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過去編5

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16歳になったら、貴族の女性はデビュタントを迎えるのがこの国の常識らしく、私もその例に漏れず、デビュタントに参加することになりました。

私は彼から贈られたピンク色のドレスを着て、エスコート役は男爵家のお兄さんがしてくれました。

この機会にお兄さんと少しでも仲良くしたいと思いましたが、話しかけても「はい、そうですね」と頷きを繰り返すばかりで、私と話したくないのだろうことはハッキリとわかったので、流石に私も話しかけることをやめ、窓の外を眺めることだけに集中しました。

ですが、退屈ではありませんでした。

窓の外は、街が広がっていて、生まれた村から出たことがなく、男爵家に入ってからもほとんど屋敷の外には出してもらえなかった私は、街の景色がとても珍しくて、男爵家のお兄さんのことなど、途中からすっかり忘れていました。

会場に着くと、私は教師に言われた通りに、貴族として礼儀正しく振る舞い、私を養子にしてくれた男爵家の恥にならぬよう、精一杯努めました。

ですが、何故だか、会場内の周囲の人間からは嫌悪を示されたり、馬鹿にされたりしているのが、遠回しに嫌味を言われたりすることから、よくわかりました。

元平民だから馬鹿にされるのだろうか。

心配してお兄さんの方をみると、いつの間にやら、いなくなってしまっていました。

ひとりだと心細くて必死にお兄さんを探していると、彼がとびきりの美人を連れて、会場へ入ってきました。

周りの貴族達は口々に彼と彼女がいかにお似合いで美しいかを語っているようでした。

私は、どうしたらいいかわからず、その場で立ち尽くしてしまいました。

私が運命の相手なのに、その隣にいる彼女は誰?婚約者?どういうこと?

それより、なにより、彼は王太子?ただの高位貴族なのではなかったの?

疑問が頭の中をぐるぐると回っていると、彼が、いえ、王太子殿下が私の前に来ました。

彼は自分の贈った私のドレスを褒めると、少し待っていてと言われました。

言われた通りに離れたところで見ていると、彼女が何かを言い、それに彼は微笑んで、彼女の手を取り、ダンスを踊り始めました。

彼の微笑みをみて私は思いました。

あの微笑みは嘘だと。

彼が彼女のことを嫌っているのは明らかでした。

だけど、悔しいくらいに二人の姿はお似合いで、ダンスもふたりとも息ぴったりでした。

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