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第2章

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「うわあ。さすがにすごい人の数だね。明日はどうなっていることやら」

 目の前に行き交う人達を見て、キースは感心したように声を上げた。
 私たちは無事に王都へと入ることができ、その街の中でも中心部に来ていた。
 色々な店が建ち並ぶ、大きめの通りには注意しなければ肩がぶつかってしまいそうなほどに人がひしめいていた。
 それもそうだろう。明日がパレードの当日なのだから。

 私たちは順調に歩みを進めていたのだが、なんだかんだいって王都にたどり着いたのはパレードの前日になってしまっていた。
 そのせいか、王都はものすごい人で溢れかえっていた。
 第二王子が王位に就くことは大変にめでたいことだということで、この国の人間であれば王都への入都をほとんど制限していなかった。
 そのため、こんなにも人が集まってしまったということもあるのだろう。

 でも、入都を制限しないなんて第二王子はとんでもない自信を持っているようだ。
 そんなことをしては危険な人物が侵入する可能性が増えるかもしれないのに。
 第二王子は自分に害を与えるような人間はいないと思っているのか、警備に相当な信頼をおいているのか。
 前者であるならば油断してくれているということなのでこちらにとってはありがたいことだが、恐らく後者だろう。
 厳重な警備の中、どうしたら第二王子に近づくことが出来るのか考えなければならない。

 パレードのルートは王都で購入した新聞に載っていた。
 私たちはとりあえず、そのルートに沿って歩いてみることにした。

 そのルートをまわりきるのは時間にして1時間ほど。
 その間に全てが終わる。
 襲撃に良さそうな場所はいくつかの目星を付けることが出来た。
 後は絶対に失敗しないように作戦を綿密に練るだけだ。

「とりあえず、今日、泊まれるところを探しましょうか」

 “そうだね。こんな物騒な作戦、外じゃ大きな声で話せないからね”

 第二王子のパレードを襲撃するなんて誰かに聞かれたら大変なことになってしまう。
 ましてや、この国では住人のほとんどが第二王子の国王即位を望んでいるという。
 そんな人達に少し感づかれただけでも、作戦を実行する前に面倒なことになってしまうことは十分に予想できた。



 ………だが、宿を探し始めて4件目、代表で宿に空室状況を聞きにいったジェラールが戻ってくると、残念そうな表情で首を振った。

「ここも駄目でした。分かってはいましたが、パレードの前日ともなるとすごいものですね。この調子だとどこも満室でしょう。今日くらいはゆっくり身体を休められたら良かったのですが」

 そうか。訪れる人の多い王都には十分すぎるほどの宿屋があるはずなのだが、今は祭りの前日。
 普段は王都に訪れることのないような人々もここに足を運んでいるんだろう。
 ジェラールが持つ証書を使えば泊まれるところもあるんだろうけど、第二王子にも悪魔にも勘づかれる危険があるのでそれは使えない。
 今日もまた野宿になるのかもしれないが、それも仕方のないことだろう。

「そうだな。中心部から離れたところになら廃墟があるだろうし、そこでなら話を人に聞かれる心配もないだろう。多少の雨風も防げるだろうし。それじゃあ、探しに行くとするか」

 意外にもそう提案したのはウィリアム様だった。
 以前は野宿をとても嫌がっていたのに、今は少しの時間も惜しいというように文句の一つも言わなかった。
 彼も良い意味で成長し、変わってきているのだろう。

 ウィリアム様の提案には私も賛成だ。
 ただ、そういう場所は人が少ないけれど、少ないことが無法地帯となる原因となっていることも多い。
 治安はかなり悪いと思うが、森の中で眠ると考えれば警戒の程度は同じだ。
 とにかく早く、明日の計画を煮詰めたかった。

 私たちは無駄な時間はないというように、廃墟があるエリアに足早に向かおうとした。
 しかし、何故かキースだけはその場に立ち止まったまま動こうとしなかった。
 思えば、宿探しの時からほとんど何もしゃべっていなかったような気がする。
 大抵のことは何でもすぐに口にするキースが、何かとても言いにくそうに迷っているようだった。

 “キース、どうかしたの?何かあるんだったら僕たちに言って欲しいな”

 私が振り返りキースにそう声をかけたことで、つられてウィリアム様とジェラールも振り返る。
 少し俯きがちに立ち尽くしているキースのもとへ、私たち3人は心配して駆け戻った。

 そんな私たちが近づいていく様子を見たキースの表情は柔らかくなり、いくらばかりか強張っていた肩の力がすっと弱まったような気がした。
 そして、目の前に来た私たちにキースはいつもの調子と同じように声を掛けた。

「ああ、そうだ。ちょっとした提案なんだけど、君たち、俺の家に来ないかい?宿代もかからないし、ここからそう遠くないんだ」

 努めて、そんな風に軽い口調で言ったキースの瞳は、そんな様子とは対照的に覚悟を決めたような色を宿していた。


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