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第1章
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しおりを挟むエルザは誰にも分け隔て無く接し、少々強気で姉御肌な性格だ。
その上、絶世の美女とは言わないまでも気の強さを表わす様なつり目に整った顔立ちで美人の部類に入るだろう。
そのため、告白されることは少なくなかったのだが…
「いい加減、俺の妻になれ!何だってさせてやるぞ!」
こんなに強引で諦めの悪いしつこい人は私の知る限り初めてだ。
大体は1度告白すると諦めて去っていくか、友人として良い関係を続けるかだった。
しかし、この男はこれでもう10度目。
そして、エルザの答えはというと…
「ごめんなさい。本当に嬉しいんだけど、あなたとは結婚できないわ」
これも10度目。
相手を気遣いながらも、しかしきっぱりと断る。
遠回しにでは無くはっきりと結婚できないと何度も言われているというのに、諦めないとは。
彼は相当心が強いのか、相当自分に自信を持っているのか。
「……何故だ。何が不満なんだ。理由を、望みを言ってみてくれ……」
あれ?
今日は彼の反応がいつもと違う。
彼は毎回その返事を聞くと一方的に、「俺の妻になれば好きなだけ贅沢させてやるぞ。服も宝石もディナーだってうんぬんかんぬん……」と一人演説が始まる。
しかし、エルザの意見を聞くという今までにない行動をした。
そして、そう言った彼はいつもの自信に満ちた表情では無く、焦りも含んだ表情をしている気がした。
「……なんかこれ、明日はもっと断るのが難しくなりそうだわ。今、手を打っておいた方がいいかしら。……リュカ、悪いんだけどちょっと付き合ってもらうわよ」
何やら一人でブツブツと言っていたエルザが、私に小声でそう伝えてきた。
何を?
そう思った瞬間、エルザは私の腕を抱き寄せながらこう言った。
「実は私、この人とお付き合いしているの。だから、あなたとは結婚できないのよ」
「!?」
「!?」
私と彼の驚きが重なった。
彼は目を大きく開き身体を強張らせ、驚愕がありありと伝わってくる表情をしている。
私も彼と同じ表情をしているのだが、ローブのフードを目深に被っている私の表情に彼は気付かないだろう。
はっと、我に返った私は素早く書き綴る。
“ちょっと!いきなり何言ってるの!?”
「ごめんって。だってあの人、全然諦めないから。そろそろこの町も出るし、はっきりさせて置きたくて。お願い!彼氏のふりして!」
彼女はそう懇願してきた。
確かに、ここまでしつこい相手には付き合っている人がいると言った方が良いかもしれない。
そう思い、私は渋々うなづいた。
「ありがとう!さすが、リュカね。じゃあ、さっそく……」
エルザは嬉しそうにそう言うと、まだ驚きで呆然としているかれに私の口でこんなことを言い始めた。
『今まで黙って聞いてきたが、もう我慢の限界だ。かわいい子猫ちゃんをこれ以上困らせないでくれないか。それに…エルザは俺のものだ!』
ちょっ、何てこと言ってるの!?
甘すぎるというかなんというか。
聞いている方が恥ずかしくなってくる。
というか、これを私の口から言っているのか…
何てこと言っているんだという視線をエルザに送ったが、さらに強い目力で抱きしめろと合図を送られたので仕方なく従う。
それを見た彼は唖然としていたが、急に苛立ち始めた。
「そんな男のどこがいいと言うんだ!陰気臭くてそんな恥ずかしいこという奴より俺の方がよっぽど良いじゃないか!」
それには私も同感するよ。
しかし、エルザはその言葉にピクリと反応して笑顔を固まらせた。
そして、何故か気を悪くした様でウィルに少し冷たく言い放った。
「あら。リュカの方があなたよりもよっぽど強いと思うけど。かっこいい人なんだから」
あ、そうか。
あれは、エルザの男性の理想像だったのか。
だから、否定されて苛ついているのだろう。
そんなことを他人事のようにぼうっと思っていた。
すると、今度はウィルがエルザの言葉に反応して言葉をこぼす。
「……なに?俺より強いだと?……なら、勝負だ。俺と勝負しろ!……我が名はウィル。リュカ、お前に決闘を申し込む!」
それは気を抜いていた私を一気に引き戻すような事だった。
は?
私、この人と決闘しなきゃいけないの?
どうしてそうなった!?
いまいち展開が把握できていない中ではあるが一つだけ分かったことがある。
今まで知らなかったのも不思議なことだが、この人の名前がウィルという事だ。
そんなことを考えて、私は現実逃避を図っていた。
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