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第2章
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しおりを挟む私が皆に声を伝えることが出来るようになるなんて。
私の中には戸惑いよりも嬉しさが勝っていた。
私が声を出せない原因は身体ではなくて精神の方だと言うことは分かっていた。
それでも自分がどんなに伝えたくても自分でどんなに声を出そうとしても私の口からは音を出すことが出来なかったのだ。
私の中に埋め込まれた恐怖の感情がそれを拒んでいたから。
だから、伝えるという手段は文字を綴ることでしか出来ていなかった。
人と関わるようになって、この人と話が出来たらどんなに楽しいのだろうと思っていた。
「リュカ!話せるようになったのか!もっと何かしゃべってみてくれ」
「あら、駄目よ。リュカは私と話すのよ。私、ずっと昔からリュカとおしゃべりしたいと思っていたんだから」
「まるで頭の中に直接声が届いているような感覚。どうなっているんですか?」
私以上に興奮した3人が矢継ぎ早に話しかけてくる。
そんなことを言われても私が一番混乱して訳が分からないのだ。
それにこんなに一気に話しかけられた事なんてないからどうしたら良いのか分からず、私はおろおろと3人を見回し戸惑う。
それでも、皆が私が話せるようになったことを喜んでくれていていることがとても嬉しかった。
「こらこら3人とも、リュカが困っているよ。ちょっと落ち着いて」
その様子にキースが呆れたように間に入る。
皆は私の様子を見てはっとしたようにのめりだしていた身を少し引いた。
「で、キース、お前が何かしたんだろう?これは魔法道具なのか?」
ウィルが冷静になったようで自分のしている腕輪を見ながらキースにそう問いかけた。
今までどうやっても声を出せなかった私が急に何の前触れもなく話せるようになることは難しい。
どうやら私は正確には声を出せるようになったのではなくてどういう仕組みか皆と会話が出来るようになったと言うべきだろう。
「これが魔法道具なのですか?ですが、こんなことができる物見たことも聞いたこともありません」
「うん、俺の手作りの魔法道具だよ。まだ出来たばっかりで改良が必要だけど、きっと役に立つと思ってね。皆、渡した魔法道具を見てみて。そこに蒼い石がはめ込まれているでしょ。それに伝達の魔法式を組み込んでいるんだ。リュカのが送信用でそれ以外が受信用。伝えたいって気持ちで魔法が発動して他の人に声となって届く仕組みだよ」
続けてキースに尋ねたジェラールはその回答に驚いているように見えた。
そうか、皆はキースが魔法道具をつくっていたことを知らなかったんだ。
私はキースにあの秘匿の魔法を組み込んだ魔法道具を貰っていたから納得してしまっていたけど、魔法道具をそんなに簡単につくってしまう人など珍しい。
それに、既存の物ではなく自らでつくり出してしまうなど、高い技術がないと出来ないことだ。
それなのに、キースならそんなことが出来ても不思議ではないような気がしていたから特に考えていなかった。
でも、よく考えたら凄いことなんだなあ。
ジェラールはキースとそれほど関わりがあったわけでもなかったので、意外に思ったのだろう。
「キースさん、あなた一体何処まで優秀なんですか?」
「さあ、どうだろうね。リュカと話せるようになったんだから細かいことは気にしないでよ。さて、皆がリュカと話したい気持ちは分かるけれど、俺が話さなければいけないことを話し始めても良いかい?」
ジェラールの問いを軽い様子で受け流したキースは、その後に続けてまじめな表情でそう言った。
少し緊張しているようにも見えるキースは私たちが聞きたかったことをついに言おうとしているのかもしれない。
私たちを巻き込む覚悟を決めたように息をはいてキースは話始めた。
「まずは俺のことについてもう少し詳しく説明するよ。俺の身体には悪魔の種から出た蔓が張っているんだけど、それは主に身体の右側なんだ。心臓を守るために左胸には結界のような物をはっているからそこを避けるようにしてるんだろうね。種は俺の右肩に埋め込まれていて、そこから右腕は指の先まで、それと首から顔の方は右目まで。皮肉なことに右腕は魔法を無効化するのに一番役に立っているよ」
キースは仮面と右手にしていた手袋を外した。
右腕には痛々しいほどに、そして右目は閉じた状態で開くことは出来ないように黒い蔓が覆っていた。
「この蔓はさ、どうやら魔力を吸い取って魔法を無効化と同じ状態にしているみたいなんだよ。幸い、俺は魔力コントロールにたけていたからこの蔓に自分の魔力を吸い取られないように出来た。逆にその溜め込まれた魔力を使ってやったりもして今まで生き残ってこれた」
仮面と手袋を付け直しながらキースはそう続けた。
淡々と話をするキースに誰も口を挟むことはない。
本当にキースはどれだけ優秀な魔術師なのだろうか。
キースがやってきたことのどれ一つとっても常人にはなしえないことだろう。
「でもね、そんな俺でもあらがえないことがあったんだ」
キースは話を一度止め、私たちを見渡すようにして問いかけた。
「ところでさ、俺って何歳に見える?」
そう言うキースは試すように無邪気に笑って見せた。
唐突になんで今、そんな質問をするんだろう。
キースはどこか達観したようなところあり大人な雰囲気もあるが、見た目からすると私たちと同じくらいか少なくとも20代くらいだろう。
「私たちとそう変わらないように見えますが、違うのですか?」
ジェラールも質問の意図は分かっていないようで逆に聞き返しながらそう答えた。
私たちもその答えに頷く。
するとキースはまるでいたずらが成功したときのように笑い、正しい回答を続けた。
「残念、はずれ。俺の実際の年齢は35歳なんだ。見えないでしょう?俺の身体はあの時から時が止まってしまったんだよ」
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