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第1章
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しおりを挟む「はっはっはー!逃げずに来たことは褒めてやろう。決闘の支配人と言われたこの俺、ウィルといざ尋常に勝負だ!」
『俺に戦いを挑むなんて命知らずな。エルザば絶対に渡さない。勝負に勝つのはこの俺だ!』
2人の雄叫びがこだまする。
ウィルはお得意の仁王立ちに腰に手を当て、堂々とした振る舞いだ。
決闘の支配人といくのは如何なものかと思うが。
一方、私はというといつも通りのローブに身を包みただ直立している。
エルザが私の口からいう言葉にうんざりし脱力していたのだが、逆にその態度がふてぶてしさを表していることに私は気づいていなかった。
「おうおう。2人とも気合い十分だな。やっぱり、女をかけた男の決闘っていうのはいいもんだな」
そう感想を述べたのは、ガブリエル。
何故か彼もこの場所に来ていた。
戦闘好きな彼は決闘と聞いていてもたってもいられずに、依頼されていた魔物の討伐を全て午前中に終わらせてきたのだという。
よくやるものだと、ふっと笑いをこぼすとそれがウィルに聞こえてしまったようだった。
「……おのれ。余裕ぶっているのも今のうちだ。すぐに叩きのめしてやる」
そう言うや否やウィルは剣を抜き、斬りかかってきた。
始まりの合図などは存在しないのだろうか?
そもそも、この決闘の終わりも分からない。
相手に1撃入れれば良いのか、はたまた死するまで決着がつかないのか。
どちらにしても、まずは向かって来る相手に応戦すべく私も剣を抜いた。
結果として、勝負がついたのは一瞬だった。
私とウィルの剣が交わった瞬間、一本の剣が宙を舞った。
そして、私の手にはしっかりと握られたままの剣があった。
ウィルは決して弱くはなかったと思う。
素早い動きで私の懐に潜り込もうとしてきた。
しかし、私がそれを上回る速さで回避し、ウィルが斬りこもうと剣を握りなおす瞬間を狙って剣を合わせたのだ。
私は、呆然としているウィルに剣を突きつけた。
「勝負あり!!勝者リュカ!」
何処からか、そんな声が聞こえてきた。
審判をつけていたのか、などと思っているとその人物はウィルに肩を貸した。
「ほら、帰りますよ。そもそも、貴方が剣技で挑もうとするのが間違っているんですよ。リュカさん、うちの者がどうもご迷惑をおかけしました」
終始笑顔でそういった青年は、礼儀正しくウィルと共にその場を去っていった。
その笑顔は、どこか胡散臭さを感じるものであった。
「あれ?終わったの?随分と呆気なかったわね」
エルザが拍子抜けしたように言った。
私の戦い方は短期決戦型。
勝利するときは、一瞬で決着がつく。
長々と戦いを続けていると私の弱点であるあのことがバレてしまい不利になる可能性があるからだ。
それほど戦い慣れしていないエルザはウィルの強さをあまり分かっていないようだった。
その点、戦闘好きのガブリエルはウィルの実力も分かった上で勝利を讃えてくれた。
「よくやったな!いい戦いだったぞ。俺に勝てるようになる日も遠くないんじゃないか?これなら、安心してエルザを任せられるな!」
彼氏うんぬんは口実だから。などと思いながらもいつもの陽気なガブリエルの冗談だと思い3人で笑い合った。
その時、ガブリエルが豪快な笑顔の折に神妙な顔つきをしていたのだがそのことに私は気づいていなかった。
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