースはどれほど能力が高いのだろう。
Sランクであるのも納得がいく。
そんなことを考えていると、キースがふぅと息を吐いた。
「こうやってると弟を思い出すなあ。」
“弟?”
「うん。この前、弟を探してるって言ったけど15歳も歳が離れててね。もう可愛くって、よくこうやって引っ付いてたんだ。」
そう懐かしそうに話すキースはいつもは見せない表情をしていた。
幸せだったことを思い出すときに感じる独特の寂しさを受けているような。
20代くらいに見えるキースの弟は10歳前後なのだろう。
そんな小さい子が所在も分からずに離ればなれになってしまったなど不安で仕方ないだろう。
私は慰めるようにキースの手を握る。
彼の手は冷たくまるで血が通っていないようだ。
「……君はやさしいね。心が痛くなるよ。」
私の背中に顔をうずめる彼のつぶやきは私には聞こえない。
しかし、彼の苦しさが背中を通して伝わってきているように感じた。
私はそのまま、その手を温めるように握り続けた。
しばらくしてキースは立ち上がり、私を離した。
これでよかったのだろうか。
何を出来たとも思えず、不安が募りキースを見つめる。
本当に黙っていてくれるのだろうか。
「大丈夫。心配しなくても誰にもばらしたりしないからね。人には知られたくないことの1つや2つはあるものさ。」
ふっと優しく笑い頭を撫でる。
その言葉はどこかキース自身の事を言っているようにも感じる。
その真意は何かと思い彼を見る。
だが、じゃあ、また明日ね。と手を振るキースはもういつも通りの彼だった。
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