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それから2週間ほど経った頃でしょうか、私はソレルから呼び出され、王宮の庭園にあるガゼボにきておりました。
「ルピナ、君には失望したよ。君は優秀な婚約者だと思っていたんだけどね。ウルティカへの嫌がらせや暴言の数々、私が気づいていないとでも思ったのかい?男爵家の令嬢に嫉妬で狂うなんて、侯爵家の令嬢として恥ずかしいことだと思わないのかい?」
「殿下が何をおっしゃられているのか、私にはさっぱりわかりませんわ。私は大変優秀な婚約者ではありますが、ありもしないことは流石にわかりかねますわ」
そういうと、私はテーブルに用意されていたティーカップを手に取り、程よくぬるくなった紅茶を口にしました。
「この紅茶、生温いですわね」
「……君が遅刻するからだろう。そんなことより、自分の罪を認めたらどうなんだい?」
「いれなおしていただけるように頼んでもらえます?」
「そんなことはどうでもいいだろ、私の話はまだ終わっては……」
「紅茶、いれなおしていただいてくださいな」
「……はぁ。わかったよ、紅茶をいれなおしたら、話をするんだな」
「お早くお願いいたしますわ」
ソレルは溜息をつくと、テーブルの上にあったベルを鳴らして使用人を呼び寄せ、紅茶をいれなおさせた。
「完璧ですわね。流石は殿下の専属の方、良いお仕事をされますのね」
いれなおされた紅茶は、まさに完璧で、私の理想のお味でした。
さてと、目の前で笑顔の下に怒りを浮かべている、このしょうがない男とのお話を再開せねばなりませんね。
「それで?なんのごようでしたかしら。殿下がついにおかしくなってしまったというお話だったかしら?」
「……君が、ウルティカを虐めているという話だよ」
「まぁ、そうなのですね。初耳ですわ」
「そんなわけがないだろう!さっきから、君は、のらりくらりといい加減にしたまえ!」
「あら?いい加減にするのは貴方の方ではありませんか?ソレル殿下。私はこれでも侯爵家の人間ですのよ?下級貴族を虐めた程度で私を罰するなどとおっしゃるなんて、阿呆になったのでなければなんだというのかしら」
「下級貴族といえど、王家を支える貴族のひとりだ。将来、王家の人間になる者が、大切な部下のひとりをないがしろにするなんて許されないことだ」
「王家を支えるのは貴族の仕事、確かにそうですわね。だけど、彼女は元々平民でしょう?それも男爵家とは血のつながりもないお方。このまま貴族と結婚すれば貴族の一員ともなりえるでしょうが、彼女はまだ婚約もされていないのでしょう?それならば、貴族のひとりというよりは、民のひとりと定義する方がよろしいのではないかしら」
「そんなことは些細な問題だ。貴族であれ、民であれ、人を傷つける行為は許されないことだよね」
「まぁ、では、殿下も私を傷つける行為はやめていただけます?」
「君は傷ついたりなんかしないだろ」
「あら、ひどいわ、殿下。私だって乙女ですもの傷つきもしますわ。私、貴方と婚約させられて大変傷つきましたのよ」
「くっ、それはこちらの台詞だ。どうして私が君なんかと婚約しなければならなかったんだ。どうせ君の父上の差し金だろ。そんなに権力が欲しかったのか?」
「えぇ、欲しかったわ。私、この国で1番偉い女性になりたかったのですもの。だから、我慢したわ私。貴方みたいな腹黒とは結婚したくなかったのに」
「は、腹黒?」
「えぇ、そうでしょう?あなたのことよ。出会ったときから気づいていたわ、あなたの性格最悪だって」
「あちっっ!!!」
カップに入った残りの紅茶をソレルの頭からかけてやると、幾分か気分がスッキリしました。
私に発言に驚いたのか、それとも行動に驚いたのか、呆然と立ち尽くす彼を置いて、私は庭園を出ました。
それにようやく気づいた彼は「待て」と私を呼び止めようとしましたが、私は完全に無視して立ち去りました。
これでも良い婚約者を演じてきたので、ソレルに逆らったこともなければ、暴言を吐いたことも、ましてや、紅茶を頭からかけるなんてことは一度もしたことがなかったからでしょうか。
