攻略キャラは王子様の息子様

白雪狐 めい

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「まぁ、ルビーがそんなことを?失礼をして大変申し訳ありませんでした、陛下」

あの後、すぐに私を探していた母が現れ、ディナール様に謝罪をした。

「はは。気にしないでくれ。こんな可愛いお姫様にプロポーズされて、嬉しかったくらいさ」

そういって私にディナール様はウインクをした。
……あぁ、やっぱり好き。かっこいい。そうだ、一夫一妻でなければいけないというのなら、王妃様が不慮の事故か病気か何かで死んでしまえばいい。
……ってこんなこと考えちゃダメだよね。王妃様が死ねばきっと彼は悲しむ。愛する人の幸福を願わない人間に彼を愛する資格も愛される資格もないに決まってる。でも、それでも考えてしまう。あぁ、どうしたらいいの?
そんな風にうんうんと悩んでいると、美しい女性が男の子を連れてこちらへやってきた。

「ソフィ、久しぶりね。元気にしていた?……あら?もしかしてあなたがルビーちゃんかしら?私の名前はクローナというのよ、よろしくね」

そういって私の前にしゃがみ込みわざわざ私と視線を合わせて手を差し出してきたのは、おそらく、この国の王妃様。そう、私の王子様の妻だ。
差し出された彼女の手を私は握り返さなかった。そして、そのまま私は何も言わずに、母の後ろに隠れた。

「ルビー、どうしたのですか。王妃様がわざわざご挨拶をしてくださっているのですから、きちんとご挨拶をなさい」

母が厳しい声で私に言うが、私は母のドレスの陰に隠れながら首をただ、横に振った。挨拶を返さないなんてレディとして失格だ。そんなことはわかってる。それでも今はこの人に笑顔で挨拶なんてできそうになかった。

「あまり怒らないであげて、ソフィ。ルビーちゃんは、まだ幼いのだから、そういう気分じゃないときがあるのよ。それにソフィ、私とあなたの仲でしょう?他人行儀に王妃様なんて呼ぶのはやめてほしいわ」
「ですが、王妃様」
「ソフィ。いい加減にしないと怒るわよ?」
「……わかりましたわ。クローナ」
「はい、よろしい」

どうやら、私の母とクローナは仲が良いようだった。ふたりの間に流れる雰囲気はとても柔らかかった。
前世の記憶によるとソフィこと私の母サファイア・ダックワーズはゲームの中では、ディナール様ルートの主人公のライバルでディナール様の婚約者だったはずだ。現世でも母が婚約破棄されたって話しは聞いてはいる。それが一体何があったらライバルふたりが和解し、仲良くお話ししているのか。わけがわからない。

「そういえば、紹介が遅れてしまったわね。この子の名前はディルハム。私の息子よ。仲良くしてあげてね」

クローナの後ろについて一緒にやってきていたディルハムは、ディナール様にとてもよく似た顔だちをしていた。
もっと言うなればディナール様を幼くしたような容姿をしていた。
これには流石の私も胸が高鳴った。ミニチュア版とはいえ、見た目は完全にディナール様だ。ときめかないわけがない。
思わず、母上の背後からそっと出て、ディルハム様に向かってにっこりとほほ笑む。
するとディルハム様はそんな私に対してしかめ面をしてそっぽを向くとどこかへ走って行ってしまった。
ショックだった。ミニチュア版とはいえディナール様のコピーにそんな態度をとられるなんて、信じられなかった。
そのまま彼が走り去ったほうを呆けた様子で見ていると、先ほどとは逆に今度は、クローナとディナールが母上に対して謝っていた。
ふたりは私に対しても照れていたからだの、恥ずかしがり屋だからだの、とディルハムの態度を擁護していたが、私としてはそこまで気にはならなかった。
あの態度にはびっくりしたし、ショックも受けたが、よくよく考えれば、特に気にする必要はない。
私が好きなのはディナール様で、彼ではない。
私の人生において、彼は特に関係がないのだから。

そう、そのときはそう思っていたのだけれど、その数日後には、サファイアとクローナの仲良しママ友の企みによって、私はディルハム様と婚約をさせられることになってしまった。
あぁ、なんてこった。
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