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第2章
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しおりを挟む35歳と言ったキースの顔をまじまじと見返してしまった。
童顔といっても説明が出来ないような見た目との違いである。
顔の作りだけでなく、若さ故のはりといったものや色の鮮明さがあるように感じられる。
本当に20代で時が止まってしまったような。
「35歳って私のお父さんとそう変わらないじゃない。信じられないわ!でも、そうだとしても困ることはないんじゃないの?永遠の若さって誰もが憧れるものだと思うけど……」
そうだ、ガブリエルは38歳だった。
そう考えるとさらに信じがたいものを見ているようだ。
エルザの言うことは当事者のキースに対しては不謹慎だと思ったが、確かに一理ある。
時の停止という状態は異常で外見が変わらないことで生じる不便もあると思うが、キースの全身を覆う蔓よりは問題ではないような気がするからだ。
「うん、確かに俺の今の状態をうらやましく思う人はいるかもね。でも、自然の摂理にあらがうようなことにはそれ相応の代償がつくものなんだよ。若い状態のまま維持するっていうのは多大なエネルギーを要する。それが外見からは分からないけど、見えないところで身体を蝕んでいるんだ。俺の身体は後1年も持たないかもしれないね」
キースはまるで軽口のように言ったがいつもの冗談のようには笑っていなかった。
これは冗談ではなく、事実ということなのだろう。
キースは諦めたというよりは仕方がない事だと言う様に息を吐いた。
「だから、この1年で絶対に片を付けなければならない。そのために君たちの協力が必要なんだ。巻き込んでしまって本当にすまないと思っている。でも……どうか力を貸してくれないだろうか」
そして今までに見せたことのない真剣な色を宿した瞳で私たちをまっすぐと見つめ、深く頭を下げた。
「今更なんだ、キース。俺はお前に協力するとずっと言っていただろう。当たり前だ!」
「ええ、分かりました。あなただけでは為し得ることが出来なさそうですから、私もお手伝いしましょう」
「私たちに任せなさい!!」
皆は考える間もいらないというように即答した。
私も皆と同じ気持ちだ。
思いを言葉にして伝えようと私も声を出した。
“一緒にヒースを取り戻しに行こう”
そして皆の言葉を聞いて頭を上げたキースは泣きそうに笑っていた。
「皆、ありがとう……」
その表情はどこにも取り繕ったところはなく、キースの本心が垣間見えた。
きっとキースは私たちに話した事実以上の苦しみを心に宿しているのだろう。
その苦しみの全てを分かる事なんて出来るはずがないのだから、せめて私が受け取れた分だけは一緒に乗り越えていこうとそう思った。
「ところでキースさん。先ほどから疑問に思っていたのですが、ではあなたが悪魔に襲われたというのは一体いつの話なんですか?ずいぶんと昔のように聞こえますけれど」
ジェラールが湿っぽい雰囲気は嫌いだとでも言うように、話を無理矢理戻す。
でもジェラールもいつもの笑っているけれども笑っていない様な笑顔ではなくて、ほんの少しだけ柔らかい表情になっているような気がした。
ウィルとエルザは情緒のないようなその発言にえっという顔をしていたが、そのことについては私も気になっていた。
キースとヒースが悪魔に襲われたのは2人の見た目からつい最近の事だとばかり思っていた。
でも、見た目と実際の年齢にギャップがあるということは、それだけ昔に起こったことだということなのだ。
“もしかして、ヒースの身体も時間が止まってるっていうこと?”
「うん、その通り。俺はその時23歳でヒースは8歳だった。今もその時の姿のままなんだ。そうか、もう随分と昔のことになってしまったんだね。あれはもう12年も前のことだよ」
「12年!!」
ウィルが驚いて大きく目を開いた。
私も他の2人も声は出していないが、相当に驚いている様子が分かった。
キースは12年もの間、誰にも頼ることなくずっと一人で戦い続けていたのか。
そんなの辛すぎる。
“これからは私たちも一緒に戦うからね”
私はもう考えることなく自然にキースに言葉を伝えていた。
伝えたいことを伝えたいときにすぐに伝える。
少しも遅れてはいけない。
その一瞬一瞬が大切であり、そこを過ぎてしまうとまた別のものになってしまう。
人と人とのつながりはそれだけ繊細なものだから。
キースが悪魔に襲われたのが昔の話だとすると、少し違和感を抱いていた話が繋がった。
キースが初めて私たちに悪魔に襲われた話をしたときに、この悪魔の種による死を今までになかった珍しい事件というような言い方をしていた。
しかし、最近は各地で身体に植物が生えたことで死亡する事態が多く報告されている。
キースが襲われたその時から種による攻撃が始まったとすると自然に聞こえる。
それでも、キースが12年もの間戦ってきて倒せなかったものを私たちが増えたからといって1年で討伐できるものなんだろうか。
そのためには有効な策を練ることは必須だ。
でも私たちは悪魔のことについて知らなさすぎる。
まずはそれをキースから聞かないと。
伺うようにキースに視線を向けると、私が言葉を発する前に頷き説明を始めた。
「悪魔は元をたどれば闇属性の魔物なんだ。だから、有効な対抗手段は浄化魔法だ。俺は何年もかけて魔力を集めて溜めて、浄化魔法を何倍にも強化する魔法道具を作り出して奴を消滅させようとしたんだ。でも、この12年で悪魔は力を着々と取り戻していたみたいで俺の最後の手段は失敗に終わったんだ」
「それで、そんな悪魔をどうやったら倒せるというのですか?」
「分からない。俺の最後の手段も通用しなかったと言っただろう」
端的に悪魔を倒す手立てがないとキースはそう言っているのにも関わらず、どこか余裕を持ったように話す。
私は思わず笑みがこぼれた。
対してジェラールは怪訝な顔をしていたが。
人を食ったように話すキースを見て、彼がいつも通りに戻ってきていることを嬉しく思ったのだった。
「実際、俺も悪魔のことをよく分かっていなかったんだ。悪魔がどうやって力を付けているのかも何が目的なのかも仮説の域を出ない。だから、悪魔に詳しい人物に会いに行こうと思うんだ。ついてきてくれるかい?」
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