あんなに驚くなんてこちらが驚きました。
もしかして、あの男は私に多少は愛されているとでも勘違いしていたのでしょうか。
自意識過剰にもほどがありますね。
まったく。
「ルピナ、君には失望したよ。君は優秀な婚約者だと思っていたんだけどね。ウルティカへの嫌がらせや暴言の数々、私が気づいていないとでも思ったのかい?男爵家の令嬢に嫉妬で狂うなんて、侯爵家の令嬢として恥ずかしいことだと思わないのかい?」
「殿下が何をおっしゃられているのか、私にはさっぱりわかりませんわ。私は大変優秀な婚約者ではありますが、ありもしないことは流石にわかりかねますわ」
そういうと、私はテーブルに用意されていたティーカップを手に取り、程よくぬるくなった紅茶を口にしました。
「この紅茶、生温いですわね」
「……君が遅刻するからだろう。そんなことより、自分の罪を認めたらどうなんだい?」
「いれなおしていただけるように頼んでもらえます?」
「そんなことはどうでもいいだろ、私の話はまだ終わっては……」
「紅茶、いれなおしていただいてくださいな」
「……はぁ。わかったよ、紅茶をいれなおしたら、話をするんだな」
「お早くお願いいたしますわ」
ソレルは溜息をつくと、テーブルの上にあったベルを鳴らして使用人を呼び寄せ、紅茶をいれなおさせた。
「完璧ですわね。流石は殿下の専属の方、良いお仕事をされますのね」
いれなおされた紅茶は、まさに完璧で、私の理想のお味でした。
さてと、目の前で笑顔の下に怒りを浮かべている、このしょうがない男とのお話を再開せねばなりませんね。
「それで?なんのごようでしたかしら。殿下がついにおかしくなってしまったというお話だったかしら?」
「……君が、ウルティカを虐めているという話だよ」
「まぁ、そうなのですね。初耳ですわ」
「そんなわけがないだろう!さっきから、君は、のらりくらりといい加減にしたまえ!」
「あら?いい加減にするのは貴方の方ではありませんか?ソレル殿下。私はこれでも侯爵家の人間ですのよ?下級貴族を虐めた程度で私を罰するなどとおっしゃるなんて、阿呆になったのでなければなんだというのかしら」
「下級貴族といえど、王家を支える貴族のひとりだ。将来、王家の人間になる者が、大切な部下のひとりをないがしろにするなんて許されないことだ」
「王家を支えるのは貴族の仕事、確かにそうですわね。だけど、彼女は元々平民でしょう?それも男爵家とは血のつながりもないお方。このまま貴族と結婚すれば貴族の一員ともなりえるでしょうが、彼女はまだ婚約もされていないのでしょう?それならば、貴族のひとりというよりは、民のひとりと定義する方がよろしいのではないかしら」
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「まぁ、では、殿下も私を傷つける行為はやめていただけます?」
「君は傷ついたりなんかしないだろ」
「あら、ひどいわ、殿下。私だって乙女ですもの傷つきもしますわ。私、貴方と婚約させられて大変傷つきましたのよ」
「くっ、それはこちらの台詞だ。どうして私が君なんかと婚約しなければならなかったんだ。どうせ君の父上の差し金だろ。そんなに権力が欲しかったのか?」
「えぇ、欲しかったわ。私、この国で1番偉い女性になりたかったのですもの。だから、我慢したわ私。貴方みたいな腹黒とは結婚したくなかったのに」
「は、腹黒?」
「えぇ、そうでしょう?あなたのことよ。出会ったときから気づいていたわ、あなたの性格最悪だって」
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あんなに驚くなんてこちらが驚きました。
もしかして、あの男は私に多少は愛されているとでも勘違いしていたのでしょうか。
自意識過剰にもほどがありますね。
まったく。
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